昭和41年03月18日 参議院 農林水産委員会

[084]
日本社会党(社会民主党) 川村清一
いずれにいたしましても、この3月14日に済州島の沖合いで、わが日本の底びき漁船第五十三海洋丸が韓国の警備艇によって、しかも共同規制水域の中において不法臨検拿捕されたということはきわめて遺憾なことでございます。

われわれは日韓条約、漁業協定等の審議の際に、この漁業協定そのものがきわめて不備である、また、この協定の成立によっていろいろな問題が起きる、不祥事件が惹起するおそれが十分にあるということを心配いたしまして、あらゆる角度からこれをついて、議論をしたわけであります。

その際、政府は、この協定の発効によって李承晩ラインは完全に解消されるのだ、共同規制水域内における違反行為は旗国主義によるのであるから、今後は絶対に拿捕抑留されるようなことは起こらないのだということを言明されたのであります。

しかるにこの協定が発効されてわずか3カ月たつかたたないうちに今度のような不祥事件が起きたわけでございまして、われわれ社会党が心配しておったことは決して杞憂ではないということが立証されたわけであります。この意味におきまして政府の責任はきわめて重大であると私どもは考えております。

この拿捕事件が起きましてからは、日本の世論はわいております。14日からきょうまでの間に、これは東京3紙と日経の4紙の新聞に出ましたところのこの問題の記事でございますが、こんなにあるわけでございます。

そこで、私はまず第一にお尋ねいたしたいことは、一体なぜこういう事件が起きたのかということであります。日本側は、この第五十三海洋丸が韓国警備艇によって臨検された場所は、これは共同規制水域内である。もっと正確に言うならば北緯33度20分、東経125度50分のこの地点におったということを言っておるわけであります。漁船も言っているし、日本の保安庁の巡視艇もこの点を確認をしておるわけであります。

ところが韓国側のほうは、それは違う。第五十三海洋丸がおった地点は北緯33度17分、東経125度56分、明らかにこれは専管水域の中に入っておった。専管水域を侵犯しておった、こう言っておるのであります。

場所は海の上であります。これは両国がこうやって、片方は専管水域である。片方は共同規制水域であると言っておるわけでありますが、日本は絶対に専管水域を侵犯しておらない。共同規制水域内においてこの第五十三海洋丸は操業しておったんだということを、何によって証明するのか、これをまずお伺いしたいと思います。

[085]
農林大臣 坂田英一
これは非常に重要な問題でございまするので、新聞等においてもいろいろございましょうけれども、政府において把握した現在の状態を先に簡単に申し上げておきたいと思います。

3月14日午後1時40分、わがほうの漁船第五十三海洋丸は済州島西側の共同規制水域内、すなわち韓国漁業水域の外側約4.5マイルの地点で韓国警備艇106号に臨検を受けた。わがほうは巡視船「せんだい」が現場におもむき、106号と交渉し、事件の円満な解決につとめた。しかるに15日午前1時40分、突然106号艇が第五十三海洋丸に強行接舷し、武装した警備艇員2名が乗り込み、先に移乗していた艇員2名とともに威嚇射撃を行ない、また、銃じりにてわがほう乗り組み員を殴打する等の行動に出て、実力行使により第五十三海洋丸を済州島方面に連行、「せんだい」はこれを追尾し、同艇に対し、抗議と釈放要求を繰り返したのであるが、第五十三海洋丸はそのまま連行された、こういうことでございます。

その後、事件発生の報に接しまして、14日夜、外務省より在京韓国大使館に対し、また在韓日本大使館を通じ、外務部に対し、本件の円満解決を申し入れた。15日に至り、小川アジア局長は、在京韓国大使館安公使を招致し、第五十三海洋丸が韓国漁業水域を侵犯した事実はないこと、よって拿捕連行は不法不当であること、抑留漁船及び乗り組み員を早急に釈放すること等、事件の円満な解決を要求する旨申し入れた。また16日には、在韓日本大使館吉田公使より延アジア局長に対し、同様の趣旨を申し入れ、さらに17日には椎名大臣は、金韓国大使を招致し事件の円満な解決方を強く申し入れた。

このようにいたしまして、政府としては、ソウル及び東京において拿捕が不当なる旨、また、早急に釈放すべき旨を強く申し入れておるのでございます。今回の事件は、日韓国交正常化後最初の事件であり、事実関係も十分に調査の上、わが国の正当な主張はあくまでも貫き、今後の円滑なる漁業協定の実施を確保するよう配慮し、漁民の利益の保護については、今後とも遺漏なきを期するつもりでございます。大体、今までの経過並びにその方針を申し述べて、その後についてのいろいろ御質問にお答えいたしたいと思います。

[086]
日本社会党(社会民主党) 川村清一
そこで、冒頭申し上げましたように、時間がないので、ぼくは問題をしぼってお尋ねしているのであって、ただいま大臣が言われた経過等は、当然最初に聞くべきでありますけれども、このことは本日の本会議で外務大臣からもお話がありましたので、その点は省略いたしまして、ぶっつけ本番で大事なところをいまお尋ねしたわけであります。

そこで、日本政府は、第五十三海洋丸は絶対に専管水域を侵犯しておらない、違法行為をしておらない、こういうことを言って、それをやはり理由として韓国側に対して抗議をしておるわけであります。

