昭和28年02月17日 衆議院 水産委員会

[032]
政府委員(海上保安庁長官) 山口傳
ただいま第一、第二大邦丸の拿捕事件の真相について御質問がございましたが、実は昨夜海上保安庁の本庁の方へ、現地の佐世保海上保安部から電話である程度の情報が入っておりますので、まずそれを御報告申し上げます。これは実は書類にして差上げようと思いましたが、時間の余裕がないので、いずれ後刻印刷にして提出いたしたいと思っております。

第一、第二大邦丸は、米国の軍艦に護衛されまして、昨日の午後3時20分佐世保におけるアメリカ海軍のベースに到着いたしました。しかしいまだこれを佐世保の海上保安部の方へ引渡すけはいがなくて、同日2時半に同地のアメリカ側の司令部から次のような連絡があったわけであります。18日、すなわちあすでありますが、あすの午後4時リッチモンド、これはあそこの防衛部隊の旗艦でありまして、そのリッチモンド号においてオールソン少将、この方はあそこの司令官であるらしいのです。オールルソン少将から、佐世保の海上保安部長と、それから第一、第二大邦丸の船主である大邦水産の大野社長の来艦を待つという連絡がございました。従っていまだ船並びに船員の引渡しを受けておらないのであります。次に、これは向うと交渉いたしまして、第二大邦丸の通信士である切手律君に会わしてもらいまして、この方からいろいろと聴取いたしたわけであります。すなわち拿捕当時の模様及び拿捕後の措置であります。これは電話連絡で十分わかっておりませんが、大体電話の要旨をそのまま申し上げます。

当時第一、第二大邦丸は273と、283区の中間で操業中、去る4日午前8時ごろ、韓国の手繰り船第一、第二昌運号、これは約50トンくらいの船で、速力が9ノットないし10ノット、船橋に韓国旗を掲げておりました。これが北東方面より近づいて、魚はとれるか、という声をかけられました。数日前に同様のことが他の漁船にもあった情報を大邦丸は承知しておりましたので、何ら心配もせずにそれに受答えをしておったのでありましたが、8時5分また近づいて参りまして、銃撃を受けた、その際、国防色戦闘服を着た兵隊らしい人が自動小銃と思われるものを持っておって、約40発ぐらい発射して来た。第一大邦丸に20発・第二大邦丸に5ないし6発玉を受けた。8時10分第一大邦丸の漁労長である瀬戸重次郎氏が右後頭部に盲貫銃創を受け、その後船は済州島の翰林という方に引っぱられて行ったわけでありますが、11時にその翰林港に入港し、ただちに病院に入れて診断は受けたようであります。お互いにその責任を転嫁して要領を得ない。それで同人は、その日の午後11時遂に死亡されたようであります。それで責任の所在を確かめるために解剖を願ったところ、頭の中からカービン銃弾が出て来た。

7日の日に死体は翰林郊外で火葬に付した。その間におきまして魚は1650箱没収された、魚の種類はかながしら、かれいというようなものであったそうであります。乗組員は軟禁状態で、憲兵あるいは特務機関等の尋問を受けました。その尋問の要旨は、これは答えは知らして参っておりませんが、まず第1に領海に入り魚を盗むとはけしからぬ。次に共産党員ではないか。思想は何か。操業の位置はどこだ。その他住所、生活状態、財産状態、拿捕当時の感想、これらのことを尋問を受けたようであります。

それから越えて2月の10日から15日まで済州島の警察に留置された。食糧はあら麦3合、副食はほんだわらの塩づけを給せられた、その間に無線機械あるいは測量機械の部分品等がかなり盗難にあったということであります。

なお尋問中に第一昌運号の供述調書をぬすみ見たところ、60メートルに接近、停船を命じたが、停船せぬので発砲と記載しておるようであった。これは本人の言うことでありますが、但し本船はさような信号を受けていないと申しております。

それから警察の倉庫番、これは従前に林兼に勤務したことがあるもののようでありますが、その人の話によりますと、前日すなわち2月の3日の日に、この拿捕しました昌運丸が、20時――午後の8時でありますが、翰林港に入港して密告をした由であります。

