昭和31年04月06日 衆議院 法務委員会

[018]
日本社会党(社会民主党) 猪俣浩三
それから、私どもも、刑罰法令に違反したような者を、日本の漁師と引きかえに引き取るというのならわかるけれども、国内で釈放せいということは、どうも筋道が立たぬと思われるのです。それについては向うはどういう理由でそういう筋道の立たぬような主張をしているのであるか。

日本の漁師と不法入国した者と取りかえるということすらおかしいと思うのでありますけれども、それは、向うは向うとして、李ラインを越えたのだから不法入国者だという主張はあるかもしれませんが、日本の刑罰法令に違反したために強制送還になるような者を内地で釈放せよという、その根拠はどういうことからきておるのでありましょうか。法務省で承わっておる理由を聞かしていただきたい。

[019]
政府委員(入国管理局長) 内田藤雄
これは実際私ども不可解としているところでございますので、どういう根拠かということは想像で申し上げるよりほかないのでございます。

私どもがまた聞きあるいは向うの人々と話しているときの片言隻句などから想像いたしますと、先ほどもちょっと申し上げましたように、日本へ居住することになった事情などから見まして、今度日本側がそれを一方的に退去させるというようなことは根拠がないというようなことを向うにおいては申しております。それからまた、一つは国籍の問題とからめてでございますが、これは、先ほど申し上げましたように、前の主張ではそういうことは何ら言っていなかったのでございますが、最近になりましてそういうことをちらほら申すようになったのでございまして、これはやはり、引き取りを拒むための言いがかりと申しますか、口実として言い出したのではないかと思うのでありますが、まだ日韓の間には基本条約ができていないから、その条約ができるまではある意味で不確定なんだ、こういうようなことを理由にしておるようでございます。



[050]
自由民主党 高瀬傳
釜山におります漁夫の、朝鮮から言うと刑期を終った人たち、これらの人と大村の収容所におる戦前から日本に在住した刑余者の人たちとを相互的に交換するという話が重光さんと金君の間であったという新聞記事があった。もちろん、その問題については、外務省の情報文化局長の田中君も発表しておるようでありますから、これは単なる新聞記事でないことは事実だと思います。それから、先ほどの松原法務政務次官のお話によっても、そういう会談が進行しつつあるということが事実であることは間違いないのでありますが、私は、その会談に関連いたしまして、大付収容所に収容されております朝鮮人の実情あるいは南北の別、収容の原因、前科のいろいろな態様、悪質な罪名の件数、これらの点について実は最初に伺いたいと思いましたが、それは、ここに配付されております大村収容所被収容韓国人関係概況というので全貌がわかりましたから、省略いたします。

ただ、私が問題にしたいことは、われわれ日本人として、朝鮮に不法に抑留されておりますところの漁夫の人々が一刻も早く日本に帰ってくるということは、国民感情としてもちろん異議もありませんし熱望するところでありますが、新聞に伝えられるようなところ、あるいは先ほど松原政務次官が言われましたように、これらの漁夫と大村収容所に収容されております刑余者とを相互的に交換することは、国民感情から言ってここに非常に割り切れないものがあるわけでありまして、これらの相互釈放に関しまして法務大臣は一体どういう見解を持っておられるか、これを私は一つはっきりと伺っておきたいと思うのであります。

これはいずれ外務当局にもたださなければならない重要問題でありますが、少くとも事務当局は相互釈放ということについて非常に反対の所見を持っておられることは事実のようでありますけれども、一体法務当局は、これらの相互釈放というものについて、事前に重光大臣から牧野法務大臣に話があって、それはよろしいということで賛成されたのか、また、それらに対して法務大臣としては一体いかなる所見を持っておるのか、この点をまず私は伺っておきたいと思うのであります。

[051]
政府委員(法務政務次官) 松原一彦
お答え申し上げます。かねてこの問題が閣議においてたびたび出たと、私は法務大臣から聞いております。そうして、できるだけ一日も早く解決して、両国間の国交を調整したい、それで、それにはわれわれも精一ぱい協力しよう、こういうお話を法務大臣から聞いておりますので、今回の韓国代表からの外務省への交渉を、私どもはやっぱり喜んで受けたいと思っておるものでございます。従って、私は、法務大臣にも会いまして、両省でこの解決のためには最善を尽しますから、どうぞおまかせ願いますということで、今までのところでは、私がおまかせをいただいて処理いたしておるようなわけでございます。

相互に釈放するということは、これはそこまで話がくれば大へんけっこうで、向うの罪刑が果して適当であるかないかはとにかくとして、釈放して日本に帰す、同時に大村に収容しておる者を朝鮮に帰す、これなら何でもないのであります。その通りにあってほしいのであります。

