昭和31年04月12日 参議院 法務委員会

[016]
無所属 中山福藏
この法案に関連いたしまして、一つ法務省の御意見を承わっておきたいと思います。ただいま世間で非常に注目を浴びておりまするところのいわゆる大村収容所の収容者を、韓国に抑留されておりまする日本の漁夫と交換するという問題が起っておりますが、大体外務省と法務省の意見がその点に関してもつれておるように思われ、また対立しておるように感ぜられますが、法務省としては、これから先にあくまでも自己の主張、つまり法律の論拠に基いた主張というものを貫徹するために御努力になるお覚悟でございましょうか。

また、外務省と法務省の意見の対立はどういう点にあるかということを一つ明確にしておいていただきたいと、かように考えておるわけであります。

[017]
政府委員(法務政務次官) 松原一彦
お尋ねの日韓問題の前提をなす大村収容所における韓国人の釈放と、釜山にいる日本漁民の解放とを交換条件にするということに対するお尋ねでございますが、これは厳密なる法理的解釈としまするならば、法務省は同等のものではないという所見を持っておるものです。

季ラインという国際的に認められないものを引いて、これを越えた者を一方的に韓国の方では処分をしております。そして刑期の満ちた者は当然帰すべきであるにかかわらず帰さない。国際慣行から言うても強制退去せしむべき性質のものであります。それがそのまま抑留せられている。

今国内において韓国籍あるいは朝鮮籍を持つと認めらるる人々が400幾十人、不法入国者以外に今大村に収容せられておりますが、この人々は、国際慣行に従って強制退去を命じたのでありまして、韓国が引き取るべきものと思うのであります。

従ってもし釈放を相互一諸にするならば韓国に引き取るというのが筋の立つ釈放の仕方で、国内において釈放しろということに対しては筋が立たないと私は思います。

ただし先般も申し上げましたが、一衣帯水の一番近い隣接国で、しかも長い間一つの国籍を持って参った因縁を持っている日韓の間に、正常なる国交が行われておらぬということは、すべての点に非常に不都合でございまして、一日も早く正常なる国交を回復し、すべての問題が円満に行われますことを希望するのでございまして、今回韓国の側から日本の外務省に向って国交調整の話を進めようというお申し出があった。その申し出の前提として、従来希望しておった点をさらに強く申して参った、そうしてこれから話を始めようというその前提条件として、たびたび外務省の側から聞くのでありますが、その話の糸口を切るために、一応先方の要求をも入れて国内釈放を行うことができるかどうかという話を受けているのであります。

これは先刻も申し上げましたように釈放する理由が非常に不明でありますので、そっくりそのままのむわけには参りませんけれども、しかし事と場合によりましては、今日までも一部は釈放いたしておるのであります。国内に釈放しておる、そういう事実がある。仮放免という法律の条項もございますので、国内において若干期間だけ引受団体等ができて、治安の面においても差しつかえがない、この人々の身柄は引き受けるという引受団体等ができて、それも朝鮮の側からでありますが、預るということの保証がつくならば、これは若干期間引受条件のもとに釈放ということも考えられ得ると考えておるのであります。

しかし国交が回復した結果としては、当然国籍の問題はあくまでも従来通り韓国籍の者であるということであり、さらに今後のかような場合における国外強制退去に対しましては、韓国の側で国際慣行通りに引き受けるということをば条件といたして、私どもは今希望を申し述べておる次第でございます。その点においての御相談ならば応ずるということをば、法務省の方では申しておる次第でございます。



[019]
政府委員(法務政務次官) 松原一彦
なお、朝鮮の李ラインを引いた後に行われたる取扱いにつきましては、これは法律上大へんむずかしい問題と思いますので、私どもはこれを認めませんが、今の実情だけを私の今メモにとりましたのをば御報告申しておきますが、ただいま現在で日本の漁夫が朝鮮に抑留せられております者の数は690名、そのうち刑期が満ちたと称して今回送り帰そうという者の数は340名ないし350名だということになっております。



[028]
無所属 中山福藏
私非常に憂えますることは、今度外務省の意見と法務省の意見が妥協といいますか話し合いがついて、結局漁夫と大村収容所における被抑留者との交換が行われたといたしまする場合に、刑期満了という札つきの人ばかり交換されたら、これはやはり李ラインの承認という問題が影の形に添うごとくやはり一つの認定を伴うものであると私は思う。だからそういうあとに尾を引かないような御処置をお願いしたいと思うと同時に、大村収容所に抑留されておりまする人のうちには相当重罪犯人が多いんじゃないか、いわゆる悪質抑留者が多いんじゃないかと、こう見ているんですが、それを野放しに日本内地で釈放してしまって、あとの責任はなるほど韓国の人々の団体とか、いろんなそういう団体の代表者が保証人ということになるでしょうが、しかしその保証だけで私ども国民というものは安心していいものかどうかということは、非常にこれは疑問だと思う。

それで、大体御承知の通りに、今、朝鮮人に対する扶助料というものは24億万円、それが税金で私どもにかかっているんです。この24億万円の金がわれわれの税金によってまかなわれておるということにつきましては、相当の私は考慮を払わなければならぬ点であると思う。もしそういう悪質犯罪者が釈放されて、やはり要保護者という立場で私どもはこれにまでも扶助料を出すということになれば、ますます私どもの税金というものは高くなるということになる。

だからその悪いことをしないという保証を監視付か何かで、そういうことに団体でも責任を持ってくれれば、これは法律上の根拠のあるなしは別として、国民は非常に安心するわけなんですがね、そういう点についてはお取り調べになっておりますでしょうか、どうでしょうか、一つその点。

[029]
政府委員(法務政務次官) 松原一彦
ごもっともな御心配でございますが、その釈放といいましても私どものは条件付でございまして、話を進める上におけるところの糸口を切ろうというだけの条件付でございますから、そこで十分そのあとのことを考慮しなければなりませんが、国内におけるあとの治安の、直接の責任は警察の方でございますので、これは警察の方から意見が出ております。その意見は、小出しにして、そうして保護団体を作って2カ月ぐらいの間そこで十二分に監視もし責任を負ってもらう、食費もつけて出して手当もする、それでなければ皆もう小づかい銭もなく、その日から生活の困る人々でありますから、そういうふうな条件もつけて治安の維持をはかろうということを警察の側が申しておる、その意見が出ております。この意見は法務省の側と一致いたしておりますので、そういう条件のもとにというのでございます。

なお、今お話がありましたが、念のためにここで……。今朝私は日本の刑務所における受刑者を調べてみたのでありますが、ただいま日本の刑務所では、2月末の調べでありますが、6万8450人の受刑者がおります。そのうちに朝鮮籍の者が4597人、総数8000万の国民に対しまして日本籍の者は1万分の8ぐらいでございますが、朝鮮籍の人々は1000分の8、10倍だけ多いようでございます。

6万8000人の受刑中の人々のうちで、朝鮮籍の人が4500、まあ4600人という事実から申しましても、この人々が確かな生産的生業を持っておらぬ、ここに非常に大きい悩みがある。決して私どもは厄介がるわけではございませんが、長い間同じ国民として暮してきた者でありますから厄介がるわけではありませんけれども、またすぐに送り返そうとは思っておりませんが、せめて国際慣行によって送り返される分だけは徐々に引き取ってもらいたいという謙譲な態度をもって今臨んでおるということを申し上げておきます。