昭和31年04月16日 衆議院 法務委員会

[006]
日本社会党(社会民主党) 猪俣浩三
私は、ただいま申しましたように、法務省の上層部の人たちの言とあなたの言うことが違っておるから再質問しておるのです。

それでは岸本次官にお尋ねいたします。これは閣議で決定されたと称しますが、法務省は、この大村収容所の、何犯か、中には12犯も犯したような犯罪人がおるが、これを無条件で釈放することに同意されたのであるかどうか。

その点について私どもが承わっておる事情は、そうじゃないと思われる。実は、一昨日も、重光大臣は、法務省の政府委員が答弁しようとするのを、ほとんど押えるような形で、すっと立ち上り、質問者は法務省に質問しておったにかかわらず、外務大臣は立ち上って、閣議で決定して、本日確認したというようなことをおっしゃって、押えてしまったような形跡がある。だから私は再質問しておるのに、この前と同じことだというようなことでは、わかりません。もう一ぺん法務省の側の御意見を承わりたい。あなた方の御答弁によりましては、われわれはだまされておるようなことになる。はっきり答弁していただきたい。

[007]
説明員(事務次官) 岸本義広
お尋ねの件につきましては、外務省から事前の連絡はございません。



[010]
日本社会党(社会民主党) 猪俣浩三
この大村収容所には3犯から5犯の犯罪人が265人、6犯から8犯の犯罪人が73人、9犯から13犯の犯罪人が18人おるのです。これは治安をつかさどっている法務省としては考えざるを得ないことであろうと思う。



[012]
日本社会党(社会民主党) 猪俣浩三
そこで私は外務大臣にお尋ねいたします。全く李承晩ラインなるものは不法なものである。しかもこれは多少アメリカと関係がある。マッカーサー・ラインなるものをほかの目的で設定した。それを李承晩が受け継いだような形でありますから多少アメリカとも関係がある。

そこで、この李承晩ラインなるものは全く不法なものであるといたしますならば、ここに日本の漁民が平和に操業をしているのに対して、これを拿捕するということは、日本の民族に対する不法な攻撃、侵略じゃなかろうか。侵略とは国土に上陸することばかりじゃない。国民に不法な侵害を加えることも侵略であります。わが民族に対する侵害行為、不法な侵略、しかも、日本の保安隊なんかが警備するならば向うの海軍が砲撃すると言っている。これは武力の攻撃です。

こういう場合において、私はあなたにお尋ねしたいのですが、一体日米安全保障条約というものは効力はないものであるか。いわんや、台湾海峡その他はアメリカの第七艦隊が警備していることは申すまでもないことです。韓国といえども、ほとんど日本以上にアメリカに依存している国である。日本政府は特別にアメリカの恩寵にあずかっている政府である。

こういう日本民族に対する不法な侵略が行われるということに対して、一体日米安全保障条約は何らの効力がないのかどうか。日米安全保障条約というのは特定の国家だけに向けられたる条約であるかどうか。こういう李承晩ラインなる物が不法なものであるならば、そこに働く日本国民を不法に攻撃して拿捕するということは侵略だと思う。日本国民に対する侵略、日本国家に対する侵略であると思う。日米安全保障条約の前文には、さような場合には日本の安全を保障してくれるとアメリカは言っているはずである。これに対してどういう御所見があるか、承わりたいと思います。

[013]
内閣総理大臣臨時代理・外務大臣 重光葵
李ライン設定並びにこれを越えた場合において日本船舶を拿捕する等の行為が公海の自由の原則に対して国際法上不法であるという見解を日本政府はとっているということは、今条約局長の申し上げた通りであります。従いまして、国際的に不法なことを正すために手段をとっているわけでございます。

しかし、これが直接に日本国家及び国民に対するいわゆる侵略行為であるかということについては、これはまだ法理的には疑問があると思います。そこで、これが直接に安保条約を援用すべき事態が生じたものである、こう断定が法理上、理論上できかねるのでございます。

しかしながら、理論は理論として、外交は理論だけでやっているわけではございません。国家の利益を擁護しなければなりません。そこで、この問題について法理上安保条約を援用してどうするいうわけには参らなくとも、東亜、日本地域の安全保障に対しては、米国としては非常な関心を持っているわけであります。また当然のことでございます。そこで、この問題については、十分わが方の態度、方針について米国に了解をせしめて、いろいろそのあっせんと助力を得ることに努力しているわけでございます。

この問題によって日韓両国民の間に非常に緊張した感情をかもし出したということは、過去において事例があるのであります。しかしながら、今日のわが政府の方針といたしましては、かような問題について、力をもってせず、すべて話し合いによってこれを解決したいという方針を立てておりますから、韓国との間に話し合いをして解決をするために最大の努力を今いたしているのであります。その目的を達するがためにも、米国がこの問題について大きな関心を持っているというその事態を十分に頭に置いて米国側との連絡に当っていることはもちろんでございます。

[014]
日本社会党(社会民主党) 猪俣浩三
林法制局長官にお尋ねします。今申しましたような、李ラインなる不法なるものを設定し、そこに漁に行っておった日本の漁民を拿捕する、しかもこれを守らんとするなら海軍を出動せしめて砲撃する、これは一体侵略でないのか。

あるいは、竹島なるものを勝手に自分の領土なりと宣言し、そこに砲台を築いて近寄るものを砲撃する、そして韓国の切手には竹島が自分の領土になったという記念としてそういう切手を使っている、そういうようなことは一体日本の国土に対する侵略であるのかないのか。

そういうことは侵略でないとすれば、一体侵略とはどういうことなのか。それを一つ法制的に御説明願いたい。

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政府委員(法制局長官) 林修三
ただいまの李承晩ラインを越えるものの拿捕についての御質問でございますが、現在の状況は要するに李承晩ラインを越えるものを向うが沿岸の警察力をもって拿捕するというようなことの事態だろうと思います。こういう事態が直ちに侵略と言えるかどうかということについては、国際法上いろいろ議論のあることだと思いますので、ただいま外務大臣から御答弁がありましたように、直ちにこれをもっていわゆる日本に対する武力攻撃の意図をもってやったものと言えるかどうかという点についてはまだ問題があるように思います。従いまして、これをもって直ちに日本に対する侵略なりと断定するだけの根拠と言い得るかどうか、これについてはやはり多少の問題があるように考えるのでございます。

竹島については、結局これは、もちろん日本から言えば竹島は日本の領土と考えているわけでございますが、これを韓国がああいう状態において占有しているということについては日本としては不法なことと考えているわけでございますが、これをもって直ちに日本に対する武力攻撃という意図をもってやったものかどうかということについてはなお問題もありますし、やはり平和的に交渉して解決すべきもの、かように考えるのでございます。



[017]
日本社会党(社会民主党) 猪俣浩三
侵略とは国土に対する侵略のみならず国民に対するものであることは国際法上明らかなことです。何らの悪意のない他国民をいたずらに拿捕して、そうしてこれを裁判にかけて処罰し、その刑が満ちてもこれを釈放しない。片方は自然犯を何犯も犯している人間、それは国際法上引き取るのが当然のことなんです。それと交換にする、こういうむちゃなことが一体今までの外交史上あったろうか。