昭和28年10月20日 参議院 水産委員会

[002]
説明員(海上保安庁次長) 島居辰次郎
それではその後の経過の要点を申上げたいと思います。

海上保安庁におきましては、引続き巡視船5隻を済州島の東方と東南方海域に行動いたさしておりまして、水産庁監視船と協力して拿捕及び紛争の発生防止に努めておるのでありますが、最近に至りましては、この方面の海域に出漁して主として李承晩ライン内において操業する日本の漁船は殆んどその影を見ない状況でありまして、又韓国艦艇もその後は時折り1隻か2隻程度哨戒に当っておる模様であります。従いまして最近は拿捕連行されるもの、或いは臨検、退去措置を受けた漁船はないような状況でありますが、その後海上保安庁におきまして船名を確認したものを加えますと、9月以降現在、即ち10月20日、今朝の8時までに拿捕されたものが32隻、臨検、退去命令を受けたものは92隻に上っておるのであります。なお拿捕連行されましたものは釜山或いは済州島に抑留されておる模様であります。

次に海上保安庁といたしましては、今後も日本漁船が李承晩ライン内は勿論、その附近の海域に出漁いたしております間は引続き巡視船をその附近に行動させまして、できる限り操業の維持に努め、拿捕及び紛争の防止に努力いたす考えでおるのであります。



[063]
無所属 千田正
それは現在不法監禁されておるところの漁民、私が言うまでもなく、韓国は日本に対して宣戦を布告した国でもない。それから勿論現在条約国でもない。併しながら現実においては日本の漁民が不法に監禁されておる。而も向うの法律によって懲役6カ月であるとか、追徴金何1000円とかいうものを科せられておる。こういう刑罰が我々から言えばあり得ない、このように考えられます。なぜかと言うと、公海の自由の原則から言って、公海上に行なったところの善良な一つの国民が、何ら相手国の領海を侵犯したものでない者に対して科せられた罪というものに対しては、将来外務省においては韓国との折衝の間において、これに対する賠償、その他の問題が起きて来ると思いますが、どういうふうに考えておられるか。

もう一つ、この平和条約の中に、これは韓国も、日本もまだ国際連合に参加しておりませんが、1948年の12月の10日の国際連合第3回の会合で採択しておるところの世界人権宣言の第2条の第2項に「個人の属する国家又は地域が独立地域であると信託統治地域であると、非自治地域であると、その他の何らかの主権の制限の下にあるとを問わず、その国又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基づくいかなる差別も設けてはならない。」と、而も第5条には「何人も、拷問又は残虐な、非人道的なもしくは体面を汚す待遇もしくは刑罰を受けることはない。」と、国際上の、この世界人権宣言の中に、国際連合が採択したこうした誠に道義的なる文がありますが、現実においては、今の公海の自由の原則に立って、日本の漁民が何ら制限されるところない海上における漁労をやっておるものが、一方の国において不法監禁されておる。こういう問題につきましては、日本としては将来どういうふうに考えておるか。特に我々が漁業者の立場、或いは漁民の立場から考えた場合において、水産庁その他行政官庁は漁船保険、若しくは船員保険その他において不幸な災害を除去しようとしてあらゆる努力を払っておりますけれども、こういうような不法監禁に対しては我々は方法がない。こういう点についても日本の将来において考えなければならん。外務省の立場としてあなた方の見解はどういうふうにとっておられるか。この点を政務次官から承わりたいと思います。

[064]
説明員(外務政務次官) 小滝彬
千田委員のおっしゃること、誠に御尤もでありまして、9月の9日に奥村次官から金公使に渡しました口上書にも、この点をはっきり主張いたしまして、日本側としてはこのような裁判というものは承認することはできない。そうして又将来の賠償の権利も、日本は当然留保するものである。至急これを送還するように、船と共に返すようにということを申入れたわけであります。又今度の会談においても、その会談が始ります前にも、先ずあれを返えさなければ、こういう人道に反するようなことをされては会議を進行することはできないということを言い、又民間代表者の方も、先ほど申しましたように通信の問題であるとか、差入れの問題と共にこれを早く返してもらわなければならんということを強く主張したのであります。

尤も先方のこちらにもたらしましたところの外交文書によりますと、3海里内の領海で捕えたということを言っております。第一大平丸の裁判につきましても、公文を読んで見ますと、そういうことを言っておる。ということは、やはり公海で漁業していたのを抑留する、而も裁判に付して厳罰に付するという点については、韓国側といえども多少良心の苛責と申しますか、十分国際的に認められない虞れがあるという懸念からか、そういうような文書をよこしておりますが、日本側としては、これは単に李承晩ラインという向うの勝手にきめたラインだから、即ち公海で漁業しておったものであるからして、そのような裁判というのは飽くまで不当、不法なものであるということは強調している次第であります。

今度の交渉中においても、まだ向うからはっきりと何とも言って参りませんから、機会あるごとにこうした点は強調して、同時にでき得れば言論機関も利用し、且つ又この関係国へもこうした情報を流して、国際的輿論も喚起するように努めるというやり方をしておりますが、まあそれにしましても先ほど木下委員から、非常に向うだけが悪くて日本がいいといったようなことをやるのはよろしくないという御意見がございましたが、併しこうした点につきましても、飽くまでも我々の主張は正しいということを堅持いたしまして、今申しましたような方針で進んで行く考えであります。