昭和32年04月30日 参議院 外務委員会

[057]
日本社会党(社会民主党) 吉田法晴
それから、時間がございませんから、あわせてお尋ねをいたしますが、日本側において認めなかった李ライン問題に関連して抑留された、あるいは拿捕された、最近のごときは、ほとんど李ライン外において拿捕された、あるいは一本釣り等の小さい船も拿捕されておるのであります。



[105]
日本社会党(社会民主党) 海野三朗
私は、小滝長官にお伺いしたいのでありますが、海上自衛隊とか、それから保安庁とか、あれは一体何をしているのであるか。日本は、李ラインとか何とかいって、漁船がみな拿捕されていくのを安閑として見ておるのであるか。それを未然に防ぐということこそ、争いを未然に防ぐということこそ、その海上自衛隊の任務じゃないかと思うのですが、この点はどうなんですか。

[106]
防衛庁長官 小滝彬
この前も海野さんから御質問があったかと思うのでありますが、御承知のように、自衛隊法にも、また防衛庁設置法の中にも、海上の警備、海上で人命とか財産が侵された場合に、これに対して総理大臣の指揮によって、防衛庁長官が海上の部隊を出動させるということは可能なわけであります。しかしそれは、法規的にでき得るということでありまして、私どもといたしましては、国防を全うし、日本が平和的に発展していくのには、できるだけそうしたことからだんだん紛争が大きくなって、好ましくない事態をさらに拡大するというようなことになっては困りまするしするから、非常に交渉に時間をとりまして、関係者に非常な迷惑をかけておることは遺憾でありますが、何といたしましても、平和外交で、できるだけそういう実力行使ということをしないで、こうした日韓の間の問題を解決しようとして努力しておるわけであります。

しかしその際に、どうしてもそういうことはできないというので、それは自衛行為と、侵略に対する自衛隊の発動ということでなしに、海上にある部隊がそうした人命、財産を保護するための一つの措置として行動をとるということは可能でございまするので、それは、その時の情勢によって判断せられるべきものでございます。ただいまのところは、そういうことをするということは、かえっておもしろくない結果をもたらすという意味から、これまで隠忍自重して韓国との交渉を続けておる、こういう次第でございます。

[107]
日本社会党(社会民主党) 海野三朗
私は、小滝長官の答弁がどうしても納得いかないのは、そういう際に未然に防ぐということこそ、つまり軍隊がその剣を用いないで、これを未然に防ぐということが必要なのであると私は思うのですが、海上自衛隊というものがある以上は、何も鉄砲を撃てというのではないのですよ。けんかをしろというのではないけれども、漁船がむざむざ拿捕されていくのを、どこ吹く風かという態度でおられるということは、海上自衛隊としての任務を忘れたものであると私は思う。これは無用の長物になりはせぬかと思っております。

ある意味で、抵抗力のない漁船が拿捕されていくというときに、海上自衛隊がおって、ここは線がこうなんだということくらい、親身をもってもう少し……。拿捕されていくのをむざむざ見ておって、のほほんとしておっては、私は小滝長官のむしろその点を疑うのですよ。

国防々々と言ったって、何が国防ですか。けんかを吹っかけてこられたときに、初めて自衛軍を発動するのですか。これは、漁船がむざむざ引っぱっていかれるのを、それを防止するというような方向、つまり剣を用いずして未然に防ぐということが自衛隊の任務じゃないかと私は思うのですが、どうなんですか、そこなんですよ。

[108]
防衛庁長官 小滝彬
私どもも、李承晩ラインの問題には、重大なる関心を持っておるものでございまして、ただいま海野さんから非常な激励を賜わりまして、(笑声)もしそういうことができるなら、もしそれが決して悪い結果をもたらさないというようなことになれば、それは何も、海上自衛隊を惜しんで使わないで、とって置くというような問題ではございません。

ただ、こういう措置は、第一次的には運輸省の管轄下にございます海上保安庁がそうした保護措置をとることになっております。それが足りない場合には、また必要があれば、保安庁の船舶というものは自衛隊の指揮のもとにおいてするようになっておりまするが、今、海野さんのおっしゃるような措置をとりますことが、かりに国際的には何も問題が起らないといたしましても、未然に防ぐためには、あの方面へ相当な艦船をくぎづけにしておかなければならないだろうと思います。なかなか部隊の訓練もできない。そうしてあすこでただ無為に……無為にではない、財産、生命を守ることにはなりまするけれども、そこに長い間置かなければならない。それでもう済んだと思って帰ってきても、またそういうことを繰り返す意思を持ちましたならば、日本の自衛隊の艦船が引き揚げた際には、また出てきて、どういうようなことをするかわからぬということになりますから、私どもといたしましては、根本にさかのぼって、そういうような紛争の起らない措置を外交的な手段によってとりたい、こういう希望のもとに進んできたわけであります。

[109]
日本社会党(社会民主党) 海野三朗
私は、その点について、もう一ぺん考え直してみていただかなければならぬのじゃないか。1000人以上の漁夫が拉致されておる。それをのほほんと見ておるということは、私はどうもはなはだ心もとない。それを未然に防いでやるということこそあなたの任務じゃないかと私は思うのです。私は、その点についてのあなたの御信念を伺いたいのです。

これは理屈じゃないのです。わが同胞がいわれなくしてただ引きずって行かれるというそのありさまを考えるときに、防衛庁長官として、てん然としておられないのじゃないかと思うのです。しかも、向うに反抗しているわけじゃないのです。漁夫ですよ。それがむざむざ引きずって行かれて、1000人以上の漁夫が引っ張っていかれておる。そういうことに対して、あなた方がのほほんとしておられるかどうかという、私はあなたの御信念を伺いたい。あなたはそれでいいと思うか、それを伺いたい。

けんかをしろというのじゃないのです。未然に拉致されることを防ぐ。

[110]
防衛庁長官 小滝彬
海野さんのお気持はよくわかるのでございまして、こういう措置をとりまするときには、ただ防衛庁長官だけで決定すべきものではなく、その点は、法律にもはっきり出ておりますから、内閣として決意をしなければならないことでございますので、海野さんの仰せの点は十分念頭に置きまして、今後対処していきたいと考えます。