昭和28年11月07日 参議院 本会議

[008]
自由党(自由民主党) 秋山俊一郎
只今議題となりました日韓問題解決促進に関する決議案について、提案の趣旨を御説明申上げます。

先ず決議案を朗読いたします。本決議案の印刷御配付申上げてあるうち字句の訂正をお願いしたい点がございます。本文の4行目の「漁船41隻」とありますのを「42隻」、それから「乗組員541名」とありますのを「516名」と御訂正を願いたいと存じます。

日韓問題解決促進に関する決議

昨年1月、突如一方的宣言を発して、極めて明白なる公海自由の原則を無視し、不当に領海を拡張し、而も歴史的に立証されたるわが国土竹島をも不法占拠せる韓国政府の暴挙は、われら日本国民の遺憾に堪えないところである。

同国政府の暴挙は更に募り、本年9月以来いわゆる李承晩ライン侵犯の理由により、政府公船を含めて漁船42隻を拿捕、乗組員516名を拉致し、国内法により苛酷なる処罰を科しつつある暴状は、最早われわれの黙過し能わざるところである。

よって本院は、政府に対し、世界の公正なる世論を喚起するとともに、速やかにいわゆる李承晩ラインの撤廃を期する一方、当面急を要する被抑留者の釈放、漁船の返還及び留守家族の援護、更に漁期を目前にして待機する多数漁業者の出漁の安全確保に急速且つ適切なる外交的措置を講ずるよう要望する。

右決議する。

以上であります。

次に提案理由を申上げます。海洋資源の開発利用は、いわゆる公海自由の原則に基き、全世界の国民に許容せられた自由にして平等の権利であります。いやしくも或る一国が自国の利益を目的としてこれを独占し、他国の自由を排撃するがごとき行為は、国際法を蹂躙する不法行為でありまして、若しこれが許されるといたしましたならば、世界の海はいずれも分割領有するところとなり、国際平和は根底より覆えされることになるでありましょう。第一次大戦後、平和会議において海洋の自由が強く叫ばれましたゆえんもここにあるのでありまして、我らの断じて容認し得ざるところであります。

然るに、韓国李承晩大統領は、昨年1月18日突如として、朝鮮周辺の広汎なる公海に対し、日本領土竹島を含むいわゆる李承晩ラインなるものを設定いたしまして主権行使の宣言を行い、同海域における日本漁船の操業を禁止するの挙に出でたのであります。この海域は距岸数10浬に及ぶ広大なる水面でありまして、古来より「あじ」、「さば」及び底魚等の好漁場として日本漁船の重要なる操業海面でありますが故に、この国際法を無視したる一方的にして不法なる措置に対し、日本政府は直ちに厳重なる抗議を提出し、その反省を促したのでありますが、韓国政府は何ら顧みるところなく、ますますこれを強化し、同年10月更に海洋侵犯取締令及び捕獲審判令等の法規を制定し、李承晩ライン侵犯者に対する処罰等を規定いたしまして、日本漁船の操業を圧迫し、或いは不法臨検、拿捕、抑留等の暴挙をあえてするに至ったのであります。

日本政府は事態を重視し、隣邦友好の精神より公正妥当なる解決を図るべく、日韓会談を開きまして、協議を行いましたが、何らの効果を見ることができなかったであります。

而して同年9月27日、クラーク国連軍司令官は、朝鮮戦争遂行の必要上、朝鮮周辺に防衛水域を設定したのでありますが、この水域は李承晩ラインに比べまして遥かに狭い範囲のものであったであります。本措置に関しましても、当時とかくの論議はありましたが、日本国民としては、その趣旨を諒といたしまして、全面的に協力して、その指示に従って行動したのでありました。

併しながら、不法なる李承晩ラインに対しましては飽くまでもこれを容認せず、日本漁船は操業を継続しつつあったのでありますが、韓国政府の不法行為はますます募りまして、本年2月4日に至り、日本漁船2隻に対し銃撃を加えてこれを拿捕し、而もその乗組員を射殺したるいわゆる第二大邦丸事件を惹起いたしまして、日本国民の憤激を買ったことは、なお諸君の記憶に新たなところであります。当時本院においては、事の重大性に鑑みまして、帰還船員を喚問いたしましてその真相を調査し、日本政府に対しこれが善後措置を強く申入れたのでありますが、この日本政府の要求に対しましても、韓国政府に何らの誠意を示さざるのみか、却って日本漁船の不法を誣(し)うるの態度に出ておるのであります。

