昭和29年12月03日 衆議院 内閣委員会

[050]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
竹島におきまして11月21日の朝、海上保安庁の巡視船へくらが撃たれたという記事を新聞で見ましたが、このことについて山口海上保安庁長官からまずその景況を簡単に御説明願います。

[051]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
竹島につきましては、すでに御承知のように、今お示しの11月21日より前におきまして、8月にも1回射撃事件が起きておりますが、御質問の11月21日の状況を簡単に御説明いたします。

当日巡視船おき、へくら2はいが午前6時ごろ竹島の南西方12海里の地点に到着をいたしました際、両船はそこで2つにわかれまして、南北両側より調査をいたしたのでございますが、6時58分ごろへくらは西島の北西方約3.25海里程度に達しましたときに、突然5発の砲撃を受けまして、砲弾はいずれも船から約1海里離れた海上に落下したため、被害は別段なかったのであります。

その際、東島の方の中央部分に無線柱が立っておりまして、その付近に14~15名の警備員らしき者が認められた、またその東側の無線柱には韓国旗が掲げられておったのを認めました。さような状況でございます。

[052]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
今の問題を木村保安庁長官は武力によって日本の領土が侵犯をされて不法の侵略を受けたとお考えになりますかなりませんか、それを承ります。

[053]
防衛庁長官 木村篤太郎
武力によって不法侵略を受けたかどうか、これはちょっと疑問であろうと考えております。どういう状態において彼らが侵入して来たか。これは私どもの方でまだはっきり調査をいたしておりません。従いましてこの問題の処理については国内法に基いてやるべきであるか。国内法といいましても、自衛隊法を別にしてのことであります。

申すまでもなく自衛隊法76条におきましては、外部からの不当武力に対しては、わが国を防衛するために、内閣総理大臣は国会の承認を得てこれに対処することになっております。すなわちこのときには自衛隊が防衛出動することがあり得る。こういう場合に該当しないということは明瞭であります。

もうすでに何らか隠密の手段によって彼らは上陸しておるのであります。前述の不当侵略には該当しない、こう私は考えております。

しかし、これをどう処置するかということについては、今後に残されておる問題であろうと考えております。すなわちこれを自衛隊法を別にした国内法的の方法によって処置する。もちろん自衛隊に属するいわゆる自衛権は、不当に攻撃を受けた場合に対処するのは当然であります。隠密に上って来て、今海上保安庁から説明のありましたように、すでにさような施設をした場合どう処置するかということについては、これは研究を要する問題だろう、こう考えております。

[054]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
ただいまの説明を聞いておりますと、竹島が日本の領土であるかないかわからぬような感じを受けるのですが、竹島が日本の領土であるということは、あなたははっきりお認めになりますか。

[055]
防衛庁長官 木村篤太郎
もとより竹島は日本領土であります。疑わないのであります。それでありまするから、不当の、つまり隠密な上陸、こう私は言っておるのであります。

[056]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
領土であるということを確信をもって認めておりながらその手段方法がいかようであろうとも、現実の問題は竹島に他国の砲台が築かれ、それに接近した日本の船が5発の射撃を受けておる。これだけはっきりした事態を認めてもなお政府は侵略されたということをお考えにならないのですか。調査するとおっしゃっておりますが、どういう方法で調査を進めておられますか。

[057]
防衛庁長官 木村篤太郎
これは国警において調査を進めております。私の方の直接の管轄ではありません。私の方の部隊の手においては調査を進めておりません。

しかし、申すまでもなく、今後われわれの国に対して不当な力をもって侵略しようとするものについては、これに対処することはもちろん当然のことである。

[058]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
現実の事態は明らかに不当な力によって侵されておるのであります。そうお認めになりませんか。

[059]
防衛庁長官 木村篤太郎
これは先ほど申し上げたように、不当に侵入して来ておるということは明らかな事実なんです。国民だれも見るところであります。

[060]
自由党(自由民主党) 大久保武雄
今の点にちょっと関連してお尋ねいたしますが、不当に侵入して来ておる、侵略とは認められない、そういたしますと、すでに隠密の間に上って来ているということでありましたならば、これは不当入国と考えるべき筋合いでありますかどうか。

[061]
防衛庁長官 木村篤太郎
もうすでに御研究になっておることと思いますが、自衛隊法76条の場合は不当な外部からの侵略行為があった際に、日本の国を防衛するために、いわゆる防衛出勤をするのであります。

