昭和30年12月14日 参議院 予算委員会

[074]
自由民主党 小滝彬
それでは少し具体的な問題に入りまして、これは非常に留守家族などでも心配しておる問題であり、例として申し上げますならば、私どもの選挙区でも30人以上の者がもう韓国で刑期を終えたにもかかわらず、依然として釜山に抑留せられておる。毎日のようにこの問題を早く解決してもらいたいという要求がありますが、この問題は、大村収容所におるところの1945年9月1日以前に日本に滞在しておった者でそうして刑に処せられた者、そして日本の出入国管理令の立場からいうならば、向うに送還しなければならない者が依然としてそこにつながれておる。これを釈放してもらえれば、すでに韓国において、韓国側のいういわゆる刑期を済ました者は返してやろうという話し合いが、大体外務省と韓国側との話がついておるということでありますが、ところがどうも、聞き及んでおるところでは、依然として法務省側にこれに対して異論もあるということであります。

これは外務省でなしに一つ法務大臣の方にお伺いいたしたいと思いましたが、法務大臣急用で行かれたようでありますから、法務省の係官からこの取扱いはどうするつもりであるか、外務省ともいろいろ話し合いがあったようでありまするが、これをどう持っていくか、いかに早く解決しようとしているか、またその方針は最終的にどうなっておるかということを説明願いたいと思います。

[075]
外務大臣・内閣総理大臣臨時代理 重光葵
この問題について、法務大臣がおられませんけれども、交渉に関係することでありますから、私からもお答えをいたしたいと思います。

この漁民の救済ということはほんとうに急務でございます。今小瀧委員の選挙区から云々というお話がございました。私の選挙区からも同様な状態、(笑声)九州でございまして、同様な状態でございます。私は選挙区の問題以上に、国家の問題として私はどうしても救済したい、日本国民がそういう状態におるんだからどうしても救済したい、そういう見地に立って私は交渉いたしております。今日まで思う通りにはかどらぬことはまことに遺憾でございます。どうもやり方が悪いからそうだ、こういう御非難をこうむるならば、これもやむを得ません。しかし私はこの交渉を一日も早く実らせたいと、こう考えております。

それについて大村の収容所の問題が関係のあることも、これまた事実でございます。そうして大村収容所の問題は、これは法規の手続を経て法務省の管轄でやっておることでございます。それを収容されておる韓国人を釈放するということが、これが何と申しますか、対象になるわけでございます。そうでありますから、法務省の当局としてこの交渉を実らせるために、それに関連する手続を、何と申しますか、簡略にするとか、また政治的にこれを考慮して取り扱うということは、法務省の係の人にとってはずいぶん異存のあることだろうと私は思います。さような困難をも排除して、そうしてこの問題を解決しなければならぬと、こう思っておるわけでございます。

そこでさような無理は、ある場合においては大きな利益のために国家的に考えてやむを得ないとこう考えておるので、その点を法務大臣とよく相談をして、法務大臣と私と同様な意見で、この問題を早く解決したいと思ってやっておるわけでございます。

それを、それならばすぐそういうわけで問題が解決するかというと、また韓国側には韓国側のいろいろまた何がございますので、その今調整を進めておるわけでございます。日本側の国内のいろいろ手続が、何があります。それをやってそうして韓国側によくそれを納得してもらって目的を達したい、こういうことで進めておるわけでございます。私はこれはそう遠くないうちにこの問題は解決すると、こういう見通しをつけて進んでおることを申し上げたいと思います。

[076]
自由民主党 小滝彬
私はまず結論的に言えば、こういう交渉のきっかけができたということは非常にけっこうなことであって、ぜひその方向に法務省を引っぱっていってもらいたいと思っておるのであります。

