昭和30年12月01日 衆議院 農林水産委員会

[002]
政府委員(外務事務官(アジア局長)) 中川融
ただいま委員長から御提示のありました韓国との最近の交渉状況等につきまして御報告申し上げます。

韓国との問題につきまして最近最も顕著な問題は、ただいま委員長からもお話のありました17日、韓国連合参謀本部が、日本漁船がいわゆる李ラインを今後も侵略を継続するならば、これに対して砲撃を辞せない、場合によればこれを撃沈することもあるということを声明したということでございます。この声明は日本に正式に通達されたものではございませんが、新聞電報を通じまして日本にも伝わり、これが日本の新聞にも大きく掲載されたのでございます。

従来からも李ラインをめぐりましては、韓国側からいろいろ挑発的な声明そのたがなされているのでございますが、今回17日になされました声明は、これをこのまま黙過することはとうていできない非常に強い内容のものでございます。日本の漁船が公海において操業いたします際に、たとい一方的な国内法に基くにもせよ、相手国である韓国がこれに攻撃を加えて、あまつさえ要すればこれを撃沈するということは、平時においては考え得ざるところでありますので、政府といたしましてもこれを重視いたしまして、さっそく――これは18日の朝刊に出たのでありますが、18日の午後、在京韓国代表部の金公使を外務省に招きまして、外務次官よりこの報道に言及し、この報道はきわめて重大なる意味を含んでいる。ついてはこれがほんとうに韓国政府の政策であるのかどうか、その点を確かめて返事をしてもらいたい。このような措置がもしほんとうであるとするならば、これは日韓関係に重大なる影響のあるものと心配せざるを得ないからということで注意を喚起するとともに正確なる情報の提供を求めたのであります。

そのときに金公使は、自分のところには、実は今のところ一つも情報が入っていないので、本国に照会してさらに御返事いたしましょうということで帰ったのでありますが、その後約2週間になりますが、いまだ韓国側から返事が来ておりません。これは韓国側においても相当慎重にこの問題をさらに考えておるのではないかとわれわれは推測いたしまして、韓国側の態度を注視しておるというのが現況でございます。

李ラインの問題につきましては、すでに李ラインが設定されました当時より日本としては、このような公海に一方的に線を引きまして、そこに対していわば管轄権を主張するということは、絶対に承認できないという態度を強くとってきておるのであります。このことは口がすっぱくなるほど韓国にもこれを抗議し、形におきまして伝えますと同時に、いわゆる李ラインを侵犯したという名目のもとに日本の漁船が抑留され、拿捕され、日本の漁民の方々が抑留されております事実につきましては、そのつど事あるごとにそれに対して抗議をするとともに、即時返還方を要求してきていることは、累次政府が御説明しておる通りであります。政府といたしましては、この李ラインの問題は非常に強い態度で先方の不当なることを指摘いたしまして、これの解決をはかりたい、かような考えでおるわけであります。

なお抑留邦人、漁夫の方々の早期釈放の件につきましては、これも従来から御説明したところでございますが、これの早期釈放ということを強く要求しておるのであります。ことに先方の一方的な――国内法でありましても、すでにその国内法に基く刑期を終って、当然日本に帰国さすべきものを、何らの理由なく、抑留したまま帰さないという事態につきましては、日本側としてはこれに対して全く理解する何らの根拠をも発見し得ないのでありまして、これについては強く早期釈放を要求しておるのであります。

すでに御報告申し上げました通り、韓国側はこの問題と、目下大村に収容されております。戦前から日本に居住している韓国人で犯罪を犯した者の日本における釈放という問題を、実質においては何ら関係ない問題でありますが、これを関係づけまして、大村の収容所における韓国人を釈放することを要求してきております。

しかしながらこの問題につきましては、政府は実質的な解決方法によりまして、その道理の問題はしばらくおきましても、とにかく漁夫の早期救出をはかるという趣旨から何らか実質的な解決をはかりたいと考えまして、この点について研究もいたし、また緯国側と内々その交渉もいたしております。この点につきましてはただいままだ御報告する段階に至っていないのははなはだ遺憾でありますが、何とか近い将来におきましてこの問題の解決をはかりまして、この寒い冬を越すことなく、釜山の外国人収容所に収容されております漁夫の方々の帰国を一日も早く実現するように努力したい、かように考えておる次第でございます。