従いまして隠密の間に上陸をした、これは不当な行為であることはもとより当然であります。これを排除するということと、現実に起って、これから防遏の処置をとらなくちゃならぬということとは、私は明らかに相違しておると考えております。

[062]
自由党(自由民主党) 大久保武雄
そういたしますと、この問題は木村防衛庁長官の問題であるか、あるいは山口海上保安庁長官の問題であるか。防衛出動の問題であったならば木村長官の問題である。もし密入国を排除するならば山口長官の問題である。一体どちらの所管であるのか、どちらが正面立ってこの問題を解決されるのか、この点をお尋ねいたしたい。

[063]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
韓国が単に漁業のみならず、警備員を駐在させ、あるいは灯台を建てたり旗を掲げたりする、かようなことになって参りますると、そういうふうな既成事実をつくって、韓国としては自分の領土権の主張を確保するために実力を使っておると見なければならぬのであります。

さような現状におきまして、わが方としては同島に対する従来からの主張である日本の領土権を保全するためにはいろいろの手段を講じなければならないのでありますが、現在の段階におきましては、同島の帰属問題を平和裡に、円満に解決するためには、まずもって現状の確認が前提条件であります。そのことにつきましては海上保安庁として随時同島に巡視船を派遣しまして推移を確認し、でき得ることであれば、そこに不法に上っておる者を退去せしめる措置もとらなければなりませんし、また不法なる施設も撤去するのが建前でありまするが、現在のところ、さような向うの出方が実力行使式にやっておりまするので、結果的には事実の確認、それを根拠といたしまして、現在ではあらゆる外交的な手段は、外務省としていろいろのくふうをしていただいておる段階であります。

[064]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
山口さんにお伺いしますが、あなたの方の2そうの巡視船が行かれるときに、すでに竹島には韓国の砲台があるという情報を知って行かれましたかどうか。

[065]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
灯台らしきものがあるやに認めたのは、10月2日、本年度における10数回目の――ちょうど11月21日のもう1つ前の警戒に行きました際に発見をいたしております。その当時、「おき」「ながら」という2船が行きましたが、このときの調査では東方の突端に新しくすえつけられたと思われる砲らしきものがあるということが判明いたしました。

[066]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
そうしますと、砲台があるということ、危険があるということを予想されれば出さないはずであります。まる裸の巡視船が、相手が大砲を持っておるというところに出て行くときに、万一のことを考えて防衛庁に連絡をして行かれたか、それともあなたが独断で出させたか、それを伺います。

[067]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
こららとしては厳重にそのことを伝えて警戒させながら、危険を冒して突入するような指令はいたしておりませんが、さような危険があることは百も承知の上で十分気をつけて調査をして来いということを言ってあります。

[068]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
その際、出発の前にあなたが木村長官にこういう状況で行くということを連絡なさったかどうかということを聞いておる。

[069]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
竹島の状況につきましては、その都度善後策についても防衛庁とは連絡をとっております。

[070]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
木村長官にお伺いしますが、その際に相手が大砲を持ってむちゃをやるかもしれぬというところに山口保安庁長官のまる裸の巡視船を偵察に出して、軍艦で、大砲を持った、自衛力を持ったフリゲートを、横須賀の港につないでおいて出さないという理由を承ります。

[071]
防衛庁長官 木村篤太郎
山口長官の言われた実情に対して私の方に対し、船を出すから、護衛を頼むというような連絡は私の手元には来ておりません。

[072]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
そういうことは言わなくても、あなたは危険に対して武力を持った、武力を統率される人なんだ。山口さんはまる裸なんですよ。まる裸の船を危険なところにやるというときに、相手が言って来ても知らぬ顔をしているということが、防衛庁長官として許されるかどうかということなんです。

[073]
防衛庁長官 木村篤太郎
私はその当時はまだ大砲がすえつけられておるとか何とかいうことは聞き及んでおりません。どういう状況にあるかわかっておりません。従いまして、海上保安庁の方からおそらく私の方へ向って、いわゆる護衛を依頼するようなことはなかったのだ、こう考えます。

[074]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
今の山口長官の御答弁では10月2日に大砲らしいものがあるということを確認をして、そのことは防衛庁に連絡をなさっておるという御答弁に承っております。そうすれば11月の21日に、その状況確認に行くということも当然御連絡があるべきであり、またそれがないとしても防衛庁としてはそれに対して何らかの手を打たなければならぬのではございませんか。

