昭和28年07月15日 参議院 本会議

[025]
日本社会党(社会民主党) 松浦清一
私は、本月12日の朝、竹島周辺の海域におきまして海上保安庁の巡視船が韓国漁船から射撃を受けた事件に関連をいたしまして、この事件の真相、竹島が我が国の領土であることの実証、及びこのよろな事件の起る原因、日韓会談の経過、日本の漁業に及ぼす影響等につきまして、緊急に関係大臣の御所見を伺いたいと存じます。

先ず第1にこの事件の真相についてでございますが、海上保安庁を所管される運輸大臣にお尋ねをいたします。私の知る範囲の情報では、本月12日の午前8時頃、海上保安庁の巡視船「へくら」が竹島周辺の海域を巡視中に、韓国旗を掲揚した武装警官の乗船した白色10トン程度の漁船が2隻、青色5トン程度の漁船が1隻、「へくら」に接近をして参りまして、何の警告もなしに射撃をして来たのであります。併しながら、こちらの側では、これに対して何の抵抗もすることもなく逃げて帰って来たというのでございますが、その事実に間違いはないか、若し間違っておれば、そのときの真相を明らさまにお知らせを願いたいのであります。

若し又これが巡視船ではなくて、日本の漁船が、どの国からも咎められることのない公海で操業中に、本年2月の大邦丸のときのように外国漁船から射撃をされるのを、我がほうの巡視船が目撃をした場合、どのような処置をとるよう現地に対して指示をしてあるのかを併せてお伺いをいたしたいのであります。

第2に、竹島が我が国の領土であるという実証につきまして外務大臣にお伺いをいたしたいと存じます。この島は、日韓併合の前、明治38年2月22日付の島根県告示第43号を以ちまして、島根県隠地郡五箇村の所属に編入をせられ、その後いずれの国からも、この島が日本領土であることに異議の申立を受けたことはないのであります。又、昨日発表されました外務省の見解の中に、終戦後、連台国軍総司令部は、1946年1月29日付の覚書を以ちまして、日本国政府が、竹島に対して政治上又は行政上の権利を停止するよう指示されているが、この覚書は、決して竹島を日本の領土から除外するものではないと言っておりますが、その除外するものでないということは、総司令部からのどのような指令の文意によって実証されているかを伺いたいのであります。又、マッカーサー・ラインを設定をいたしました総司令部指令は、竹島に対する日本国の統治権を否定するものではないことを明らかにしていると言っておりますが、その明らかにしているということは、指令文の中でどのように表現されているのか、参考のためにお伺いをいたしたいのであります。

又、平和条約の第2条第1項には、「日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び鬱陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。」と明記してあることは私も承知をいたしております。併しながら韓国側では、昨年1月28日付で、政府が李承晩ラインに対する抗議を行いました際、この抗議に対して、(1)1946年1月29日、総司令部通牒第677号により、竹島の領有権は日本から排除されている。(2)当時のマッカーサー・ラインから見ても、竹島は韓国側に含まれているとの2点を挙げて、竹島が飽くまでも韓国領土であることを主張いたしているのであります。竹島は御承知の通り隠岐島の西北方にあります無人無毛の小さな孤島であります。併しながら、この小さな孤島とは申しましても、元禄の昔から、現在の鬱陵島の領有関係につきましてはたびたび問題が起ったことがございますが、竹島が明治38年、日本領土と確認をされまして以来は、ただの一度も問題になったことのないこの島が、今になって問題になるということは、平和条約中の日本の主権排除に関する内容や、向うで勝手にきめた李承晩ラインはともかくとして、マッカーサー・ライン解消の際における総司令部通牒の内容を確認することを怠っておった結果ではないか、その点、明瞭にお教えを願いたいのであります。

