昭和33年07月08日 参議院 農林水産委員会

[029]
自由民主党 秋山俊一郎
私は時間がございませんので、簡潔にお伺いをいたしたいのでありますが、御承知の通り新聞紙上にすでに報道されております、長崎県の五島沖合において、去る26日の未明に漁船に付属しております第二星丸、これは鮮魚の運搬船でございますが、これが韓国の警備艇に拿捕された事件についてであります。

農林、外務、海上保安庁の方々に一括してお尋ねをいたします。この事件は、第二星丸と申しますのは、まき網小船団と申しますか、7そうをもって成っておりますまき網漁業の付属船でございますが、これが25日の夕方五島を出まして、そうして西方の海面において小アジの漁業をやっております際に2回漁業を――網を巻きまして、そうしてその漁獲物を第二星丸に積み込んだ。そうしてまさに根拠地である長崎港に向って出発しかかっておる際に、突然韓国の艦艇が、150トンぐらいと言われておりますが、後方から突然やって来ていきなり接舷して、そうして4名の韓国の船員と申しますか乗組員が拳銃及び小銃を持って飛び込んで来まして、操舵をしております船員に向って、船員の背中に拳銃を突きつけて、そうしていきなり電気の電源を切ってしまった。そうしてこれを拿捕したわけであります。

そうしてその位置は、海上保安庁のいすず巡視艇が測定したところによりますと、まさしく李承晩ラインの外側でありまして、はっきりと位置も出ておりますが、北緯33度3分東経128度11分で、農林漁区の243区の中で拿捕されております。

そうしてその船員のうち1名だけを残して、あと9名をその警備艇に移乗させまして、そうしてあとからついてこいというので、西方に向って走っておる際に、ちょうどその際に魚は6500貫ほど積んでおりましたが、デッキに積み残しがありますためにその整理をさすので、さらに日本のこの第二星丸の乗組員を3名あとへ戻しまして、この漁獲物の整理をさしておったのであります。

その際にいすずがこれを見つけまして、あとから追っかけてきたようでありますが、接近しますというと、これに向って銃撃を加える。そのためにいすずはまたあとへ下ってしまった。そこでいすずが海へ飛び込んで逃げろということを……、その前に、その釈放方をサーチライトで信号し、あるいは大声をあげて呼んだようでありますけれども、一切聞き入れずに、かえって発砲してこれにこたえたというようなことで、いすずはあとへ下った。

そういうようなことから、中へ乗っております船員も何とかしてのがれようとするけれども、4名の韓国船員が拳銃を持って見守っておりますために、のがれることができなかったのでありますけれども、すきをうかがって1人が海に飛び込んで、そうしていすずを目がけてのがれたのであります。またもう1人機関長があとから、これはいろいろいきさつはありますけれども、海へ飛び込んで逃げた。それを銃撃しております。こういうことはまことに人道上から見ても許すべきことではございませんし、しかもまた、その船員が語ったところによりますと、第二星丸を拿捕する前に、もう1そうの船をつかまえに行った。ところがその船は小さくて何も魚を持っていなかったために、それは接舷したままで拿捕せずに、魚の処理をしております、満船しております第二星丸をつかまえて、そうして君たちは魚を持っておったから不運だ、というようなことを公言して、そうしてその船に乗って飯を食ったり何かして引っぱって行った。

こういうことがこの拿捕の概略でありますが、全くこの行為というものは官船のやる行為ではなくて、海賊的行為である、私どもかように考えております。しかもまた日本の艦船に向って銃撃をし、日本の巡視艇は銃撃によって後退して指をくわえて見ておったというような感じがいたすのでありますが、この点は私は海上保安庁の方にお伺いしたいのでありますが、こういうときにはただ全くの不法行為に対して、何らなすべき道はなくただこれを見守っておるというだけの行動しかできないのであるかどうか、この点をお伺いいたします。

それからさらに、この第二星丸につきまして、関係者並びに九州方面の関係団体等から韓国の出先に陳情したようでありますが、新聞の報ずるところによりますと、第二星丸は釈放しないということを新聞に宣言したことが出ております。外務当局はこれに対してどういう措置をとり、どういうふうな状態に進行しておるのか、これを外務省当局にお尋ねをいたします。

それから、この区域がすでにいわゆる李承晩ラインの外で、自由な公海において操業されておったものが拿捕された。元来、危険区域としまして漁船はこの危険区域には近よらないで、もっぱら安全な操業をせざるを得ないということで、自粛をしてやって参ったのでありますが、ちょうど漁期でもあり、しかもこの李承晩ラインのために西日本の漁船は非常な打撃を受けまして、倒産したものもおびただしい数に上っております。一時の盛んな時分から見ますと、まき網は半減以上に減じております。この際辛うじて自由な漁場で操業しておるものまでもかような措置を、不法行為を受けるということになりますと、一体日本の漁船はどうしたらいいか、全く方法がない状態になっております。

