平成04年04月16日 参議院 運輸委員会

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連合参議院(会派) 吉田之久
そこで、この機会に、海上保安庁の歴史と申しますか気になる事例が1、2ございますので、その点についてお伺いをいたしたいと思います。

昭和29年の2月20日に、かなり古い話ではございますけれども、李承晩ライン付近でパトロール中の巡視船「さど」が韓国の警備艇に拿捕されております。それで、その付近にいた巡視船の「くさかき」があえて韓国側に攻撃しないで、むしろ帰投というんですか帰ってしまったという事例があったはずでございます。

一体、このときの経過の概要あるいはこのことを受けてのその後の海上保安庁の反省とかこの種の問題に対する防止策とかをどのように考えてこられましたかお伺いいたします。

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政府委員(海上保安庁次長) 小和田統
若干古いことになって恐縮でございますけれども、海上保安庁が昭和23年に発足をいたしました当初、巡視船には武装がございませんでした。けん銃だけ持っていたという状況でございます。そして、昭和25年に朝鮮動乱が勃発し、さらに昭和27年の1月に李承晩ラインが宣言されたわけでございますけれども、そのような状況のもとで、昭和27年の5月に巡視船の行動に関しまして、関係国を不必要に刺激しないように、それからまた、当方は武装していないわけでございますので、正当防衛のような場合やむを得ず所持しているけん銃を使うことは別にいたしまして、実力は行使しない建前で行動すべきである、こういう閣議の了解事項がございます。

それに基づきまして、先ほど先生御指摘のとおり、29年の2月20日に巡視船「さど」が韓国警備艇に拿捕されたというようなケースが確かにございましたけれども、これは今申し上げましたような発足以来の状況あるいは国際環境の中で、政府全体の中で関係国を不必要に刺激しないという方針に基づいて行われたものでございます。

なお、若干前後いたしますけれども、その少し前から巡視船にもそれ相当の装備が必要ではないかという議論がございまして、順次、巡視船に機銃あるいは一部機関砲を装備するということがその直後から始まっております。

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連合参議院(会派) 吉田之久
海上保安庁の揺籃時代と申しますか、敗戦直後まだ日のないころでございまして、まさに丸腰の巡視警備の時代だったとは思うわけなんでございますが、それにしても彼らは李ラインを勝手に引いて、そしてみずから韓国の領海と認識して臨んできた。彼らの国内法を適用して日本の巡視船を拿捕したと。

また一方、我が方の巡視船の船長も国内法である海上保安庁法第25条、「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない。」という厳しい規定がございますが、そういうことが念頭にあって黙って拿捕されざるを得なかったということになるんでしょうか。

その国内法の25条の問題等がこの事件にかかわっておるのかどうか、ちょっと念のために伺っておきたいと思うんです。

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政府委員(海上保安庁次長) 小和田統
ただいま先生引用されました庁法の25条は、海上保安庁の発足以来庁法にある規定でございまして、保安庁の基本的な性格を規律しているものでございます。

当初、巡視船は武装していなかったというのがその庁法の規定をもとにしているのかあるいは当時の国際情勢をもとにしているのか必ずしもつまびらかにいたしませんけれども、いずれにしましても、先ほど先生が御指摘になった巡視船の問題は、閣議の了解事項に基づき全く丸腰の巡視船としてやむを得ざることであったということかと考えております。

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連合参議院(会派) 吉田之久
当時、非常に微妙な国際情勢のもとで、かつ極めて慎重に対応しなければならない我が国の立場から申しましてやむを得なかった措置ではないかとも思われるわけなんでございますけれども、しかし当時、韓国と北朝鮮とが戦争状態にありまして、あの場合もしも我が国の海上保安庁が応戦反撃した場合、軍艦でないものが交戦国の艦艇に対して敵対行動をとったとして国際法上違反に問われたであろうかどうか、そういう国際法上の問題は当時念頭にあったのかどうか、その辺もちょっと伺っておきたいと思うんです。

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政府委員(海上保安庁次長) 小和田統
巡視船が関係国を不必要に刺激しないように、あるいは実力は行使しないようにという基本方針をつくるに当たりましては、当然関係省庁とも協議したはずでございますので、その際、国際法上の問題あるいは外交上の問題等も考慮事項にあったと思いますけれども、今先生が御質問の、国際法的に見てどういう観点からこの基本方針が立てられたのかという点につきましては、恐縮でございますけれども、外務省の方にお尋ねいただければと思いますが。