更に又、竹島が明らかに日本の領土であるという歴史的な事実、又、私自身の主観、政府の今日までの態度をそのまま支持をするといたしましても、万一韓国との間に交渉がまとまらなかった場合は、新聞紙の上では、国連に提訴をするとか、米英に仲介を依頼するとかの政府の意思発表が散見をいたしておりますが、政府としては、何回か取り交わされた口上書とかいうものの交渉で解決する見込があるのかないのか、若しあるとすれば、いつ頃解決するのか、そのお見込を承わっておきたいのであります。又、独立国たる日本の政府が、甚だ失礼ながら、たかが韓国相手の外交折衝ができず、国連や米英に仲介を頼んだ場合、日本の権威や信用はどのようになるのか。この点の質問に対しては、外務大臣は恐らく、相手のあることであるから、その見込は立たないが、できるだけの努力を払って急速に解決をしたいと、御答弁をされるに違いございません。併し、それなれば私のお尋ねをいたしたいのは、その解決の付くまでの間に、日本の漁船や巡視船などが射撃されるのをどうして防衛をしようとするお考えであるか、外務大臣の管掌外かも知れませんが、そのお考えも、ついでにお伺いをいたしたいのであります。

更に又この機会にお伺いいたしたいのですが、本年2月、済州島沖における大邦丸が射撃され、1人の日本人漁労長が射殺をされたあの事件は、その後一体どうなっているのでございましょう。このような重大事件をいい加減な口上書で以て放任をいたしておくから、第2の事件が起り、第3の屈辱的な事件が起るのだと私は思う。一歩退却二歩前進は兵法上の戦略でありまして、今の政府の外交は、一歩も退却、二歩も退却で、人は殺され、船は取られ、遂には領土の一部まで、もぎ取られようとしている現状であります。国民の目には、韓国における李承晩政権は、その政権を維持するがために、朝鮮自身の休戦にさえ反対をし、国境線を交える隣接国の中では一番弱いと見た日本に勝手放題の攻勢を加えているように見えるのであります。これは日本の外交が拙劣だからでありますか、それとも韓国側が無理なのか、それはどちらでもよろしいから、率直な態度で、正直な御見解を、わかりやすく具体的に承わりたいのであります。

第3に農林大臣にお伺いをいたしますが、それは、日本が承認するしないにかかわりませず、日本漁業にとっては非常に大きな障害となっておりまする李承晩ラインの内外における日本漁船の操業状態であります。本年の4月以来、日韓会談は再開され、漁業に関する日韓政府間の協定が交渉せられつつあるのでありますが、その経過は現在どのようになっているのかをお伺いをいたしたいのであります。日本海但馬地方における漁船は、漁期を前に控えて、その出漁準備を整え、待機をいたしております。若し日本政府の主張が弱く、李承晩ラインが解消されない場合は、この海域を漁場とした1800隻の漁船、この業に従事している3万数千の漁船船員は生業を失い、漁獲高年産22万トン、75億円が吹っ飛び、日本の食糧と経済に及ぼす影響は極めて大きいのであります。農林大臣は、朝鮮海域における日本漁船の操業がいつの日に陽の目を見る見込を立てておられるのか。又そのためにどのような努力をしておられるか。通り一遍の言葉ではなくて、具体的な事実と御計画を承わりたいのであります。

以上、運輸大臣に対しては、海上保安庁巡視船の射撃されたときの真相と今後の具体策。外務大臣に対しては、竹島が日本領土であるという実証、韓国が誤解をしているならば、その誤解をしている原因、今後の対処方針。農林大臣に対しては、日韓会談における漁業協定交渉の経過、朝鮮海域における漁業対策等についてお伺いをいたしましたが、これはいずれも緊急にして且つ極めて重要な問題でありまするから、憂慮いたしている国民のすべてが納得の行きますよう御答弁を要請して、私の質問を終ります。(拍手)

[026]
運輸大臣 石井光次郎
お答えいたします。

竹島は本年の4月末までは日米行政協定による駐留軍の爆撃演習区域でありまして、同島附近には日本の漁船は操業いたしていなかったのでありますが、去る5月の28日に島根県の水産試験船が調査のために参りましたところ、韓国人の漁夫が30名ばかりそこにおりまして、それで海上保安庁といたしましては、関係機関と協議の上に、でき得る限り紛争を避ける方針の下に、同島附近の海域の哨戒に当ろうということをきめまして、6月の23日、27日の2回に亘って、巡視船2隻を派遣いたしました。上陸調査をいたしましたところ、韓国人6名がテントを設けてそこにおりましたので、厳重警告をいたしまして、退去を求めたのであります。そうして同時に日本国の領土であるという標柱を立てて参りました。

