昭和29年02月25日 衆議院 内閣委員会

[046]
無所属 辻政信
以下具体的に御質問しますが、新聞の情報によりますと、2月20日の夜、450トンの日本の監視船「さど丸」が韓国の警備船金星号、これは220トンであります。日本の船の半分しかないのです。この船によって拿捕されておる。それは朝の6時にまず機関銃でもって霧の中から撃たれた。6時半には停船を命ぜられて、7時に接舷、そうして船長と機関長が相手の船に乗り込んで行って海上会談をやっております。それが約1時間半、8時半に自動小銃を持った7名の韓国兵が日本の監視船に乗り込んで参りまして、こちらの船員15名を人質にかっぱらって行って、銃でもって船長以下をおどして連行して行った事実であります。

この状態を見ましたときに、私はこれほどまでに無抵抗といいますか、無気力といいますか、無気魄といいますか、まことに恐るべき志気の弛緩、消極的態度であると見るのでありますが、こういう場合にあなたは、無抵抗で手をあげて捕虜になれというふうにふだんから指導されておるのか、それとも国家の権威を身をもって守るようにふだんから指導されておるのか、その点を簡単に伺いたい。

[047]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
ただいまお話になりました事件当時の経過につきましては、大体そのようであります。私の方に詳細報告が入っておりますが、これは大綱は一致しておりますから省略いたします。かねがねわれわれの方といたしましては、巡視船の行動について、相手国の艦船が、最悪の場合、巡視船に対して実力をもって臨検し、あるいは拿捕しようとしました場合には、実力で来られた場合でありますので、そのときの状況を判断いたしました上で、待避不可能のときは、その場合に実力でこれを拒否するということは避けるように一応言ってあります。

しかしながら自己の生命等に危難が切迫する等、真にやむを得ない場合には、正当防衛の範囲におきまして実力を行使することはさしつかえないのでありますが、要は極力国際紛争を起さないよう自制する方針も一応頭の上に置いて慎重に対処してくれというように、かねがね指示をしてあったわけであります。

[048]
無所属 辻政信
そうしますと、小田原船長以下が相手の船の2倍の船を持って、乗組員は相手の35名に対して39名おった。その船をもってあのような侮辱を受けたことは、あなたの御希望通りの行動とお考えになりますか。

[049]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
私はその当時の報告を受けて、従来からやっておりまする接触状況、並びに当時巡視船「さど」の近くに2隻の日本漁船らしいものの操業をレーダーでつかまえておりますので、これらの船が拿捕されるようなことがあってはいけないので、これまでの通り一応そこで会談をしようという態度に船長は判断して出かけたものと思います。

ところが、そこいらの判断についての御批評はいろいろあろうかと思いまするが、船長、機関長が金星号に乗り込んで折衝をしている間に、先方は計画的であったかどうかわかりませんが、お話のように、7名の武装した先方の乗組員が「さど」に乗り込んで来、さらにこちらの方の乗組員の15名を金星号に移乗を命じた。そういうような状態になりましたので、それでいろいろとその拿捕について交渉しましたが、事態がそういうふうな進展を見て、遂にこちらとしては、それに対処する実力を行使すると申しましても、持っておりまする拳銃等はその当時用意しておりませんので、そういう事態になりましたので、やむを得ずかような連行が行われ、済州島に行って交渉するつもりであったと思うのであります。

[050]
無所属 辻政信
よけいな弁解はいりませんから、小田原船長以下のとった態度があなたに満足なものか、不満足なものかということについてはっきりお答え願いたい。

[051]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
やむを得ない処置であったと思います。

[052]
無所属 辻政信
ただいまのお話では、拳銃が間に合わなかったというのですが、あの船には拳銃が何ちょう備えつけてあって、どうしてあったか。

[053]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
拳銃は20ちょう持たしてありました。その拳銃は一定の箇所にしまい込んであったわけであります。

