昭和34年07月03日 衆議院 外務委員会

[054]
日本社会党(社会民主党) 大西正道
私はここで一つ聞きたいのは、この間拿捕されました第二松栄丸、この拿捕を御存じでございましょう。この拿捕は今までの日本の漁船の拿捕と全然違うのであります。

どういうふうに違うかということをあなたの方も十分拿捕された船の状況などは御承知だろうと思いますが、時間の節約上私から申しますと、これはシイラづけ漁業というのだそうであります。シイラづけ漁業は、大体ここらに魚がおるからそこへ網を持っていって網を敷いて魚をとるというのではなくして、これは固定しておるものだ、そして府県知事の許可を得て、年中一定の固定した場所において魚をとる漁業なんであります。

第二松栄丸がこういう漁業の仕方であったのでありますが、これがこの間拿捕されたということはもちろん李承晩ラインよりはるかもう区域外である、このことはもう明らかであります。このことはこれまでの李承晩ラインの付近を遊よくしながら拿捕される、そういう拿捕のされようと全然船の性質も違うのでありますから、私は事は非常に重大だと考えるのであります。この拿捕は単なる李承晩ラインを侵したという理由でもっての拿捕とは意味がだいぶ違ってくる、いわば日本の漁業に対する明らかなる挑戦であります。こういうふうな認識がこの第二松栄丸の拿捕事件についてございますか、どうですか。アジア局長並びに保安庁の長官、どういうふうに考えておりますか。

[055]
説明員(法制局長官) 林修三
これは私の方といたしましても李ラインを侵すという問題でございませんが、比較的李ラインの近くで操業をしておったためにそういう奇禍にあったわけであります。しかしながらこれはまことにわれわれとしてもけしからぬことであるということは考えております。早速外務省に連絡しまして、この問題についての抗議をやっていただきまして、ただこの船につきましてももちろん李ラインの近くでございましたので、私の方ではそばに寄ってこの船について警告を発した事実もあるのであります。もちろんこの問題につきまして警告を発したからいいというわけではございません。私どもとしましては、これはけしからぬ行為であると考えております。

[056]
日本社会党(社会民主党) 大西正道
けしかるとかけしからぬとかいう問題ではないのであります。今の話であなたは李ラインの近くで操業しておったということが、何か若干こちらにも拿捕される理由のありそうなような口ぶりでありますけれども、私の申しておるように、これは府県知事の許可事業なんですよ。そういうことになれば初めからこういうことについて許可しなければいい。許可した以上、これは李承晩ラインを認めない立場であっても認めても、そういうことに関係ないということがはっきりしておる立場なんです。

しかもそういうところこそ危険区域でありますから、あなたのところの巡視艇は警戒を厳にしなければならぬ。幸いにしてこの問題については警告を発したと言っておりますけれども、その警告を発したというのは言葉で表われておるので何ら力がない。武力を行使するということを何もびくびくする必要はないじゃないですか。正当防衛をやることが何がこわいですか。そういうことが何か戦力とか再軍備とかなんとかいうことに関連があるように考えるそういうこと自体がおかしいのであります。そういう正当防衛を堂々とやらなければ、ますます事態は紛糾してくる。

あなたは海上保安庁長官の立場だから、これ以上政治問題を追及してもしょうがないけれども、今までの答弁を聞いておると、これまでの長官よりもあなたの態度は数歩後退ですよ。こういうことでは安全操業の問題はますます危険を感ずる、私はこういう気持であります。もう少し気持を新たにして、あなたの任務が何であるかということ、そういう本質的な立場に立って問題を検討してもらわなければ困るのであります。

これは政府の方にも聞いておきますけれども、いたずらに事態を紛糾させないためだ、それじゃほかの方は大砲積んで紛糾してもいい、相手がむちゃであるから紛糾させないために何でも譲歩するという、このことが今日まで李ラインの問題を遷延させていつまでも解決していない原因だと考えております。