昭和28年02月27日 衆議院 水産委員会

[032]
自由党(自由民主党) 甲斐中文治郎
私はこの朝鮮付近の水面における日本漁民射殺事件に関連して外務政務次官にお伺いいたしますが、日本漁民射殺事件に対する李承晩大統領並びに金公使、あるいは公使の秘書とかいう者の声明を総合しますと、李承晩ラインは正当なものである、これを侵すものが悪いということと、この区域内に入った日本の漁民の生命は保障しない、つまり殺されても知らないという2点に要約されると思います。

これは実にゆゆしき大問題でございます。つまり国際公法または慣例を無視して、自由の公海にかってに李承晩ラインを設定し、その区域内に日本の領土たる島根県の竹島を包含せしめ、その区域内に入った漁船を拿捕し、略奪し、漁民を殺戮しても知らないというようなことは、純然たる侵略行為であると同時に海賊行為であり、従ってこの海賊行為を正当化せんとする韓国政府の声明は、とうてい文明国の政府の声明とは思われないのであります。

このような韓国政府を相手に、文明国の政府に対するような紳士的な外交交渉を進めておられまして、はたしてこの問題が解決できる見込みがあるかどうか、その見通しを伺いたいのであります。

[033]
政府委員(外務政務次官) 中村幸八
お説のように李承晩ラインは決して国際法上認められておるものでないのであります。この李承晩ラインの中に入って来た日本漁船を拿捕するとかその他の行為をすることは不法行為でありまして、わが方のとうてい容認することのできないものであります。従いましてわが方といたしましては、李承晩ライン内における漁船の拿捕事件が起りました都度抗議を申し込んでおり、また漁船の返還あるいは損害賠償等を要求しておったのであります。

過般の第一、第二大邦丸の事件の際には、特に殺人事件が引起されたため、今回は特に厳重な抗議をいたしたことは御承知の通りであります。その事件につきましては、わが方といたしましては、韓国側が誠意を示して回答を寄越すことを期待いたしておるのでありまして、近くいずれ回答が来ることと考えまするが、その回答を見た上で何分の態度をきめたい、かように考えておる次第であります。どういう回答がもたらされるか目下のところは見当がついておりません。

[034]
自由党(自由民主党) 甲斐中文治郎
見通しがつかないということでありますが、まことにごもっともなことと思います。私は何も外務当局が軟弱であるとか何とか非難攻撃する目的で申し上げておるのではございません。相手が紳士でありますならば、紳士的な交渉でもの事は解決するかもしれませんけれども、相手は紳士ではありません。下から出ればつけ上り、上から出ればぶら下るのですから、どっちからでも変な小りくつをつけて、あるいは暴力に訴えても何か日本の権益を脅かそうという精神が現われておりますから、そういう政府を相手に紳士交渉を始めるのはむだだから、こちらも暴に報いるには暴をもってするがよい――とは私は言わない、日本は紳士国でございますから。それで紳士的交渉を始めるとともに、一方において実力でもってこういう事件の起らないように防ぐことが必要であると思います。

その実力の問題ですが、今日本には海軍がございません。われわれのたよりとするところは海上保安庁の実力、それだけでございます。そこでこの前の委員会においても私申しました通りに、私のまわりましたところの朝鮮方面に出張する地方の漁民の要求は、外務省も海上保安庁もたよりにならないから、機関銃を一ちょうずつ船に貸してくれというのであります。そういう要求をしておるのですが、海上保安庁と外務省とで相談して、ひとつ機関銃を貸してもらえないでしょうか、ちょっとお伺いいたします。

[035]
政府委員(外務政務次官) 中村幸八
漁船に機関銃を備えつけること等につきましては、これは慎重に考えなければならぬ問題じゃないかと思います。

[036]
政府委員(海上保安庁長官) 山口傳
ただいま外務省の方から御答弁になったように、私どももこの問題はよほど慎重に考慮しなければならないと思っております。

[037]
自由党(自由民主党) 甲斐中文治郎
ごもっともだと思います。それでどうでも貸してくれというわけではございませんが、漁民がそういう要望をしておりますから、国民の代表者たる私が政府に対してお伝えしただけであります。その要旨は、要するにこういう問題の起るのは、結局日本に海軍がないからだと私は見ております。ですからやはり実力を持たなければならない、そのためには海上保安庁の実力だけでは心もとないからして、漁民みずから自分を守るという覚悟を示す意味においても、機関銃の一ちょうくらいは貸してやった方が士気があがっていいじゃないか、こういうような単純な考え方なんですけれども、これは必ずしもいいとは私は考えておりません。ただ一番お願いしたいことは、海上保安庁の警備の実情を詳細に知らしていただいて、漁民にある程度の安全感を与えたい、かように考えるのであります。