昭和38年02月02日 衆議院 予算委員会

[091]
民主社会党 春日一幸
李承晩ラインを侵したということで不当に抑留されております日本の漁船、それから漁船員、それから起こるところの損害、ここに算出されておるものを見ますと、総計90億円余に上っておると思います。

日韓交渉においてこれが補償についてはどういう扱いがされておりますか、伺います。

[092]
外務大臣 大平正芳
これはこの間も明らかにいたしましたように、請求権の問題と別個でございまして、終戦後起こった事態でございます。この問題は日韓の漁業交渉の一環として処理したいという心組みでおるわけでございます。

[093]
民主社会党 春日一幸
日韓漁業交渉のときにその不当に拿捕された船舶、船員、そういう生命、財産に与えられた損害について日本が賠償請求を行なうことができる、その機会は留保されておるのでございますね。

[094]
外務大臣 大平正芳
今申し上げました通り、漁業交渉の一環として処理したいと思っています。



[215]
日本社会党(社会民主党) 野原覺
そこで、外務大臣に続いてお尋ねいたしますが、これは先ほど春日君が午前中に尋ねたことであります。それは李ラインで日本漁船が拿捕されて、日本の漁夫が何1000人と抑留された、このことに対する損害賠償をどうするのかという質問が、本委員会でも何回となく行なわれましたが、これに対するあなたの御答弁は、漁業交渉の場で交渉するというこの一語に尽きておるのであります。

賠償を請求するのでございますか、いかがですか。ただ交渉をするとは、賠償をはっきり請求するという意味の交渉でございますか、いかがですか。

[216]
外務大臣 大平正芳
これから本格的に漁業の討議に入るわけでございますが、私が申し上げられる限度は、漁業交渉の一環として処理するつもりでございますということでございまして、どのように主張をしていくかということは、今の段階におきましては申し上げられないわけでございます。

[217]
日本社会党(社会民主党) 野原覺
賠償請求をするという基本的な態度は政府はきまっていないのですね。ただ交渉する、向こうの出方を見て交渉するというのであって、あの国際法違反の李ラインで何1000人もつかまって、そのうち何人かはあの監獄の中で死んで、そうしていまだにものすごいたくさんの船が返されていない。このことを漁業交渉の場で交渉をする、交渉するとは賠償請求ではない、そういうことはまだきまっていない、こう受け取ってよろしゅうございますか。

[218]
外務大臣 大平正芳
私が申し上げておるのは、漁業交渉を通じましてその問題を処理いたしたいということでございます。

[219
日本社会党(社会民主党) 野原覺
処理いたしたいということは、賠償の要求が入りますか。賠償要求するという基本態度はきまっておるのであるか。いかがですか。

[220]
外務大臣 大平正芳
今御指摘の事実を踏まえた上で、この問題の処理を漁業交渉を通じてやりたい、こういうことでございます。

[221]
日本社会党(社会民主党) 野原覺
どうもはっきりいたしませんね。大事な点になるとあなたはぼかされる。どうもはっきりしない。私は賠償の要求をするのかと聞いておる。

それじゃお尋ねいたしますが、一体損害の金額は幾らですか。あなたは交渉するのだと言いますが、もう漁業交渉は始まっている、予備折衝が。損害の金額は幾らですか。

[222]
外務大臣 大平正芳
この問題は、御案内のように、拿捕の事実があったケース、ケースにおきましてわが国は賠償権を留保いたしておりますことは、野原さんも御承知の通りでございます。今の問題、幾らぐらいの金額になるかということになりますると、事実171隻の漁船の評価ということは、正確に、慎重にやらなければならぬ性質のものでございまして、大まかに幾らになるというようなことでただいまお答えはできる段階ではございません。

[223]
日本社会党(社会民主党) 野原覺
あなたは交渉すると言いながら、いまだに金額の算定もしていない。しかも、賠償請求するかと言ったら、言葉を濁すのです。

しない腹でしょう。はっきり言って下さい。国民は聞いておるんだ。しない腹でしょう。いかがですか。賠償請求するのですか。するのか、せぬのか。簡単です。するか、しないか。

