昭和30年12月16日 参議院 本会議

[057]
自由民主党 秋山俊一郎
日韓問題に関する決議案の趣旨弁明を行いたいと存じます。

私は自由民主党、社会党、緑風会、無所属クラブ、第十七控室の各党各派を代表いたしまして、ただいま議題となっておりまする日韓問題に関する決議案につきまして、趣旨弁明を行わんとするものであります。まず決議案を朗読いたします。

日韓問題に関する決議案

政府は、日韓両民族の融和を期するため、最近の新情勢にかんがみ、この際新たなる決意をもって、韓国政府の理解と反省を促し、あらゆる方途を講じて、速やかにこれが根本的解決を図るべきである。

特に緊迫せる漁業問題については、公海自由の原則に基き、漁船の安全操業を確保する措置を講ずべきである。

右決議する。

本決議案は、各党各派の共同提案になるものでありまして、このことをもっていたしましても、本問題がいかに重大なる問題であるかということがわかるのであります。

そもそも日本と韓国とは、いわゆる一衣帯水のきわめて近接せる隣国でありまして、しかも、ともに自由国家群の一員として、善隣友好の関係になければならない間柄であります。しかるに韓国政府は、昭和27年1月広範なる海域に国際法及び国際慣行を無視いたしまして、公海自由の原則をじゅうりんして、いわゆる李承晩ラインなるものを設定いたしまして、あるいは自国の防衛に名をかり、あるいは海洋資源の保護を名とし、あるいはまた自国漁業の保護等の名目のもとに、勝手に主権宣言を行なって、この海域において操業する日本漁船を不法にも片っぱしから拿捕、抑留し、あるいは銃撃を加えて殺傷し、また明らかに日本の領土であります竹島を不法占拠いたしまして、日本の船舶に銃撃を加えるなど、暴戻きわまる行為を続けて参りました。

今日まで拿捕せられました漁船209隻、抑留船員は2723人に達しまして、本年12月1日現在、いまだ帰らざるものが109隻、651人に及んでおります。これら抑留されております漁船船員はきわめて残酷な取扱いを受け、日本同胞よりのわずかなる差入品によって、辛うじて飢えと寒さをしのいでおります状況でございまして、中には栄養失調に陥り、また疾病にかかりまして、生命の危険に瀕しておる者さえ生じておるとのことであります。実に人道上許すべからざる重大問題と言わなければなりません。その留守家族の困窮と、心痛せる姿を見るにつけ、ことにかの地が今や極寒の候に向っておりますことを思うとき、抑留者の救出は何よりも急務と考えるのであります。

さらにまたこの海面は、古くよりわが日本人の開拓した漁場でございまして、ここに操業する漁船は2500隻、その従業員4万人を数え、これによって生計を保っておる家族を合せますれば、20万人にも達するのであります。のみならず、これら漁業に関連を持つ各種業者に至っては、実に40万人をこえると言われております。

これらの漁船は、同海域におきまして年々23万トン、大よそ130億円に近い漁獲をあげてきたのでありますが、過去4年間にわたる韓国政府の暴挙によりまして、甚大なる影響をこうむり、漁業経営は次第に困難となりまして、ついに倒産のうき目を見る者も現われてきております。かかる中にも関係漁民は、事態の円満なる解決を期しまして、隠忍に隠忍を重ね、これが解決を熱望する政府への陳情、要望は再三に及んでおるのであります。本院もまた、さきに全会一致の決議をもちまして、政府を督励し来たったのでありますが、今日に至るも何らの曙光をさえ見ないのみか、去る11月17日におきましては、ついに韓国政府は李ライン内に入るものは、漁船たると艦船たるとを問わず、仮借なくこれを拿捕し、必要に応じてこれを撃沈することもあえて辞せずとの、全く正気のさたとも思えぬ声明を発しまして、世界の人々をあぜんたらしめたのであります。特にわが国民にとりましては、言語道断の暴戻と侮辱に対し押えがたい憤激を感じたのであります。

