昭和35年02月18日 参議院 農林水産委員会

[014]
自由民主党 秋山俊一郎
ただいま委員長から申されましたように、私は日韓漁業の問題について若干のお尋ねをいたしたいと思います。まず、海上保安庁当局にお尋ねいたしますが、新聞でもすでに発表されております通り、去る本月の12日の夜半過ぎに、長崎県の五島の永田水産という会社の底びき漁船が五島の大瀬崎の西方農林漁区245という海域において拿捕されました。韓国の警備艇に拿捕されて、しかも、乗組員13人というものは抑留された。その際に漁船である第五八幡丸は曳航中についに沈没してしまった、こういうことが新聞で報ぜられておるのでありまして、私どもは非常な衝撃を受けたわけであります。

本来、昨年から日韓会談が再開されまして、いろいろと李ラインの問題についても、その他の問題についても交渉があっております際に、まず、日韓会談の交渉中には拿捕しないように、また日本の漁船も危険区域を警戒するようにといったような双方の自粛もあったはずであります。そうして今日まで幸いに大した拿捕も起こらずに参っておったさ中に突然かような事態が起こりましたことは、まことに遺憾至極と考えるわけでありますが、この実態につきまして、海上保安庁は巡視船によってそれぞれ折衝し、現地の状況もよく調査しておられることと存じますので、第五八幡丸の拿捕あるいは沈没といったようなことについての大体の事情を一つ御報告を願いたいと思います。

[015]
政府委員(海上保安庁長官) 林坦
第五八幡丸の拿捕事件の経過につきまして一通り御説明を申し上げます。第七管区海上保安本部からの報告によりますと、長崎県の五島の永田水産所属の第五八幡丸、これは57トン96、乗組員13名の漁船でありますが、その船は僚船の第六八幡丸とともに2月の10日の午前1時五島を出港いたしまして、12日の午前3時ごろ農林245区の大体北東付近でございますが、李ライン外約7.5海里と推定されます、その地点におきまして操業いたしておりました。そうすると午前4時15分ころ韓国の警備艇の追跡を受けましたので、その旨の緊急通信を発しまするとともに、逃走を開始した、こういうことになります。なお第六八幡丸の方は別に逃走いたしまして退避いたしまして大体退避に成功いたしております。

午前4時57分に韓国の警備艇に強行接舷されまして、警備兵1名が移乗して参りまして機関停止を命ぜられたのでありまするが、なおも逃走を続けておりましたところ、午前5時38分農林245区の大体李ライン付近で機関停止、ついに拿捕されるに至った、こういうことに報告を受けております。最初接舷されましたそのときに船体に損傷を受けたのではないかと思われるのであります。

その後、韓国警備艇はその船を連行いたしまして済州島方面に向う途中、8時13分に第五八幡丸は船体が傾斜いたしまして水船となって農林の244区の西南の地点におきまして完全に沈没するに至りました。乗組員は全員韓国警備艇に強制移乗せしめられた。韓国の警備艇は全員を収容のまま連行を続けた、こういうのがその当時の事情だと報告を受けております。

海上保安庁といたしましては、2月の11日の午後5時30分に当地区方面に厳戒警報を発令いたしておりました。12日のまた午前1時30分にも重ねて警報を発令いたしておるのであります。ただいま申し上げましたように、午前4時15分に巡視船「あまくさ」が第五八幡丸からの緊急通信を受信いたしまして、さっそく巡視船の「あわじ」、そして「つがる」に対しまして現場急行方を指示しますとともに、みずからもその現場に向かったのであります。

「あまくさ」は午前の7時、245区におきまして、第五八幡丸を連行中の韓国の警備艇を発見いたしました。直ちに信号によりまして第五八幡丸乗組員の釈放交渉を行なったのでありますが、応答をしなかった。さらに警備艇を追尾いたしまして7時25分に「あまくさ」が第五八幡丸の至近距離に近づきましたところ、韓国警備艇は、本船の進路を妨害するなという信号を掲げまして、さらに機銃のカバーを外してこちらにおどすというような形になりまして、「あまくさ」は一応そこを射程外にのがれまして離脱いたしまして機を見て再度接近、交渉に当たったのであります。しかしながら、なお応答はなかった。その後警備艇はやはり本船に近づくなという信号を掲げまして、さらに機銃を巡視船に向けたまま航行した、こういう状況であります。

8時13分に連行中の第五八幡丸は、だんだん水が入りまして沈没しかかりましたので、「あまくさ」はその船に接舷を試みまして乗組員の救助に当たろうとしました。ところが、韓国警備艇は第五八幡丸の乗組員全員を警備艇に強制移乗させまして、当方の釈放要求にも応ぜず、さらに航行を続けた、こういうわけでございます。午前8時27分に、八幡丸は全部沈んでしまったのであります。人命には異常がなかったように思われます。

その後再三にわたるこちらの釈放要求にも向こうは応ずることもせず、済州島方面に航行を続けましたので、わが方は「あまくさ」「つがる」もまた追尾を続けたのであります。午後1時、警備艇は済州島の城山浦に入港いたしました。また2時35分にふたたび出港いたしまして、済州島の山地に向けて航行を再開いたしました。「あまくさ」はさらにこれを追尾いたしますとともに、再度接近して連行漁夫の引き渡しを交渉いたしましたけれども、さらに応答ございません。午後の5時30分ごろ、警備艇が山地の港口に達しましたので、こちらは残念ながら交渉を断念して引き返した。これがその当時の模様でございます。

報告を終ります。