金額はむずかしいからあと回しでもよろしい。とにかく賠償請求はしなければならぬという基本的な態度をとっているのか、とっていないのかということだ。交渉することはわかっております。どうなんですか。するのかせぬのか。イエスかノーかです。

[224]
外務大臣 大平正芳
それは、ただいま申し上げました通り、賠償権は留保してございます。

[225]
日本社会党(社会民主党) 野原覺
そういたしますと、賠償金は留保してございまするから、賠償請求をする、こう理解してよろしゅうございますね。

[226]
外務大臣 大平正芳
そういう事実の上に立ちまして、漁業交渉を通じて処理いたします。

[227]
日本社会党(社会民主党) 野原覺
実に不明確です。これはしなかったら大へんですよ。昭和32年の12月17日に閣議決定をしておりますね。これは外務大臣御承知でございますか。抑留中になくなった者に対して見舞金を出したのです。ところが、この見舞金の性格が問題になったのです。日本政府の責任で抑留されたわけじゃないんだ、どうしたものだろうかといったら、32年の12月17日の閣議では、これは賠償金の内払いだということで決裁をした。決議を出しておる。

しかも、外務大臣はただいまいみじくも御答弁になったように、あなたは、日本の漁船がつかまってひどい目にあっておるときに、そのつど外務省は抗議の口上書を出しておる。その口上書を読んでみなさい。賠償金は留保すると書いてある。

これはどう考えても、国際法違反の李ラインで日本の船をとっつかまえてひどい目にあわして、賠償金の請求をするとあなたが明言できない理由は何ですか。私は、するのかしないのかと、こんな簡単な問題で押し問答することは、時間が惜しくてならぬのでありますけれども、これは国民が聞きたいから、私は押し問答しておるのですよ。何ですか、一体その態度は。いかがですか。

あなたは、そういう事実を踏まえて交渉をする、こう言いましたが、そういう事実を踏まえて、今言った閣議の決定、これも事実、それから賠償金を留保した抗議の口上書も事実、そういう事実を踏まえてあなたは交渉するということは、当然これは賠償の要求を出すんだ、その基本態度をもって臨むのだ、こう受け取ってよろしいかどうか、再度お尋ねいたします。

[228]
外務大臣 大平正芳
賠償請求権は留保してあるわけでございます。今、野原さんおっしゃった通り、日韓の間に横たわる懸案として漁業問題は最大の問題の一つだと思うのでございまして、これを両国民が納得がいくように解決することに成功しなければ、国交の正常化と言うことができないわけでございまして、そういう重大な問題の交渉を目睫に控えておるわけでございまして、今私が申し上げましたように、あなたが御指摘されたもろもろの事実、そうして私どもが従来賠償権を留保した経過等を踏まえた上で、漁業交渉を通じて処理いたしますと、こう申し上げておるわけでございます。

[229]
日本社会党(社会民主党) 野原覺
そういたしますと、賠償請求をすると私は理解いたします。

そこで、総理にお尋ねいたします。総理は、昨年の8月21日の予算委員会でございましたが、損害賠償の請求に対する答弁で、こう言っておるのです。「損害賠償をどうするかという問題は、やはりそれをしなければ日韓交渉をしないというわけのものじゃございません。われわれは今までの不本意な状態を今後正常化によって、いわゆる李ライン問題が資源確保、共同利益のために解決すれば、あえて過去のものを私は問おうという考え方は持っておりません。」

どうもこれは文章が難解でございまして、私ども何回も繰り返して読んだのでありますが、やはり最後のところが大事だと思うのです。資源確保、共同利益のために漁業問題が解決すれば、あえて過去のものを私は問おうという考え方は持っておりません――総理、この御答弁は、今日もお変わりございませんか。

[230]
内閣総理大臣 池田勇人
われわれは、前向きで、過去の事実を考えながら正常な妥結をはかりたい、こういうのでございます。

[231]
日本社会党(社会民主党) 野原覺
総理にもう一度だめを押したいのですが、賠償請求をするのかしないのかは、漁業交渉の場で、いろんなことを判断をしながら進めなければならぬ、こういうお考えですね。

[232]
内閣総理大臣 池田勇人
過去の事実は事実として主張いたします。しかし、それにとらわれることなしに、両国民の相互納得のいくような方法で解決したいと思っております。