簡単でありますが、現在までの漁業に関する日韓交渉の大要を申し上げて、御報告といたします。



[005]
自由民主党 田口長治郎
韓国の連合参謀本部が11月の17日に、日本漁船が李承晩ラインを侵犯するならば韓国はこれを砲撃し、必要あれば撃沈する、こういうような重大なる声明をしておるのでございますが、ただいまアジア局長のお話を承わりますと、同日直ちに外務省からその真疑について照会をされたがいまだにその回答がないという話をされたのでございますが、まことに奇怪千万と思うのであります。

従来この日韓の問題につきましては、いろいろな申し入れあるいは照会というようなことを外務省ではたびたびやっておられるようでございますが、いつも聞き流しのような状態で、軽くあしらわれておるようなきらいがあるのでございます。この重大なる声明に対しましても、その選に漏れないで、やはり聞き流しというようなことに終ることははなはだ遺憾に存ずるのでございますが、今日まで回答がないことに対しまして、外務省は重ねて先方に申し入れをされましたかどうか、その点を一つお伺いいたしたいと思います。

[006]
政府委員(外務事務官(アジア局長)) 中川融
韓国側に18日に申し入れましてから今日までの間に回答がないことは、ただいま申し上げました通りでございますが、これにつきましてもちろんあまりに回答が遷延するようであれば、政府といたしまして当然回答をさらに催促するという措置をとりたいと思うのでありますが、この点につきましては、結局このような激しい声明を韓国軍部で出したということにつきまして、果してこれが韓国政府の真意であるやいなやという点については、われわれとしても慎重にこの点を確かめなければならない。

そのことは同時に韓国内におきましても、やはりある意味におきましての調整措置と申しますか、あるいは端的に申せば相談とか、いろいろな措置が必要であるのではないか、かように考えて――これは推測でありますが、推測しておるのであります。もし韓国側においてあのような強い声明を出したけれども、あれについてはやはりもう少し慎重に考えなければならぬというような論が出てきておるやさきであるのならば、これをあまりにせっかちに追及する、早く返事をよこせというのは、全体の問題の収拾にかえってよくないのではないか、これは少しうがち過ぎた考え方であるかもしれませんが、さようなこともぜひ考えておく必要があろう、むしろ十分考慮する余裕を先方に与えて、そうしてはっきりした韓国側の態度を聞きたいと、いうのが目下のわれわれの考え方であります。従って目下のところまでは、これにつきましてさらにあらためて回答を催促するという措置はとっておりません。



[045]
日本社会党(社会民主党) 淡谷悠藏
11月の17日に韓国の連合参謀本部が出しました武力行使の声明、それからさらにまた日本水産の漁船素水、麗光の両隻が李ラインを航行中拿捕したといったような事件が、漁民に大きな不安を与えておることは事実でございますが、もう事態はだんだん悪化するだけで、李承晩の常識のないことがはっきりしているようでございますが、これに対してこの声明通り出漁した漁船に対して韓国の艦隊が砲撃を加える、あるいはまた飛行機の上から何らかの危害を与えた場合に、一体海上保安部はどうなさるおつもりでございますか。

[046]
説明員(海上保安監(警備救難部長)) 砂本周一
砲撃したときにどうするか、ちょっと考もここではっきりしたお答えはできかねます。ただ今までやっていましたようにやる以外にないのでございまして、ただ私どもの考えとして、そういうことが声明通りやれるのかどうかということは非常に疑問を持っております。今までの拿捕すらも当然認めることのできない拿捕、ライン内に入っているということでもって、いきなり砲撃、撃沈というのは、われわれの常識からいたしましては、もちろん法律上からも問題でございましょう。ないと思うのでございます。しかし声明しておりますから、そのことは十分関心をもって終始当っておりますけれども、あった場合にどうするかという御質問に対して、今私は申し上げられないのでございます。