ただ、条件が、終戦前の在留者に対して疑義があるというようなことを聞いております。終戦前から日本に居住しておった者については疑義があるが、この際に国交を調整するために一応大村に収容しておる400何人の人々を先方の要求の若干を入れて処理するということにつきましては、私どももそれを承認いたしたのであります。ただし条件をつけての承認であります。

というのは、従来からもやっておる例でございますが、これは治安維持の上からも非常に重大な問題がありますので、保護団体等ができて、そうして責任を持って引き取ってくれる場合においては、従来からも釈放いたしております。そういう保証のつく限りにおいて、徐々に安心のできる程度においての釈放ならば、私は差しつかえないと今日も思っております。

そういうこまかなことにつきましては、外務大臣と私との話し合いにおきましては、在日韓国代表部の委員と日本政府側の委員との間においてとくと協議をして、無理のないように実行する、こういう約束になっております。それで、今後、法務省からも委員を出しまして、外務省は今回沢田さんがお当りになるそうですが、協力して円満な解決に進みたいというふうに努めておる次第でございます。

[052]
自由民主党 高瀬傳
ただいまの御答弁でありますが、戦争前からおって刑余者として収容されておる者は、国際法上から見ましても、出入国管理令によりましても、当然朝鮮の方に引き取らるべき筋合いの人であります。それを、単なる相互釈放というような話し合いから、一体国内的に解決し得るものであるかどうか、この点に私は非常に問題があるだろうと思うのであります。

第一、韓国側においては、これらの人が国籍が不明であるから引き取らないのだというようなことを言っているようでありますが、もし引き取らないというならば、これは当然わが国の国内法によって処置すべきものでありまして、この点について、単に外交上の相互釈放とか取引だけで解決するのには、あまりに重大な問題であると思うのであります。

そこで、法務当局に伺いたいのは、一体、これらの人たちに対して、向うが受け取らないから、外交交渉の結果そういう了解ができたから、やむを得ずこれを国内に釈放するのであるかどうか、それからまた、釈放する場合には一体どういう法的根拠によってそれを行うのであるか、こういう点についてはっきりした法務当局の見解を伺っておきたいと思うのであります。

[053]
政府委員(法務政務次官) 松原一彦
それは、従来も釈放した例があるのでございまして、必ずしも前例がないとは限りません。

大村収容所の収容力は限りがあります。あとからあとからたまれば、そんなに理屈通りに全部を収容するわけにも参りません。それぞれの方法を具して、治安の維持上危険のない程度において釈放いたして、保護団体等に預ける等の方法がございます。

今回も、そういう点につきましては、委員をあげて処理して、十二分に納得のいく線においてこれをば一時釈放するということにして、なるべく日韓間の国交を調整したいという希望を持って進んでいるということを御了解願います。

[054]
自由民主党 高瀬傳
この前も釈放したというお話でありますが、今回釈放するその犯人の内容、それは政務次官も御存じでありましょうが、前科9犯ないし12犯の者が13人、6犯ないし8犯の者が80人、3犯ないし5犯の者が240人、こんな犯罪者が含まれているわけであります。ですから、この前釈放したから今回もよろしいということは、非常に問題であろうと私は考える一人なんであります。

従って、この前釈放したというのは、私は一向前例にはならないと考えている一人でありますがゆえに、この問題を重視しているわけであります。

しかも、これが朝鮮に抑留されているわが国の漁民の一部釈放と関連性を持っているところに、非常に重大性があるのでありまして、それは、もちろん、朝鮮におられる漁夫の家族から言えば、一刻も早くこれらの人が日本に帰還することを望むその気持は、私どもは日本人として大いに共感を禁じ得ない一人でありますけれども、日本の国内法といわゆる外交的取引の調整、こういう問題についてさっぱりはっきりした見解がなっていない。私は、この点外務当局にはっきりした見解を聞きたいと思って、先ほどから出席を要求しているわけでありますが、関連性を持ってそういうふうな問題を取り扱うことが、果して、日本の法律をはっきりと守っていく法務大臣の立場として、一体国民に納得されるのかどうか、これらの点は、どうしてもわれわれは釈然としないところがあるのであります。

ですから、関連性を持っているがゆえに、向うで引き取らないから、やむを得ないから日本で無条件に釈放するということは、一体いかなる法的根拠であるのか、私はさっぱりわからないわけでありまして、その点は一つ松原政務次官のみならず事務当局の岸本次官にもとくと伺っておきたいと思うのであります。