もうすでに8月から、私自身も韓国代表部へ出かけていきまして、向うの意向をサウンドしたのでありますが、大体こういう抑留者については話し合いがつくのではないかという見込みがありましたので、外務省の方に申し入れ、外務省の方も8月来努力を続けて、そうしてしかも過般第2次鳩山内閣のときでありますが、金公使と花村大臣も会ったようでありまするし、また閣議のあとで外務大臣からも法務大臣の方へ申し入れをされたというような情報も聞いておりまして、もうこの問題は片づくであろうと思っておりましたところ、なかなか、法務省の方でいろいろの意見が出て、それが長引いてきたということになってまあ8月ごろからもうそろそろ何とかなるのじゃないかと思っておったのが、年末を控えてまたもう一つ年を釜山で越さなければならないというようなことになっておることは非常に遺憾でありまして、この点は法務大臣が見えておったら法務大臣に直接お伺いしたいと思っておったのですが、入国管理局長が来ておるようでありますから、入国管理局長でもけっこうでありますから、御答弁を願いたいと思います。

それはきわめて、最近の新聞でも、ぜひこれは強制的に退去させなければならぬ、退去の保証がなければならぬ、こういうことを相当強く依然として固執されておるということでありますが、これは事実でありますか、入国管理局長にお伺いいたします。

[077]
政府委員(法務省入国管理局長) 内田藤雄
お答え申し上げます。われわれ法務省の立場をちょっと簡単でございますが御説明させていただきたいと存じます。

今、大村に入っております者の数は大体1685ぐらいになっておりますが、その中で大多数は、1300名は密入国でございます。

当面問題になっております戦前からの犯罪者の数は約370でございますが、これらの人々はわれわれの方で手続を、国内法の手続はもちろんでございますが、しぼりにしぼってそういう数字になっております。大体前科1犯ないし2犯で入れております者は殺人とか強盗、あるいは麻薬の密輸、大量のブローカーあるいはヒロポンの大量の製造者といったようなものでございまして、あと前科3犯以上、これがほとんどその大半を占めるのでございますが、3犯から12犯までの人々の大体は窃盗、臓物故買、詐欺横領というようなことの常習者でございます。

従いましてわれわれの立場から申しますと、こういう悪質外国人は当然国外に退去できる、これは国内法の根拠ばかりでなく、国際的な慣行としても当然そうであると信じてやっているのでございまして、これらの人々を正当の理由なくして国内に釈放いたしまして、そのために善良なる日本国民が不当の被害をこうむるというようなことがあってはこれはまことに嘆かわしいことであるというのが第1の理由でございます。

それからもう1つは、将来のことを考えました場合には、現在刑務所に入っております人の約1割は朝鮮人でございます。毎月々々われわれの手元に退去強制の該当理由で送られて参ります者は約100名ほどでございまして、その中からただいま申し上げましたようなよくよくな悪質者を選んでわれわれは退去に付しておるのでございますが、そのパーセントは大体1割5分ないし2割でございます。今後この種の人々は毎月々々ふえて参るわけでございますので、これらの問題につきましても、将来何らかの保証を得たいというのが法務省としての切なる希望でございます。

それからもう1つ、われわれの非常に重要に考えておりますことは、重要と申しますか、外務省にぜひお願いしておるのでございますが、従来の李政権のやり方を見ますと、要するに人質を取って、それを種に彼らの政治的要求を一つ一つ要求して参るというようなきらいがございますので、この点につきまして、現在李ラインの問題、根本的な解決はこれはなかなかできないかもしれませんが、その解決できないならできない状態のもとにおいて今後どういうふうに措置していただくのか、それとの関連においてやはりわれわれの方のことも考えたい、そういたしませんと、今後ただ向うの人質を、人質と申しちゃ悪いかもしれませんが、漁民を返すためにわれわれはここで1つの譲歩をいたす、やり方によってはますますこれは漁民をつかまえた方がいい、つかまえていけばまた日本はへこむ、こういうことになっては大へんではないかという懸念から、できる限り外交交渉におきまして、将来に対する何らかの保証をとっていただけないだろうか、こういうことが法務省の希望として持っている点でございます。