[047]
日本社会党(社会民主党) 淡谷悠藏
李承晩の常識の問題になるのでございますが、すでにこの長い間のことで常識を失っておることは事実のようでございます。従って今度の声明が単なる声明として終るか、あるいはこれを取りかえるか、こんなことはさっきのアジア局長の御返事では、まだ何とも言ってこない、声明を出しっぱなしにして、日本の漁船が入ったならば、これはやはり、砲撃があるものと予期しなければならぬ。

防衛庁の増原次長はこの事態に対してどのようなお考えを持っておられるか。日本の漁民の自衛のためには今でこそ防衛庁は立つべきときじゃないですか、どうですか。

[048]
政府委員(防衛庁次長) 増原恵吉
ただいままで外務省及び海上保安庁から御答弁のありましたところに、私どものところの考え方も大体尽きるわけでございます。今のところわれわれ防衛庁事務当局といたしましても、砲撃されたらどうするかということを、ちょっとお答えをいたしかねる状態でございます。

[049]
日本社会党(社会民主党) 淡谷悠藏
事務当局としてはお答えができない。やはり日本政府の責任で閣議決定をみなければ、こういう事態になって、たとい漁民が正当なる権利を行使する上において受けた危難であっても、防衛庁は黙って見ているより仕方がないという御答弁とみてかまいませんか。

[050]
政府委員(防衛庁次長) 増原恵吉
防衛庁は黙って見ておるのだと申し上げたのではございません。そういう事態に対して今どうこうするということをお答えをすることが困難であるということを申し上げたのでございます。

法律を申し上げるまでもなく、海上における警備行動というものがありまして、特別の必要がある場合には、海上における人命、財産の保護のために、総理大臣の承認を経て防衛庁長官は海上自衛隊の警備行動をさせるという権限を持っておるわけであります。海上自衛隊を出す必要のある事態というものを諸般の事情から考えまして、これはもとより第一次的と申しますか、基本的には、海上保安庁が海上における生命、財産の保護に当るわけであります。特別の必要がある場合という事態を認定いたしまして、どうしても必要があるという場合には総理大臣の承認を経て防衛庁長官が海上自衛隊を出すということになるわけでございます。

[051]
日本社会党(社会民主党) 淡谷悠藏
私は誤解を避けるためにはっきり申し上げておきますが、李承晩ラインの問題は、防衛庁の実力行使によっては解決がつかぬと私は考えております。しかしながら地元の漁民たちの逼迫した空気では、この際防衛庁が出動して生命、財産の保護に当れという強い要望が巻き起っておるようでございますが、このような事態で防衛庁が出動した場合に、日本の憲法第9条との関係が一体どうなりますか。事務的にお答えを願いたいと思います。これならばお答えができるでしょう。

[052]
政府委員(防衛庁次長) 増原恵吉
いわゆる季ラインにおきまする海上警備行動として海上自衛隊が出まする場合は、海上における生命、財産の保護という問題でありまして、憲法9条に抵触するというような問題は起らないものと考えます。

[053]
日本社会党(社会民主党) 淡谷悠藏
すでに起っているじゃありませんか。あなたは現在不当なる李承晩ラインの内部あるいは外部において韓国に拿捕されました隻数が108隻、いまだ帰還せざる漁民が636人、死亡せる者が5名、これが国民が受けた財産、生命上の危難とお考えにならないのですか。しかも海上保安庁が幾らがんばりましても、拿捕隻数というものはそんなに減っていない。しかも今度は攻撃を加える。一体どの程度まで入れば国民が財産、生命の危険を感ずる状態とお考えですか。それとも今の防衛庁の形ではなかなかこういう問題には手が出せないんだ、こういうふうに考えられるのか、その点をはっきり言っていただきたいのです。

