昭和31年03月08日 衆議院 大蔵委員会

[062]
政府委員(外務事務官(アジア局長)) 中川融
一番の問題は韓国との関係でございますが、韓国は、御承知のような李承晩ラインというものを設定いたしまして、ここに入る日本の漁船を拿捕いたしております。また日本の漁夫もこれを抑留いたしまして、刑に処した上、さらに刑を終えた者まで最近は返さない状況が続いておるのであります。この事態はまことに遺憾千万でありまして、政府はあらゆる努力を傾注してこの事態の改善是正に努めてきておるのであります。

李ラインの問題は、これは韓国側としても相当強い主張をしておるのでありまして、結局いわゆる日韓会談の大きな題目になっておるのであります。従って日本側は、この李ラインの問題だけは取りはずして単独に交渉、解決しようということで、何回となく申し入れておるのでありますが、先方は、これは他の日韓間の諸懸案――そのうちの一番大きなものは財産の問題でありますが、他の諸懸案と一緒でなければ会談には応じないという態度を固執しておりまして、そのために漁業の解決は、結局日韓会談自体の解決をはからなければ促進し得ないというのが、遺憾ではありますが現実の状態であります。

それでは、日韓会談の見通しはどうかということになるのでありますが、これは、韓国側としては財産請求権につきまして、日本側がかつて朝鮮に持っておりました財産に対する請求権を放棄せよ、これが前提である、そういう意向を表明すれば、会談再開に応ずるという態度を従来まで固執し続けてきておるのであります。日本側としては、そういう問題は会談の過程において論議さるべき問題であって、交渉の初めにまず日本側が権利を放棄するとかなんとか、そういうことには応じられないということで、これまた行き詰まっておるのでありますが、しかしながら日本側といたしましては、道理のあるところを、単に韓国側のみならず、広く世界にこれを訴えまして、また日韓双方について非常な関心を持っております、また双方非常に友好関係にありますアメリカというものが中にありますので、このアメリカをもまた動かして、これによって韓国側の態度の反省を求めて、何とか日韓会談をできるだけ近い機会に再開いたしまして、抜本的にこの漁業問題も片づけたいという考えを持っておるのであります。この会談に当りましては、日本側としても相当の柔軟性を持って当りたい、問題を解決するという方向に向って努力したいという考えでありますので、会談再開の機が熟せば、根本的解決は必ずしも困難ではない、かように見ておるのであります。

一方日本の漁船が拿捕されますと同時に、その乗員も抑留されておるのであります。その韓国側に不法抑留されております漁民の方々の数が、すでに600名をこえておるのでありまして、これらの方々につきましては、この根本的な漁業問題の解決を待たず、これだけは切り離して、人道上の問題として解決しようじゃないかということを申し入れておるのであります。この根本的な扱い方については、先方も異存はないのでありまして、漁業問題は片づけたいということは、先方も了承しております、しかしながらその片づける条件として、日本側で大村収容所に入れております韓国籍である強制退去者、この人たちを日本側が同時に国内で釈放せよというのが先方の全部ではありませんが、終戦前からおりました人たちについては、これを釈放せよというのが先方の主張であります。

従って、その主張と、今の日本漁民の方々を返すという問題とが、いわば交換条件の形に先方の態度としてなっておるのでありまして、この点につきまして日本側としては、これまた柔軟性をもってこの交渉に当りたいという気持で交渉は行なっておるのでありますが、先方の態度がいかにも頑強でありまして、従って今交渉は必ずしも円満に進んではおりませんけれども、これまた人道上の問題として広く世界の世論に訴え、かつ日韓双方の共同の利害を持っております米国の協力も求めて、この漁夫問題も何とか近いうちに解決したいと考えて努力しておるわけでございます。要するに、日韓問題の打開ということは必ずしも不可能ではない、何とかこれを打開するべく、かつ実現すべく努力を続けたいというのが政府の考え方でございます。