今や日本国民の忍耐も限度に達しておるのではないでしょうか。事態をじんぜんこのままに放任するにおきましては、ついに両民族の融和をはかるの機会を逸するに至るのではないかと深く憂慮するものであります。政府は今こそ決意を新たにしまして、韓国政府の良識ある理解と猛省を促し、あらゆる方途を講じて根本的解決に乗り出すべきときであると思うのであります。特に以上のごとき緊迫せる漁業問題につきましては、盛漁期を控えての漁船の安全操業を確保するため、公海自由の原則にのっとりまして、格段の措置を講ずる必要があると思うのであります。

以上が本案を提出するに至った理由でございます。

何とぞ満堂の御賛成をお願いする次第であります。(拍手)



[059]
日本社会党(社会民主党) 安部キミ子
私は日本社会党を代表いたしまして、ただいま上程になりました日韓問題に関する決議案に賛成の意見を表明せんとするものであります。

李承晩政権は、国際慣行を無視し、一方的に李ラインの設定を行い、今日まで数多くの暴虐をほしいままにして参りました。日本国民は、かような李承晩政府の一方的な措置についても、あくまで隠忍自重して平和的に解決しようと、極力今日まで努力して参ったのであります。

しかるに11月17日、韓国連合参謀本部は、いわゆる李承晩を侵略した日本漁船は砲撃し、必要によっては撃沈するとの声明をしたことは、日本国民の間に深い不安と疑念を巻き起しておるものであります。

われわれ日本人は、これら一連の行為に示されておる韓国政府の挑発的対日政策は、絶対許容できないものであります。かような行為は、日本人の感情をいたずらに刺激し、日韓両民族の対立をあおり、アジアの平和に非常な脅威を与えるものであると憂慮されるものであります。今日の韓国連合参謀本部の激越なる声明と、その後のこの声明に基く、ますます挑発的な行動は、さらにこれに拍車をかけるものであります。「国民的紛争は平和的話し合いで解決し、戦争の危機を解消しよう」と、世界中の人々が懸命に努力しておる今日、まことに不可解であり、世界の大勢に逆行するものであります。

8000万日本民族と3000万朝鮮民族の親善は、紛争をあくまで平和的話し合いによって解決し、特に当面の日韓間の紛争の中心点となっておる漁業問題については、すみやかに両者の代表が会合し、懸案解決のために協議を開始すべきだと思います。もしも両者が誠意をもって交渉に当るならば、日中漁業協定の貴重なる体験を持っているように、問題の解決は決して至難ではないと思います。ことに日本人漁船の釈放と即時帰還は、人道上の問題として直ちに処理されることを望んでやみません。

日本政府は、日米安全保障条約並びに日米行政協定の義務履行に忠実なるために、日本人の感情、利害を無視して、全国に700数十カ所の軍事基地と演習場の設営を認めてきました。さらにこれに協力するために、砂川基地では日本人同士が血を流す惨事まで引き起しておるのであります。かように米国に対しては一にも二にも忠勤を励んでおりますが、米国政府は、4年間の長きにわたる日韓の紛争について、何一つ誠意をもって日本に報いるところがないばかりか、むしろ二国間の紛争をあおり立てている感さえするのであります。私ども社会党の代表が、去る今月の12日と13日に米国及び韓国大使館を訪れて、日韓問題解決のための話し合いを行なった際も、遺憾ながらまことに冷淡そのものの感を深くしたのであります。

日本国民は、韓国政府のたび重なる傍若無人の行為に対し、国民的怒りを感ずるものでありますが、だからといって、日本も強力な軍備を持たなくてはだめだという世論を、日本国内に巻き起そうとする一部の動きに対しては、十分警戒し、あくまで互恵平等と平和的話し合いの精神によって解決すべきであり、国際的慣例に照らして、これは可能であると確信するものであります。(拍手)

日韓両民族は、歴史的にも、地理的にも最も緊密な間柄であり、両民族が提携、協力することは、両民族の利益に完全に合致するものであり、極東平和維持に寄与するところも少くないでありましょう。

政府は、日韓問題早期解決のため全力をあげて努力されんことを要請して、私の賛成討論を終るものであります。(拍手)

[060]
議長 河井彌八
これにて討論の通告者の発言は終了いたしました。討論は終局したものと認めます。

これより本案の採決をいたします。本案に賛成の諸君の起立を求めます。

〔賛成者起立〕

[061]
議長 河井彌八
総員起立と認めます。よって本案は、全会一致をもって可決せられました。