昭和27年12月04日 参議院 大蔵委員会

[009]
労働者農民党 木村禧八郎
この提出された資料を見ますと、非常に拿捕、抑留と言いますか、非常に多いのですが、これをもう少し詳しく御説明願いたいのです。その最近の状況、今後の見通しですね。こういうふうに非常に激増すれば、更に又繰入れの問題は今後も多くなって来ると思われるので、その実情をもう少し詳しく、なぜ昨年12月頃から非常に殖えておるか。こういうことになっておりますね、説明では……。

一つ一つということは申しませんが、その実情を詳しく御説明願いたいのです。今後の見通しはどうでありますか。水産庁のほうの漁船保険課から出された資料……。

[010]
説明員(水産庁生産部長) 永野正二
只今のお尋ねによりまして、日本漁船の拿捕の状況につきまして概略御説明を申上げたいと思います。

御承知の通り講和条約が発効するまで、日本の漁船はマッカーサー・ラインというもので行動が制限せられておったのでございます。当時はこのラインを出ましても相手国と申しますか、利害関係国がこの漁船を拿捕するというようなことは認められておらなかったのでありますけれども、これに名を借りまして我が方の漁船を拿捕し、その船員を抑留したいという例が相当多かったのでございます。

講和条約が発効いたしましてから、当然日本の漁船も公海における操業の自由を回復いたしたわけでございます。相手国の領海侵犯というようなことがない限りは、これを拿捕するということは当然国際法上の不当行為になるわけでございますけれども、たまたま中央と国際政府との間の戦闘行為が激しかった時分に、その交通機関としての価値からであろうと思うのでありますが、あの間の海域に出ました船に対しまして相当拿捕が行われた。

又韓国のほうからは、朝鮮半島の戦闘が激しくなった時分に、これ又同じような理由からであろうと思いますが、船の一種の掠奪とも申すべき拿捕が相当多かったのでございます。講和条約発効と共に、韓国の関係は殆んど本年の8月頃まで、この船の拿捕ということは全く影をひそめておったのでございまするが、8月の中旬及び9月の中旬と2回に亘りまして合計3隻の船が韓国の手によって拿捕されておる。これは先方の申します理由は、領海を侵犯したということでございますけれども、我々が漁船のほうから無電その他の方法で入手しましたところによりますと、この漁船は公海の上で明らかに拿捕されたものであるというふうに我々は考えております。

(中略)

一番今差迫って大きな問題となっておりますのは韓国の関係でございます。この関係につきましては、御承知の通り本年当初、韓国大統領李承晩氏によります李承晩宣言によります一方的な漁業の管轄権の主張がございまするが、これに対しましては、当方はこれは国際法上到底認めがたいものであるとの見解を明らかにいたしております。

その後も韓国といたしまして、必ずしもこの李承晩宣言の内容通りを実施するという体制にはないのでございます。先ほど申上げまして講和後の拿捕につきましても、その理由は相手は領海侵犯ということを理由といたしておる次第でございます。李承晩ラインを主張して当方の漁船を拿捕し、船員を抑留したという例は現在のところございません。今後はこの問題につきましては、相当困難な事情もあるかと存じますけれども、外交当局を通じまして、一日も早く正常な話合いのできる時期に入ることを我々としては切望をいたしておる次第でございます。

[011]
労働者農民党 木村禧八郎
8月以後韓国に拿捕された3隻の問題はどうなっているのですか。

[012]
説明員(水産庁生産部長) 永野正二
8月の中旬に拿捕されました1隻の船につきましては、すでに韓国側の一方的な裁判によりまして判決が下りました。これにつきましては、この船の船長その他は相当強迫その他によりまして、領海侵犯をしたという自認書をとられておるのでございまするが、これは彼らがその生命の危険を感じて止むを得ず承認したものであると我々は考えております。それにつきまして、具体的な資料も添えて外務省当局を通じて交渉をいたしておりますが、すでにこの自認書を基礎にして、殆んど当方の抗弁、釈明、介護等を用いず、一方的に韓国語を用いる裁判を以て判決が下されております。この判決の結果は、船体及び漁具、漁獲物は没収する、それから船長及び漁労長は2ヵ月の懲役及び日本円に換算いたしまして5万円の罰金、その他の乗組員につきましても若干の罰金を伴っております。こういう判決が下されまして、ただ懲役になりました船長、漁労長等も健康の理由を以て当方にすでに帰還をいたしております。

残りましたその次の9月の中旬の2隻につきましては未だ裁判が行われておりません。船体は韓国側が抑留をいたしておるわけございまするが、乗組員の大部分のものはすでに帰還をいたしました。船長その他主要な船員がなお韓国側の拘留するところとなっておるわけでございます。



[020]
日本社会党(社会民主党) 波多野鼎
ちょっと一つ。先ほどの韓国の拿捕が李承晩ライン侵犯を理由としたのじゃなくて、向うは領海侵犯を理由として拿捕したのだ。併しこちら側の調査によれば領海侵犯じゃないというふうな証拠があるという話でしたが、韓国側は領海を広くとっておるのじゃないのですか。

[021]
説明員(水産庁生産部長) 永野正二
韓国側の領海の主張ではなく、漁業に対する管轄権の主張として、先ほど申上げました李承晩宣言という主張がございまするが、その主張を相手国に対してそのまま具体化するということにつきましては、必ずしも明らかでございません。

李承晩ラインというものの中は韓国が漁業についての管轄権を持つということを主張し、希望をしておる状態である、こういうふうに我々は判断をいたしております。

それで先ほどの拿捕につきましては、やはり領海3浬の中に入っておったということを理由にいたして拿捕をしたのであります。

[022]
日本社会党(社会民主党) 波多野鼎
こちら側の調査ではどの辺におったのですか。

[023]
説明員(水産庁生産部長) 永野正二
私どもの調査では、済州島の東の端から30浬大体離れたところで拿捕が行われた。

それから後の9月の2件につきましては、これは同じところで拿捕されたわけでございますが、大体済州島の東から20浬離れたところであると、乗組員をいろいろ調べました結果、そういうことであります。

[024]
日本社会党(社会民主党) 波多野鼎
その位置は領海と李承晩ラインとの間ですか。

[025]
説明員(水産庁生産部長) 永野正二
勿論先方の申しております李承晩ラインの中でございます。

[026]
日本社会党(社会民主党) 波多野鼎
領海からはうんと離れていますか。領海3浬から……。

[027]
説明員(水産庁生産部長) 永野正二
只今申上げましたように、30浬マイナス3浬の27浬、又は20浬マイナス3浬の17浬は少くとも離れております。