[078]
自由民主党 小滝彬
今申されました数字のようなものは、与党におきましても今、日韓対策特別委員会なるものを設けておりまして、私ども始終聞き及んでおるところであります。私はこの委員会での意向も反映して今質問しておるのでありますが、たとえば国内釈放を行なったならば治安に影響がある、まことにその通りで、こういうことはやりたくないということは私どももよく知っております。しかしもう少し大きな見地からこの人道問題に対処しなければならぬ、そしてまたこれがいいきっかけになるかもしれないということを考えているものでありまして、その見地から言えば、釈放するのはなるほど残念でしょうけれども、日本にだって前科2犯以上10犯、20犯の者もおるわけであります。そしてまたそれに対する保護措置、監視の措置も全然とれないというわけでもなかろうと思う。こういう特殊の場合でございますから出入国管理令のたしか52条の第6項というものを見まするというと、放免することもできる、すなわち法律上できないというわけでもない。法律を改正しなければならぬというわけでもないので、この際はこういう措置をとるということは必要である、外交上から見てどうしても必要だということになれば、それに応じたところの国内措置も考えられて、ぜひそれに沿う措置が法務省としてとらるべきものであるというのが私どもの見解であります。

また、人質を取っておいて勝手なことをするかもしれない、だからうっかり出せぬということでありますが、なるほどそういう心配もありまするが、しかしこれは外へ出してしまうというのでなしに、国内に釈放せられておる以上、またつかまえようと思えばつかまえられる。私はこの公開の席上においてそういう込み入ったことを長々申したくはないのでありまするが、とにかくこれは一つのテスト・ケースである。そうしてもし今後においてそれがうまくいかないようなことになれば、その前科の韓国人というものは日本国内におるからして、それに対する措置はとれないわけはないと、こういうように私は信じております。

また、外務省にお願いしたいという今のお言葉、なるほど法務省という一つの小さなセクションから考えればそうかもしれませんが、私はこれを外務省に強く要求するということには多少無理がありはしないか、これもこの席であまり長く論ずるということはあるいは新聞などにキャリーされるかもしれませんから好ましくないのでありますが、ぜひ法務省の係官の方でもこの点は考えてもらいたい。と申しまするのは、韓国人の従来長く日本におった、1945年9月1日以前におりました韓国人については、国籍、処遇問題というものは、この日韓会談でもなかなか論じられておる、この根本問題の解決なしに、直ちにそれを引き取るというような確約を取るように努力しろといっても、ますます時間が長引くだけであります。

外務省は、今重光大臣が言われた通り一生懸命やっているかもしれませんが、やはり外交というものは相手のあることであって、これに対してそれを直ちに何かのアシュアランスがなければ釈放はできないのだというようなことを言っておれば、先ほど申しますようにこの年末も向うで暮さなければならぬ、またそれからごてごてしたら半年かかるかもしらぬ、1年かかるかもしらぬので、この点についてはぜひ法務大臣に大英断を用いてもらいたい。これが決意という言葉が悪ければ、ぜひともそういう気持で外交交渉で進めていこうというなら、そういう気持に重光大臣のみならず、他の大臣もなっていただくように、これは重光大臣からも一つ法務省に強く働きかけていただきたい、こういうふうに私強く要望いたすものでございますが、大臣いかがでございましょうか。

[079]
外務大臣・内閣総理大臣臨時代理 重光葵
全く私はその方向に動いております。むろん人質云云ということは、これは一体何と申しますか、外交の問題で考えなければならぬ問題であります。また政策的に考えなければならぬ問題であります。それは政府が決定をいたします。そうして法務大臣と協議して進めていきたいと、こう考えております。

[080]
自由民主党 小滝彬
非常に重光大臣のお話を聞きまして意を強くいたしましたが、ぜひこの際外務省が強力に内地の関心を引っぱっていただきたい。

今の入国管理局長のお話は私は納得できない。それは困難なことはあろうけれども、この際そういう六法全書を引いたような議論でなしに、ほんとうにこれを解決しよう、一歩ずつ進めていこうというなら、これが一つのきっかけになるというようなことは、新聞などにも出ておりますし、私もそういうふうに感じております。

あるいはこれがうまくいかなければ、そのあとで方法を変えることがあるかもしれませんが、ぜひそういうふうに取り計らっていただきたい。しかもそれを早急に取り計らっていただきたいということを強く外務大臣に要望いたしておきます。