[054]
無所属 辻政信
私が直接見たところによると、20ちょうの拳銃は金庫に入れてかぎをかけて封印してある。しかもあなたは昨年11月6日の本委員会の席上において、自由党の平井議員の、もし危険にさらされた場合に応戦していいのか、それとも逃げて帰れというのか、どう考えるかというこの質問に対して、あなたは、「うちの巡視船は警察船の性質でありますから、不法に向うから攻撃を受けて身に危険を感じ急迫状態になれば、正当防衛、緊急避難という範囲の応戦はむろんであります。こちらが積極的に撃つということいたしかねるのであります。」こう答えておりますね。その考え方は間違いありませんか。

[055]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
私はそのときの言葉を今……。

(辻(政)委員「速記録です」と呼ぶ)

ですから、それはその通り申上げたと思います。

[056]
無所属 辻政信
私はそういうことを聞いているのではない。言葉の端くれを言っているのではない。精神はそれでいいかと言っているのです。

[057]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
その通りであります。

[058]
無所属 辻政信
しからば、今度の場合も、拳銃20ちょうをサロンに置いて、金庫の中に入れてかぎをかけて封印をしておったと私は判断する。そういう拳銃ならば、なぜ持たしておく必要があるか。まさかのときに正当防衛をやる自衛の武器であるから持たしてある。

6時に撃たれて8時半です、向うが来たのは。その2時間半というものは、とっさの場合としても、39名のうちの20名はその自衛の拳銃によって自衛ができたはずです。そうすればあのようなぶざまな侮辱を受けずに済んでいる。あちらは自動小銃を持っているけれども7名です。こちらが20名で拳銃を持って自衛の態勢をとったら、数において入って来られません。

あなたはそういうことを答えて、その気持でおりながら、その拳銃をかくのごとくしている。これは長官としての責任ではないか。

[059]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
警察官と違いまして、ふだん日常の業務をやる場合には、むろん拳銃は間違いがあってはいけないので、わが巡視船におきましては金庫に格納していることはその通りであります。

今回の場合におきましては、多少向うの出方について判断を誤ったと結果的に見れば見られるかもしれませんが、従来の通り会談に乗り込んで行き、そして話をつけて別れられるという判断でなかったかと私は思うのであります。

[060]
無所属 辻政信
そこの町のおまわりだってふだん拳銃をつけているではないですか。李ラインに行く者は海賊のいるところに行くのですよ。それが拳銃を金庫に入れて封印をしている。そんな拳銃ならなぜ渡すか。渡してあるからには、応急の場合ただちにそれを持って国の権威を守るように精神教育もやり、訓練もしなければならないのですが、あなたは先ほど小田原船長以下の行動は満足だと言い、今は状況判断を誤ったらしいと言っている。そこにすでに食い違いをいたしているではないですか。

あらためて承りますが、もしあのときに日本の巡視船に、相手は機関銃2ちょうしか持っていない、それに相当するように、こちらの方も自衛の機関銃なり機関砲なり備えつけてあったとしたならば、おそらく私は2分の1の小さな船がいどんで来ないと思うのですが、それはどうでしょう。

[061]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
まず第1点の極力国際紛争を起さないようにかねがねその点は強調しておりますから、さようなことが船長の頭にあったと思いますし、先ほどから申し上げますように食い違いでなくて、従来から洋上で会談をやって成功した場合もありますし、向うの術中に陥るというような結果に思われるかもしれませんが、その点は多少判断を誤ったかもしれませんが、事態がそうなった場合の船長の処置としては、やむを得たかったと私は考えるわけであります。

[062]
無所属 辻政信
じょうだんじゃないです。これは6時に機関銃で撃たれている。この前はそうでなかった。平和裡に接舷をしてやっている。今度の場合は6時に機関銃で撃たれておるのですよ。それで判断を誤るの誤らぬの問題ではない。海上保安庁の長官として部下を統率する、国家の権威を守るというしっかりした信念があなたにあったならばこんなことは起らない。

おそらく私の考えでは、あなたのそういう指導、どっちへやっていいかわからぬようなひょうなまな、半年間もたっておるのに、みずから一回もその現場に飛び込んで行こうとする気魄のない長官、そういうあなたの気質と同じような気質が下まで行っている。そしてこの船員たちは、国家がはずかしめを受けて、船をとられても無抵抗で、2、3箇月の後には命を全うして帰れる、こういう気持を持ったら事ゆゆしい問題になる。