それから7月の1日、2日、7月の8日、9日というふうに船を出してみたのでありまするが、ここで前に述べました韓国人はすでに退去いたしておりまして、同局及びその周辺には船も人もいなかったのでございます。

それで、今度問題になりました7月の11日に巡視船の「へくら」を派遣いたしまして、12日の朝5時20分同島に着きまして見ましたところが、韓国の漁船及び漁夫多数が来島しているのを認めましたので、臨検隊を上陸せしめようと準備いたしておりまするときに、6時15分、韓国官憲4名、鬱陵島の警察局の者だということであります。これが来船いたしまして、竹島は韓国の領土であると主張いたしたのであります。当方におきましては、竹島は日本領土である旨を強調いたしまして、退去を要請いたしましたが、譲らなく、とうとう8時に本船は前述の4人の者を帰船せしめまして、同島を一周いたしました上、境港のほうに帰ろうといたしたのでありますが、突然10数発の射撃を受けたのでありますが、人命には異状なく、本船に弾痕2つを残しているのを発見いたしたのであります。

その際の調査によりますると、先般日本側の立てました標柱は撤去されておりまして、来島者は約40名、そのうち警察官が7名と推定されております。船舶は漁船3隻、伝馬船1隻でありまして、武器は漁船1隻に自動小銃2つを装備しておりまして、警察官は拳銃を携帯しておったのが認められたのであります。

本船は、12日17時30分、境港に帰って来たというのが実情でございます。先ほど、向うの船から射撃したのではないかというお話でありましたが、射撃は島の中腹から行われたものでありまして、距離は、約700メートルくらいであったと申します。又、真偽のほどはわかりませんが、これは威嚇の射撃であったようだということも聞いているのであります。

今後どういうことにするかということのお尋ねでありまするが、これほどうしても外交折衝に待つよりほかないのでございまして、外交折衝をやってもらう一方、関係機関と協議いたしまして、できるだけ我々の方でも処置をいたして行きたいのでありまするが、実力行使ということは今日までもやってってませんので、どの程度のことをいたしまするか、実力行使もさまざまありますので、その場に応じての適宜な方法をこれからなお相談いたしたいと思つているのでございます。

それから、公海上等で射撃がありました場合、或いは拿捕等がありました場合には、海上保安庁の船は時を移さず現場に直航いたしまして、そうして話合いで事件を解決するという線に、今までもやっておりましたし、恐らく今後もこれが主な行き方だと思っております。(拍手)

[027]
外務大臣 岡崎勝男
先ず第1点でありますが、竹島が日本の領土である証拠と申しますと、これはもうお話のように史実も明らかにしているのでありまするし、又その後いろいろの司令部等の措置を見ましても、この点は何ら疑惑を持つ点はないのであります。元来、総司令部の指令等は領土の変更などをなすことはできないのでありまして、占領中の一時的の措置を定めたものに過ぎません。又平和条約の中に、日本が権利、権原を放棄するといたしました地域は明瞭に書いてあるのでありまして、それ以外のものは当然日本の領土でありまするし、又いわゆるマッカーサー・ライン等も領土の変更というような根本的な問題を処理することはできないのでありまするから、史実から言いましても、国際法から言いましても、日本の領土であるということは、これは問題のないとこうであります。

なお、この種の交渉を韓国政府といたしますのには、自然長引くのが通例でありまして、お話のように、何を愚図愚図しているのだというような感じも国民の問には出ましょうけれども、元来、憲法にも国際紛争解決の手段としては武力を用いないということになっておりますので、我々としても飽くまでも忍耐強く我が方の正当な主張を納得させて、平和的に本問題を解決するつもりでおります。

又大邦丸事件についてのお話がありましたが、大邦丸事件もまだ解決しておりませんときに、更にこの竹島の発砲事件等が起りましたことは、誠に残念な次第でありまするけれども、こういう問題につきましては、我が方としては主張すべきものは飽くまでも強く主張する次第でありまして、この大邦丸とか竹島の問題は、韓国側の史実に対する誤解、国際法的な見解に対する誤解から出たものでありまして、別に、政府の外交が軟弱であったからとか、強硬であったからとかいう問題ではないと考えておりまして、我々としては今後とも、韓国側の誤解を正すべく、あらゆる努力をいたす考えでおります。(拍手)