殊に、歴史的に明白なる日本領土竹島を韓国領土なりとして、出漁したる日本漁船及び巡視中の日本国公船に対し銃火を浴びせて撃退し占拠する等の暴挙は、実に言語道断と言わざるを得ないのであります。

更に本年8月朝鮮休戦に従い、クラーク司令官が朝鮮防衛水域の停止を発表するや、韓国政府はこれに対し不満の意を表明すると共に、李承晩ラインの取締強化を発表いたしました。爾来、同水域に出漁する日本漁船に対し、実力を以てライン外への撤退を強要するのみか、海軍艦艇を以て何ら防禦の術なき無辜の漁船をほしいままに臨検、拿捕、抑留し、甚だしきは、臨検に際し、漁獲物及び船員の私物までも掠奪するがごとき暴虐なる海賊的行為をあえてしまして、遂には日本官船までも拿捕抑留するに至っております。

同水域は、前にも述べました通り、古くから日本漁業者の開拓した漁場でありまして、「さば」のはね釣りを初めといたまして、延縄、旋網、底曳漁業等の年々1000数百艘の漁船の出漁によりまして、20数万トン、130~140億円に達する漁獲を挙げ来たりまして、国民の蛋白給源として、はた又国民経済の上に、その影響するところは極めて重大でありますが、今やこの暴挙に会いましてこれらの漁業は壊滅的打撃をこうむるに至っております。

9月以降拿捕抑留せられました漁船および乗組員は、官船を含めまして42隻、516名に達し、これら船員に対しては一方的裁判によりまして不当苛酷なる刑罰を科し、あまつさえ、漁獲物は勿論、漁船、漁具等までもこれを没収するの判決を下したと伝えられております。

我がほうといたしましては、この緊迫せる事態の平和的解決を図るべく、10月6日第3回の日韓会談を開いたのでありますが、韓国政府代表は当初より会談継続の誠意を持たなかったのでありましょうか、僅か旬日を出でずして、言を構えて、遂に会談を停頓せしめるに至りましたことは、誠に遺憾に堪えないところでありまして、この会談に大きな望みを嘱しておりました全国民の期待は、とりわけ関係漁民の期待は遂に裏切られまして、失望と憤激は今や最高調に達せんとしつつあるのであります。

これら拿捕せられた漁船の多くは極めて零細な漁民でありまして、非常な苦心の下に資金を持ち寄って、辛うじて漁船を建造し、出漁したものでありますが、今回の拿捕抑留により、船主たちは破産の状態に陥っております。又その多数の家族は、俄かに一家の支柱を失いまして、生活の途を断たれた惨状は、各地に開かれておりますところの国民大会に血の叫びとなって訴えられておりますことは御承知の通りであります。追々と寒冷の募る朝鮮の地に罪人の処遇を受けておる乗組員と、飢に泣く多数の留守家族の身の上を思いますときに、誠に同情に堪えないものがあるのであります。これら拿捕船の返還、抑留者の即時釈放及び留守家族に対する援護の措置は最も緊急を要する問題でありまして、強くこれを政府に要望するものであります。

最後に、我々の重大関心を持っておることは、今後の出漁に対する安全保護の問題であります。この水域における底曳漁業の漁期は間近に迫って参りました。我が漁業者といたしましては、権益擁護の立場から、又将来の悪例を断つためにも、更に直接的には生活のためにも、出漁を強行せざるを得ないと強い決意を持っておるのであります。この場合、政府は、事故を未然に防止するため、速かに有効適切なるあらゆる措置を講ずべきであると信じます。若しこのまま荏苒(じんぜん)日を過ごすにおきましては、国民感情のほとばしるところ如何なる事象を惹起せぬとも測りがたい状態にあります。

以上私は提案理由の主なる点を簡単に申述べましたが、本問題は我が国の当面せる極めて重大なる問題でありまして、これが解決の如何は将来の我が国運の伸張の上にも影響するところ甚大であると思います。よって政府は、この点を十分考慮し、これが解決に最善を尽されんことを要求するものであります。

以上提案理由の説明を申上げました。何とぞ満場の御賛成を切望いたします。(拍手)

[009]
議長 河井彌八
別に御発言もなければ、これより本決議案の採決をいたします。本決議案に賛成の諸君の起立を求めます。

〔賛成者起立〕

[010]
議長 河井彌八
総員起立と認めます。よって本決議案は全会一致を以て可決せられました。(拍手)