[075]
防衛庁長官 木村篤太郎
どういう状況になっておるかまず判断しなくちゃならぬのであります。しかしその当時においてはさような判断すべき資料はございません。従いましてわれわれとしてはフリゲートを出動させなかったのであります。

[076]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
それではあなたは砲弾によって日本の公船が撃たれたという事実を御認識になっておりますか。防衛庁としては日本の領土が侵犯されたかどうかというはっきりした判断の根拠にしなければならぬのですが、最近の機会において防衛庁自体がそれを確認されるという御用意はありますか。

[077]
防衛庁長官 木村篤太郎
すでにその事実は認めております。不法にもわが方の巡視船に対して発砲したということ、これに対しては将来大いに注意をしなければならぬと考えております。

[078]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
将来注意するだけでは済まされない問題でありまして、安保条約の第1条には、在日米軍は大規模の内乱鎮圧に対する援助をも含めて、外部からする武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用するとはっきり書いてあります。そうするとすでに現実の事態は外部からの武力攻撃にさらされておる。これを解決するためにこの安保条約の第1条を適用されて、アメリカにその協力なりないしは調停なりを御依頼なさった事実がありますか。

[079]
防衛庁長官 木村篤太郎
私の手元ではアメリカに対して協力を頼んでおりません。私は万一の場合はみずからの手によってやろうと考えております。

[080]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
みずからの手によってやるという御趣旨でありますが、すでに侵されておる現実の事態をいつまで黙って見ておかれるのですか。

[081]
防衛庁長官 木村篤太郎
ただいま外交交渉によってまず解決をしたいと考えております。

[082]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
日本の政府は、国際裁判に訴えて黒白をきめようといたしましたが、御承知の通りこれは韓国の拒否にあって不可能となっております。そこでやむを得ず朝鮮が出した郵便切手を拒むということしかできておらない。郵便切手を拒むということで竹島問題の結末をつけようとなさるのでしょうか。

[083]
防衛庁長官 木村篤太郎
郵便切手だけで解決しようとは毛頭考えておりません。あらゆる外交手段によって外務省で現実にやっておるのであります。

[084]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
自衛隊の任務は、自衛隊法の第3条によりますと、「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛するを主たる任務とし」と書いてあります。そうしますと、今目前に起っておる竹島問題はその直接侵略の対象とお考えになりませんか。

[085]
防衛庁長官 木村篤太郎
現在は自衛隊法によつて、現実の武力攻撃があった場合に、日本の国を防衛する必要ありと認めた場合においては、内閣総理大臣が国会の承認を得てこの防衛に出勤する建前になっております。そこでまず直接に防衛する必要があるかどうかということの判断をしなければならぬのであります。

今後外部からの不当侵略があって、日本の国を直接に防衛する必要が差迫ったという場合においては、第76条の規定によって処置をすべきであろうと考えております。

[086]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
今後ではありません。もう現実において、過去において日本の領土が侵されておる。韓国の軍艦によって大砲が撃たれ、占領されているという過去の事実です。将来ではありません。

これを見のがすのか見のがさないのか。手続きをとって国会に要求されるかされぬか。

[087]
防衛庁長官 木村篤太郎
ただいまのところでは、国会に対して防衛出動を要求する意思はありません。まず外交交渉によって問題を解決したいと考えております。

[088]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
長官は、直接侵略に対して日本を守る自衛隊の最高責任者である。それが竹島の現状をみずから視察をするか、少くとも有力なる責任ある幕僚をもって確認なさるべきであります。この手段をおとりになるかどうか。

[089]
防衛庁長官 木村篤太郎
現在のところではその情報収集に努めておるだけであります。

[090]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
情報収集を、はだかの海上保安庁にやらせて自衛力を持った軍艦がやろうとしないのですか。

[091]
防衛庁長官 木村篤太郎
時期が来ればやります。

[092]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
その時期はいつですか。

[093]
防衛庁長官 木村篤太郎
それは今はっきり申し上げることができません。

[094]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
国民がこの苦しい生活の財布の中から1000億円に近い税金を出して保安隊を養っておるのは、自分の国を守ってくれるというその気持から出しておるのでございませんか。そういうことをやらないで――明らかに侵された国土に対してその国土を守ろうというためにつくったものではないのですか。

[095]
防衛庁長官 木村篤太郎
もとより自衛隊はわが国を防衛し、国民の自由と平和を守るためにある。しかしそのときの情勢いかんによっていつでも出勤するということであります。私は自衛隊が出動するときは、ほんとうに国民が決心すべきときである。そういうことがなければただちに自衛隊が防衛出動に出かけるというようなことがあってはならぬと考えております。