これはさらにまた最近、日中漁業の問題も非常な暗礁に乗り上げておる際でありまして、西日本における漁業者は非常な心痛をしておるのでありますが、農林当局は、かように危険区域外において操業しておってすらもかようなうき目にあう、しかも日本の巡視艇はただ何らなすところがない、かような状態で日本の漁業者をどうして守っていくか、これについて農林当局はどういう方法をこれから講じようとしておられるか、この点をお伺いいたしたいと思います。

[030]
農林大臣 三浦一雄
第二星丸の問題でございますが、これは全く国際法に違反しているようなことでございまして、すでに李ラインをわれわれが向うの領海線と認めているわけではございませんし、しかもその李ラインからも10数マイル離れた地点でやっておりますことでございますので、これは外務省を通じましてそして厳重な抗議をし、さらにまた口頭等をもってその不法を追及するようにいたしておるのでございますが、今後これをどういうふうに対策を持っていくかと、こういうことのお尋ねで最後ございました。

実は日韓漁業問題につきましては御了承の通り、近く双方で話し合うということになっておるのですが、向うではなかなかその代表を選任しなかった。先般、張璟根という人が漁業代表として選ばれたそうでありますが、聞きますところ、韓国における総選挙の後で、しかもこの方は与党としての相当な地位のある人で、それらの関係があるのでなかなか来られない。こういうふうな言い分だったそうでございますが、いずれにいたしましても近く来ることだと思いますが、これはどうもしんぼう強く日韓関係の漁業問題を調整するということに進まざるを得ないと思うのであります。

従いまして、実力をもって云々ということはもとよりこれは許されないことでございますので、われわれとしましては第一には日韓の漁業関係をもっと調整いたし、その線に沿うて将来の安全な漁業の保障をいたす、こういう考えでございます。



[048]
委員長 重政庸徳
李ライン外でも警備船に撃ってくればやっはり逃げねばならぬのだな……。

[049]
説明員(海上保安庁警備救難部長) 松野清秀
現在ではそういう考え方でやっております。

[050]
自由民主党 秋山俊一郎
今のその点ですが、まあこっちが発砲できないにしても、向うに接近していって接舷するというようなことは、船員の心がまえ一つではできぬことはないのじゃないかと思いますが、人命に危険があるから接近してはならぬというようなことに相なっておるのでありますか。

先ほどのお話では威脅射撃のようなことを言われたが、威脅射撃なら何もおそれることはないと思いますが、向うの船にあくまでも接近していって、接舷するくらいのところまで行くということは、必ずしも平和交渉を乱すものではないと思うのですが、そこいらの実態ですね。

ただ日本の監視船なり何なりは、1発撃ちさえすれば逃げてしまうのだからということになれば、幾らあの辺で遊よくしておっても何にもならぬじゃないかという感じがするのですが、私はもう向うの船に近づいて、ぐっと200メートル、100メートルどころじゃない、もっと接近していく、あるいは引っぱっておられる日本の漁船に、もっと接近していくといったようなことができないものか。

[051]
説明員(海上保安庁警備救難部長) 松野清秀
昭和28年の秋ごろから29年の春にかけてであったと思いますが、当時いわゆる洋上会談というものをしばしばやっております。そのころには拿捕現場に行きまして向うの警備艇に接舷しまして、こちらから船長が向うの警備艇に乗り移って行きまして釈放の交渉をやりました。

そうして、これはたしか30回以上に及んだと思いますが、しかもそのうち10何回かはたしか成功しておる。こういうふうに今記憶しておりますが、たまたま29年の2月20日だったと思いますが、私どもの巡視船のさどがやはり接舷して交渉に参りましたところ、向うの警備艇に乗り移った船長を乗せたままあとから巡視船もついて来いということで、済州島に連行された、そしてまあこれは2日ばかり向うにとめ置かれまして釈放されたのですが、それ以後、巡視船が近づきますとどんどん射撃してくる。こういうような事態になりましたので、その後はいわゆるそういう接舷しての交渉はいたしておりません。

それで、もちろん今回の例もそうなんですが、100メーターくらいではなしに、さらに曳航されて行った第二星丸には、今回も50メートルくらいまでは近づいておると思います。そういうような実情になっておりますので御了承いただきたいと思います。