昭和29年02月22日 衆議院 運輸委員会

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説明員(海上保安庁長官) 山口伝
去る土曜日に、海上保安庁所属の巡視船さどが韓国に連行された事件が発生いたしましたので、この問題についての今日までわかっておりまする経過その他につきまして、とりあえず御報告申し上げたいと思います。

まず事件発生までの経過でございまするが、公海で操業中の日本漁船の拿捕防止につきましては、御承知のように昭和27年、すなわち一昨年の5月の閣議決定に基きまして、水産庁と協力して、朝鮮半島周辺及び東支那海方面には、一昨年の9月から巡視船を常時1隻ないし2隻行動せしめて参ったのでありまするが、昨年国連軍によって設定されました防衛水域の実施が停止されまするや、日本漁船は韓国周辺の海域において相当の出漁を見たのでありまするが、このときに韓国におきましては、艦艇19隻をもって同海域の警備を強化するに至りました。そのため、日本漁船は臨検、拿捕等の事故が頻発をいたしたのであります。このことは御承知の通りであります。

海上保安庁といたしましては、このような事態に対応いたしまして、昨年の9月以来は、巡視船5隻を同海域に増派いたしまして、常時5隻を現場に出しまして、拿捕及び紛争の防止に努め、また巡視船は随時現地におきまして、韓国の警備艦艇と洋上会談等をいたしまして、直接折衝によって相手の艦艇に対しまして、いわゆる李承晩ラインの不当性を強調する。一方日本の水産業に対しましては、紛争防止のために適切な措置をとるよう指導して参りました。

しかし実際におきましては、韓国側の方針はきわめて強硬なため、操業中の日本漁船は続々と退避せざるを得ない状況になりました。10月の下旬におきましては、ほとんどライン内では事実上操業ができないような状態に立ち至ったのであります。9月以降今日までに韓国側に臨検されました日本漁船の累計は101隻、拿捕されました日本漁船は43隻に上ったのであります。このほかに水産庁の監視船第二京丸が拿捕されております。11月に至りまして、漁場は当時はあじ、さばのあれでございましたが、その後以西底びきの漁期に入りまして、漸次済州島の西側に漁場が拡大して参りました。韓国としてはその後沿岸警備隊を編成いたしまして、警備を強化する措置をとって参ったのであります。当年といたしましては、その後の漁場の趨勢にかんがみまして、東支那海方面の警備を厳にいたしまして、済州島の西側に4隻、同じく東側に1隻ないし2隻をもって、水産庁の監視船と連繋、協力いたしまして、日本漁船の拿捕防止措置を講じて今日に及んだのでございます。

去る2月20日、済州島の西方海並びに東支那海方面におきましては、巡視船くさがきを指揮船として、へくら、さど、こしき、計4隻をもって行動中であったのでありますが、このたびのさどの連行事件が発生をいたしたのであります。日時は2月20日午前6時30分、位置は北緯33度15分、東経125度20分、当時の気象並びに海象状況は、北の風、風力2、雲量は6、半晴、うねりは西、もやがかけておりました。海上は平穏でありました。ちょうど6時ごろ、レーダーにて左舷7海里に3隻の船形を認め、国籍確認のため接近をいたしました。一時はきわめて感度が良好で、韓国の警備船かまたは300トン型スチール・トロールと思われたのであります。東方は次第に明るさを増しましたが、西の方はガスと月没のため、視界は依然として不良でありました。

次いで6時20分ごろ、左舷のガスの切れ間に航海灯が薄く見えた直後、相手船よりコール・サインの発光信号を受けたのであります。韓国船の公算がありましたが、ホワット・シップ――何船かという確号信号をこちらの方から送りましたところ、返答がなく、相手船は突然銃声をもってこれに報い、同時にストップ・コールという国際信号を送って来たのであります。さどはその当時避退する余裕はあったのでありますが、ほかの2隻は操業中の日本漁船があったと思われましたので、その2隻のことをおもんばかり、会談を行うことを決意したようであります。

7時ごろから8時ごろまで、韓国海洋警備船金星号船上におきまして、同船長と会談を行ったのであります。そのときの会談の内容で、今日までわかっておりまするところを申し上げますと、さどの船長は、国際法上の慣例に基く公海における航海の自由及び漁業の自由を主張したのでありまするが、警備船船長は、さど船長の主張する国際法上の権利はわかるが、警備船は外国政府の指示で行動いたしており、船長個人の意思ではいかんともしがたいのでさどを連行する、かようにいわゆる平和ラインを固守して譲らないのでありまして、結論を得ないまま、相手は実力をもってさどを連行すると告げて、遂に実力行動に移ったのであります。

これは済州島に連れて行かれてからの様子でありますが、さどの乗組員は全員さどに乗船のまま軟禁状態で、個人の自由は何ら拘束されない。韓国警備兵約8名が陸上との交通を断ち、さどを警備した由であります。それから当日の午後10時30分に至りまして、さきにさどを拿捕いたしました金星号の船長から釈放の通告を受け、当夜零時に同地を発航いたしまして、本日の午前4時45分に間門港外の六連に到着、次いで8時20分門司に入港をいたしております。