それから内地返還のために米軍に引渡されたときに、韓国の水上警察あるいは査察課長は漁労長の死に同情し、かつ早く漁業協定を結ぶべく努力するつもりだから、帰国したら妄動をせぬように希望をした由であります。それから帰国にあたりましては、食糧を要求いたしましたが、これは聞き届けられず、物々交換でメリケン粉などを入手した。乗組員は全部元気である。なお、これから先は余分なことでございますが、ちょっと速記を……。



[037]
無所属 大橋忠一
本件はきわめて重大なことでありまして、さらにアメリカ側から船の引渡しを受けた上で徹底的に調査して、適当な措置を講ずる必要があると思うのでありますが、当局においては、何がゆえにアメリカ側がすでに日本の港に着いた船をわが方に引渡さないのでありますか。その理由についてお伺いしたいと思います。

それからいま一つは、本日の新聞によりますと、外務当局においては、こういう事件が起るのは、韓国側が何とか早く日本と会談を始めたいと思っても、日本の方で始めぬから、いら立ってこういうことをやった。そこで政府の方ではひとつ急速に会談の準備を始める、こういう意向であるというような記事が載っておったのであります。

ところが向うが会談を始めたいがゆえに、かくのごとき暴行を演じた、そしてこの圧迫によって会談を始めるというようなかっこうになっては、これはますます向うを強がらせまして、とうていその会談というものは成功するものでないと思うのであります。従いましてわれわれとしては、当然強硬な態度をもってこの問題を徹底的に解決しない以上は会談は始めない。

さらに一方において、何らかこれに対する報復手段、たとえて言えば、朝鮮でとれた魚を買わないとか、あるいは向うに必要な物資を供給しないというような報復手段を一方において講ずる、そうして本件の徹底的解決を遂げる、遂げない場合は会談を始めないというくらいの徹底的な態度をとらないことには――向うの圧迫下にやむなく会談をするというような形をとっては、会談を始めたって絶対にまとまるものではないと私は思うのでありますが、これに対する外務当局の所見はどんなものでありましょうか、御質問いたします。

それからちょっと前後いたしましたが、停船をしなかったがゆえに銃撃をしたと向うは言っている。今までも多数の船が拿捕されたのでありますが、その際、向うはやはり停船を命じて、停船命令を聞かなかった際には銃撃を加えたという実例があるのでありましょうか。あるいは銃撃を加えたことは今回が初めてであるのでありましょうか、その点も保安庁当局にお尋ねいたします。

[038]
政府委員(海上保安庁長官) 山口傳
まず最初に、佐世保で米当局が釈放しない、引渡しを遅らしている理由でありますが、これはよくわかりませんが、先ほど申し上げましたように、あすの4時までに社長に出て来てくれということを言っておりますので、その上でその処置がとられるのではないかと想像するのでありまして、特段の理由というものは、ちょっとわかりかねます。

次に、今まで銃撃を受けたことがあるかということでございますが、これは遺憾ながら相当頻繁に行われております。そういう事実は、東支那海におきましてもありますし、それから朝鮮海峡の韓国側にもございます。その例は従前にもございまして、今回が初めてということではございません。

[039]
説明員(外務事務官(アジア局第二課長)) 廣田しげる
ただいま御質問ございましたけさの新聞の点でございまするが、私が承知しております限りにおいては、そういうことを外務省側で言ったこともないし、新聞の方でそういう臆測記事を書いたのではないかと思います。

なお韓国側に対しましては、すでに情報として、わが方の乗組員が1名射殺されたという情報が入りましたので、詳しいことはわかりませんでしたが、さっそく拿捕に対しまして抗議いたしますとともに、そういう情報があるが、これが事実とすれば、外務省としては深甚の考慮を払うことを余儀なくされますので、本件事件の有無について厳密に調査せられ、その結果釈放せられるよう要請することを申し入れておりますが、ただいま日本の船の方も帰って参りまして、だんだん真相がはっきりして参りましたので、なおこの上とも厳重に申し入れるつもりでございます。

なお、今後政府のとるべき処置につきましては、至急に関係方面とも相談して、研究中でございます。