そこで、もっと正確に言うならば、日本側は臨検を受けたその第五十三海洋丸のおった地点は北緯33度20分、東経125度50分であると言っておる。そこで、これを証明するものは何かありますかということを聞いているわけです。

[087]
政府委員(水産庁長官) 丹羽雅次郎
14日の13時40分に接舷を受けまして、五十三海洋丸が電報を打ってまいりまして、15時に巡視船「せんだい」が到着いたしまして、即刻その位置の測定をやっておるわけです。そして、かつ五十三海洋丸はロランその他を備えた最新の新造船でございます。航海記録、それからいわばおまわりさんでありますところの海上保安庁の測定の結果、こういうものを添えて、これを挙証の原因として韓国と折衝するということに相なるわけであります。

[088]
日本社会党(社会民主党) 川村清一
その地点の確認は、その船は非常に優秀船である、ロランを装備したそういう船である、したがって、その測定器によってはっきり、これはもう科学的にその地点におるということが立証されておる。絶対に専管水域を侵犯しておらないと、こういうことが確認されておると、こういうことであります。

ところが、今度は、一方韓国側でございますが、これは昨日の新聞でございますけれども、これは韓国の揚内務部長官は、去る14日、韓国警備艇が捕獲した第五十三海洋丸は、明らかに専管水域を侵していた、国内法を適用して漁船、漁具、漁獲物など一切を没収、乗り組み員は送検する、こう言明したと新聞は報じておるわけであります。

また、別な新聞では、この第五十三海洋丸は、日韓漁業協定の排他水域に関する第1条と漁業資源法を適用して厳罰に処する、今後専管水域内で操業する漁船は、理由のいかんを問わず国内法で捕獲する方針であると言っている。

で、韓国は、こういう主張の根拠として、日本船が臨検を受けた地点は北緯33度17分、東経125度56分であると、こう言っておるわけであります。食い違いがあるわけであります。

そこで、わがほうは最新式の計器を持っておる。わがほうの位置は科学的に立証できる。間違いないと、こういう確固たる信念を持っていると思うわけであります。しかしながら、海の上なんです。これを証明するものがなければ、だれも見ているわけじゃない。そこで、韓国がこう言っている、これを間違いであるということをやはりわがほうは説明して納得せしめなければならない。何によって、韓国のこう言っているのは、韓国はどういうことでこういうことを言っておるのかというのがひとつわかっておったら言っていただきたい。

[089]
政府委員(水産庁長官) 丹羽雅次郎
海上保安庁の報告によりますれば、この106号艇はロランその他を備えておらないようでございますので、まず挙証責任の問題等にからみますれば、向こうは何を根拠に33度17分におったというか議論にもなるわけであります。わがほうといたしましては、その船自身が持っておりますロランによる測定のほかに、同様の機械を装備いたしました国の巡視船が行っていて、測定をやっておるわけでございますから、今後その点を議論の中心に、まあ外交交渉を始めたわけでございまして、韓国側も円満に解決したいということはいま言っておるわけでございますが、不幸にしてその位置の問題が中心になってまいりますれば、相互に証拠を出し合って詰めていくと、向こうのほうにむしろ逆になかなか立証することは困難なことがあるのではないかと、私どもはむしろ考えて、おります。

[090]
日本社会党(社会民主党) 川村清一
それでは、ただいまの御答弁によってわがほうのこの位置の確認は、これは私も申し上げたのですが、これはもうその船に装備されておるロランによってこれははっきりしておる。しかも日本の保安庁の巡視船もそこにおって、巡視船もこれは計器によって確認しておる。絶対に間違いないという信念をこれはわがほうは持てると思う。

韓国のほうの警備艇のほうには、いま水産庁長官の答弁によるというと、そういう計器がない。ですから、韓国の言っているその地点というものは、これは信憑性がない、証明するものがないと、こうまあ確認されると思うわけです。

だとすると、本日、本会議において椎名外務大臣のこの経過説明、その後における政府の見解としまして、事実関係を十分調査をした上、わがほうの主張はあくまでも主張し、そうして円満に解決したい、こういっている。

で、事実関係を十分調査――一体、問題は海の上で、日本の船が韓国の警備艇によって臨検され、つかまって連れていかれた、問題はその船がどこにおったかということなんです。それ以外に何にもないでしょう。その船がどこにおったか、専管水域に入っておったか、共同水域内におったか、この事実関係以外にないと思うのです。

で、わがほうは、いま申し上げたようなことによって、これはもう絶対に入っておらないということは確実なんです。向こうの主張のほうが不正確だ。だとするならば、何をこれから御調査されようとしているのか。これをひとつ農林大臣に――先ほど農林大臣がこういうことを言われたので、農林大臣にお聞きしたい。何を調査されるのか。

[091]
農林大臣 坂田英一
もちろん、向こうはどういうことを言い、どういう状態を述べるかという問題については、なおさら論議すべきものであると思います。強く主張するときには特にそうだと思います。なお殴打問題もあります。それらの問題等についても、やはり十分その点については急いでやらなければいけませんけれども、やはり粗漏のない、すべての点を完備してかかるということは当然だと思いますので、それは当然やってまいりたい、こう思います。