[096]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
私はこの竹島問題に関連をして起るものは対馬の防衛だと思うのであります。朝鮮ははっきり対馬は朝鮮の領土であると宣言しておるのであります。

この対馬問題につきまして、私が昨年視察をした直後に長官も行かれまして、帰って来られてからこの部屋の中で私の質問に対してお答えになったことがあります。これは2月25日の速記録であります。

「お説ごもっともであります。私も親しく対馬の島民諸君と接触いたしまして、その人々の切々たる様子を涙をもって見て参りました。まことにもっともです。不幸にして東京付近に住んでおる人たちはあの地方の情勢を知らない、同情がないのです。私は不敏ながらかの島民たちの気持がまことによくわかって参りました。そこで今辻委員の仰せになりましたような幾多の方法がありましょう」

以下略しまして、

「これは知事も賛成の意を表しており、この人は熱心な人であります。おそらくわれわれの希望に沿うてある程度の援助はされるものと確信いたします。私は警備隊、保安隊につきましても、今対馬に対してどう配置し、またどういうぐあいにすべきかということについて、幕僚と相談いたしまして、この問題の早急の解決をはかるように努力いたしたい、こう考えております。」

このお答えは今もかわりございませんか。

[097]
防衛庁長官 木村篤太郎
もとよりかわりはありません。

[098]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
しからばこの前のこの委員会で問題になりました昭和30年度の配置予算の際に私が念を押しております。あなたがごらんになった通り対馬は今日本の直接侵略の可能性の最も多い地点であり、住民がおちおち眠れない。この不安を除くということが自衛隊の大きな任務であろう。そうすればほかのところに兵隊をふやすよりも、この島民の不安にこたえる意味におきまして、あなたがお答えになったことをなぜ誠意をもって少くとも30年度の計画にお入れにならないのであるか、これをお伺いいたします。

[099]
防衛庁長官 木村篤太郎
いろいろの点からわれわれは研究しなければならないのであります。そこに陸上の自衛隊を配置することがいいか、海の方で守らせるのがいいかということを研究しなければならない。そこでわれわれといたしましては、さしあたり海の方でもって十分守ることができると思います。御承知の通り対馬は道路も完全にできておりません。これらの点からにらみ合せて、われわれは十二分の手当をすることを考えております。しかし30年度においては、とりあえず海上自衛隊の連絡場所を設置し、終始佐世保の総監部と連絡をとって、海上からの防衛に努めたい、こうさしあたり考えております。

[100]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
私は今日の日本の防衛の上におきまして、一番大事な点は対馬である。対馬にすきをつくったならば竹島問題がやがて対馬において再燃をするのであります。発生するのであります。対馬に事が起りましたら、これは救うことのできないような大事件になります。今のうちに一石を打って相手にばかにされないだけの態勢をおつくりになることが、日韓の紛争を竹島以上に拡大しない最も賢明な策ではないかと思うのであります。

そういうことに目をおおうて、30年度においては海上自衛隊の無線機1機を対馬に出す、こういうことでごまかされようとしておりますが、ほかのところに置くよりも、向うの島民はあげて来てくれといって頼んでおるのではありませんか。経費の点からも、気候の点から申しましても、北海道あたりと比べてよほど安上りになる。兵力も少くてよろしい。しかも30年度におきましては、2万の陸上自衛隊を増そうとしておられる。その戦闘団を北海道と九州に置こうとしておられる。なぜその一部をもって対馬の不安をまじめになくするような御努力をなさらぬかというのであります。もう一度承ります。

[101]
防衛庁長官 木村篤太郎
われわれは決して対馬を閑却しておるのではございません。今仰せの通り対馬はわが国の防衛上最も必要な場所と考えております。そこでどういう手を打つかということについては、慎重にわれわれも研究いたしておるのであります。そこでさしあたり海の方でもってまずこれを固めるということを先決問題に考えて幸い来年度において増強されれば、そのときにわれくはまたひとつ考えを新たにして計画を立ててみたいとも考えておるのであります。

[102]
日本民主党(自由民主党) 辻政信
これはまだ民主党の党としての意見はまとめる段階に至っておりませんが、そのところはっきり責任をお持ちにならない限り、私はただいま提出されている法案は民主党といたしましては保留いたします。個人としては大反対であります。