今出漁しようとする漁民たちは、もうそんな問題じゃないのです。ほんとうにやろうとしているのです。その場合に防衛庁がこれを救い得るものや、守り得るものや、あるいは海上保安庁がはっきり責任をとって危険を避けてくれるものかどうか、非常に大きな関心事です。それをいたずらにごまかし的な、せっかく研究中といったようなのんびりした答弁ではとても満足できない。どの程度まで危険が迫ればあなた方の考えでは出動し得る状態とお考えですか、まずお答えを願いたい。

[054]
政府委員(防衛庁次長) 増原恵吉
ただいまの御質問は9条とは関係がない御質問と思うのであります。政府として漁民の生命、財産の保護ということを考えていないということはもちろんないことは御了承のことでございます。海上保安庁が責任者としてこれに当っておるわけでございます。

海上自衛隊が出まするのは特別の必要ありと認めた場合に出るわけでございます。ただいま御質問者も今自衛隊が出ても、そうして実力行使によって事態がうまく行くとは思わないというふうに御意見をお述べになりましたが、自衛隊を特別の必要ありとして出すことが適当であるかどうかという判定の問題になるのでございます。生命、財産の保護としては海上保安庁がその責任にただいままで当っておるということでございます。



[091]
日本社会党(社会民主党) 今澄勇
海上保安庁の御出席の方に聞きますが、李承晩ラインにおいて韓国側が今出動させておる艦艇は、どういう種類のものがどの程度であるか、漁船に装備をしたものが大体何隻、向うの正式砲艦が何隻、向うの駆逐艦が何隻か、あなたの方の調査の結果おわかりの点について御報告を願いたい。

なおもう一つ、いわゆる朝鮮漁業海域において先般哨戒機が出たという話だが、その哨戒機の種類はどういう種類で一日に何回くらい哨戒をやっておるかということについて、海上保安庁は連日御苦労さまですが、調査の結果を御報告願いたいと思います。

[092]
説明員(海上保安監(警備救難部長)) 砂本周一
平素の労をねぎらっていただきましてありがとうございました。私の方もこれは情報でございまして、よくわかりませんが、御承知のように当初は直接軍機関が出てきておったようでございますが、途中で若干模様をかえまして、現在性格から申しますと、ほぼ警察的な性格で、いわば私どもの海上保安庁に似通った性格を持つものと私は想像しておりますが、海洋警備隊というのが出ております。

この海洋警備隊と申しますのは、商工部の下に海務庁がありまして、その海務庁の下部機関として海洋警備隊が構成されております。こういうふうに承知しております。その海洋警備隊の持っております船艇は、これはトン数もまちまちでございますが、一応の調査といたしましては、最大が排水トンで250トン、次が200トン、190トン、150トン、100トン、こういったものを合せまして14隻持っておるようでございます。これが釜山、木浦、浦項、済州島の済州、仁川というところを基地として動いておるようでございます。そのほかに水産局の監視船といたしまして4隻持っておるようでございます。そのほか税関監視船もありますが、こういったものがちょこちょこ出てきていたずらをしておるようでございますが、その動き方についてはかなり詳細なものが情報として入っております。

それから航空機の件でございますが、今の御質問に対して、今申しましたこの情報ほど的確なものはないのでございまして、ここでお答えすることができないのははなはだ遺憾に思います。

[093]
日本社会党(社会民主党) 今澄勇
向うの偵察機が今回の声明発表後日本漁船の操業を上空から偵察したことは、漁船の報告に明らかでありますから、海上保安庁は少くともそういう情勢を的確につかんで、そして国会に報告してもらいたいと思います。

私は当農林委員会に韓国側李承晩海域に出動しておる艦艇の詳細なるデータを一つ提出せられることを要求いたします。なお航空兵力もいかなる機種がどのような状態で偵察に出ておるかということを当農林委員会に報告することを要求いたします。そうしてそれらの韓国側が行なっております武力的な哨戒並びに日本漁船に対する武力的な威嚇、それらの状態を十分正確に国会は検討して、国会としても、李承晩ラインという漁場の問題から、遂にはわが日本の独立国としての権威に至るまでの重大な侮辱をあえてしておる韓国に対する態度をやはり考える必要があると思いますから、海上保安庁はそれらの情報を当農林委員会に御報告を願います。