昭和39年10月09日 衆議院 農林水産委員会

[002]
自由民主党 鯨岡兵輔
私は、外務大臣に、最近再三にわたって、いわゆる李ラインにおける不法な韓国の行動に対して、わが国の態度が少しなまぬるいのではないかと前からも指摘してまいったのですが、とうとう韓国の警備艇は、夜間ともしびを消してわが国の漁船に体当たりして、これを沈めるという大事件を起こしたのであります。幸いにも当局の適宜な処置によってその乗組員は無事に帰ってまいったそうでございますから、その点はよかったのですが、そのときの模様を詳細にひとつお話しを願いたい、それから質問をいたしたい、こう思うわけでございます。

[003]
説明員(外務事務官(アジア局長)) 後宮虎郎
事実問題のところを私のほうから説明さしていただきます。

10月5日の午前0時20分ごろ、まき網運搬船の第五十八宝洋丸、これは78トン、乗組員7名でございます。船主は長崎県の宝洋水産株式会社でございますが、これが牛島の東北方約28.5マイルの公海上の地点におきまして、韓国警備艇867号によって追跡拿捕されるに至ったわけでございます。

拿捕にあたりまして、いま先生から御指摘がございましたように、先方の警備艇が強行接舷をしようとしましたときに、同船の機関室に衝突いたしまして、宝洋丸の乗組員7名を向こうの警備艇に移乗させまして、そうして今度警備艇のほうの隊員4名を、つかまえました宝洋丸に移しまして、釜山のほうに向かいまして曳航を開始したわけでございます。

しかしながら、当日は相当海も荒れておりましたような関係もございまして、強制接舷のために起こりました損傷のために浸水し始めまして、午前2時ごろについに沈没するに至ったわけでございます。

この沈没いたしましたときに、宝洋丸に乗り移っておりました韓国警備隊の4名が、これは海中に飛び込んだわけでございますが、4名のうち3名は向こう側、韓国側が救い上げたのでございますが、そのうち1名はわがほうの巡視船「あわじ」に救助されたわけでございます。

それで、外務省といたしましては、当日午前3時20分に海上保安庁のほうよりこの事件につきまして連絡を受けまして、直ちに韓国代表部の担当官の自宅に連絡をとりまして、抗議を申し込むとともに、この善処方を要求したわけでございます。過去20年近くの間ずいぶん拿捕事件はあったわけでございますが、沈没いたしましたのは、たしか私の記憶するところでは初めてだと思うのでありまして、その意味で、非常に、時節柄、特に協力問題等が起こっているいまの時期に本問題が起こりましたことにつきまして、外務省といたしましても本件を重要視いたしまして、当日午前10時アジア局長から裴大使に抗議を申し込みますとともに、直ちに大臣からも裴大使に正式の抗議を申し込むことにしたのでございますが、ちょうど午前中予算委員会がございました関係で、午後3時半に裴大使を外務大臣が呼ばれまして正式に抗議を申し込むと同時に、当時はまだ船員の釈放を見ておりませんでしたので、とりあえずこの船員を洋上で釈放するようにということを申し入れまして、裴大使もこの不幸な事件が起こったことについては非常に残念だということを回答するとともに、とりあえず日本側の要望の趣旨は本国政府に伝えて善処に努力するということを約束したのでございます。

その後、現場におきまして、海上保安庁側の巡視船は、本庁のほうと密接な連絡のもとに、先方と洋上交渉を無電によっていたしました。そうして、その結果、同日夜の9時15分に李ライン付近におきまして、つかまっておりましたわがほうの船員と、それからわがほうに救い上げました先方の警備艇の船員、それにお守についておりましたもう1名の先方の船員、計2名、これを交換して、一応船員の交換だけは無事に終了した、こういうのが事実の経緯でございます。

[004]
自由民主党 鯨岡兵輔
大使をお呼びになって、外務大臣がお会いになっていろいろ抗議を申したときに、まことにこういう不幸な事件が起きて残念だ、これからのことはいろいろ善処するというお話があったというのですが、もう少し詳細に、そのときどういうような言い方を韓国大使はなさったか、外務大臣からお答えを願いたい。

[005]
外務大臣 椎名悦三郎
この問題につきましてまず申し添えておきますが、沈没による損害賠償の請求権については保留するという旨を申し添えました。

それから、大使との会談の内容でございますが、この問題に限らず、最近かような拿捕事件が肝心の際に次々と起こることはまことに遺憾である、一体拿捕して韓国側にとってどういう利益があるのか、ただ胸がすくというだけでは問題にならぬのではないか、せっかくわれわれはこれから本格的な会談の再開に入ろうとして、懸案の漁業会談も始めなきゃならぬということを考えておる際に、ただこういう問題で非常なブレーキをかけるということは、韓国側として一体どういうところにねらいがあるのかという点を突き詰めてみたのですが、全くそれは同感である、両国の関係を改善する重大な時期にかような事件を起こしてまことに申しわけないということをしきりに弁解しておりました。その点は大使も、私は誠意のほどを十分に認めることができたと思うのであります。しかし、突然今度は大使級の広範な更迭がございまして、新しい人にかわったわけでございます。現大使は、実情を十分述べて、新大使に引き継ぐものと考えております。

[006]
自由民主党 鯨岡兵輔
沈没した船の損害賠償については、これは保留をいたします、こういうことであって、払うとは言わない。

それから、どういう利益があなた韓国にありますか、胸がすくというだけでは意味ないじゃないか、これから一生懸命お互いに仲よくやっていこうというやさきにどうも理解に苦しむんだがと大臣がおっしゃったら、大使は、全く同感であります、これからないようにというようなお話があったような御返事でありますが、どうも話がよくわからない。

けさのラジオの放送によると、韓国は、来年は予算を2億か計上して船を新造し、また長期の計画で14億も予算を計上して7、8隻の新鋭船をつくって、ますます警備強化に当たるということを発表したというんですが、それといまのお話と多少矛盾があるように思いますが、いかがでございますか。

[007]
外務大臣 椎名悦三郎
私も向こうのほうでどういう新しい予算の組み方をしておるかよく存じませんでしたが、もしそういうことを考えておるとすれば、一応たてまえとしてそういうことを言っているんだろうと思うのであります。これは向こうの政策の問題でございますから、これ以上立ち入って批判をすることは避けたいと思いますが、いずれにしましても、両国間の問題に関する両国間の基本的態度は、私は、従来とかわりがない。その間にどういう予算編成をして、そしてどういう経過をたどっておるかにかかわらず、日韓の問題に関する基本的態度は変わっておるものとは考えない次第でございます。



[010]
自由民主党 鯨岡兵輔
大臣が大使をお呼びになって話をしたときには、大使は非常にわかったような話をしている。しかし、一方、向こうの政府は、ますます警備艇をこしらえて、この警備を強化して、日本の漁船を拿捕するんだという気がまえを見せている。

これでは私はまことに不信であって、もう正常におつき合いもできないという感じを私個人は持ちます。大臣もきっと内心ではそう思われるに違いないと思いますので、この件については時間もありませんから総まとめで私の不満の意を申し上げたいと思いますが、先に進ませていただきます。