[055]
政府委員(法務政務次官) 松原一彦
こまかなことは事務当局からお答えさせていただきますが、収容していることそのものは法務省の所管でありますが、治安の維持に対しましては、警察方面、治安関係の方に非常な責任もあれば発言権もあるのでありまして、この問題が起りましたときに、治安関係の方から出ました要望があるのであります。

それには、これに応ずるとするならば、相当の方法を具して少数ずつの者を保護団体等によって保護し、責任を負う等の処理をしなければならぬ、それに対しては費用もいる、そういうことが備わった場合においては、これは必ずしもできないものではないということが、治安関係から表明せられております。

それで、釈放して外に出た後の処理につきましては、それは私は日本政府の責任だと思う。日本政府が責任を持って、これに対して国民に危険な思いをさせないようにしなければならぬ。高瀬さんのおっしゃる通りに私どもも心配するものでございます。その処理の仕方等がこれからの相談の上で決定するものと心得ておりますが、法的関係その他こまかなことにつきましては、私もよく承知いたしませんので、事務当局からお答えをさせていただきます。

[056]
説明員(事務次官) 岸本義廣
事務当局の責任者の一人といたしましてお答えいたしたいと思います。

実は、日本の漁夫と大村収容所に収容している朝鮮人とを交換的に釈放するということは全く筋が通らないのでありまして、これは、先方は無法の主張であり、日本は法規、法令に基いて収容しているのでありますから、理論的に考えますと全く筋の通らない話なんであります。

しかしながら、法務当局といたしましては昨年夏以来この問題に行き悩んで参ったのであります。外務省に対しましても、法務省から、この朝鮮側の無法な主張をしりぞけていただいて、法務省の意見をいれてもらうよう再三要求もいたして参ったのであります。

しかしながら、先ほど政務次官がお答えいたしましたように、大村収容所の施設にも限度がございます。つまり、入れものが詰まって参ったのであります。昨年のたしか11月か12月の現状を申しますと、まさに超飽和状態というような報告が参っておりまして、警察上から見ましても、この状況では治安状況がはなはだ危険であるといったようなSOSを発して参ったような次第であります。

こういうような状況下にありまして、一方日本の漁夫に対する釈放運動が内外を通じて非常に猛烈になって参りました。外務省及び法務省のわれわれのところにも盛んに陳情団が参るような次第であります。また、われわれの見解をもっていたしましても、一日も早くこの釜山に収容されておる漁夫を帰してやりたいという念願で一ぱいだったのでございます。そこで、相矛盾する2つの条件が対立いたしまして、これをどう調整すべきかということが法務省の頭痛の種だった次第でございます。

そこで、先ほど政務次官から申し上げましたように、本件の場合とは事情は違いますけれども、かつて大村収容所に収容している朝鮮人を仮放免の形式で引取人を定め保証金をとって釈放したという事例がございますので、その例にかんがみまして、もし日本の漁夫を釈放して日本に送還することができるならばというのが1つの原因でありますが、最近になりましてたまたま朝鮮側から外務省に対して会談の申込みがありました関係が発生いたしまして、事務当局といたしましては、この調整をどうするかという点に関連し、1つの前提を考えているのであります。

先ほど政務次官が申されましたように、今後法務省において強制退去令書を出すと必ず朝鮮側において引き取るという条件、私どもはこれを将来の保障と申しておりますが、この将来の保障を取りつけ得るならば、今回朝鮮から申し込んで参りました相互釈放の条件を考慮しようというのでございます。

いま1つの条件は、大村収容所に400名内外の刑余の朝鮮人がおりますが、これを釈放いたしましても、おそらくまた何らかの機会に犯罪を犯すであろうと想像されるのでありまして、さような場合には、一般の朝鮮人と同じように、強制退去令書で先方が引き取ってくれというようなことでありまして、これらの条件を前提条件といたしまして、この条件を受け入れてくれるならば相互釈放の要求に応じてもよろしいという態度をとって参ったのでございまして、今後、外務省及び法務省から委員が出て朝鮮側との条件の会談に関する委員会が設けられて、委員会において会談が進められることと思いますが、この会談を通じて法務省側委員からわれわれの要求を申し出るつもりでおるのでございます。

ただいまのところはさような状況であります。

[057]
自由民主党 高瀬傳
いろいろその事情はおありになるでありましょうが、私どもが全く釈然としないのは、不法に入国してきた連中、大村収容所の連中、朝鮮人1434名、これらの密入国者と刑余者をひっくるめて、それと日本の漁夫691名とを、あたかもそれらが一見交換と思われるような条件でこの取りきめが行われようとしておるわけであります。

しかも、日本の漁夫については、われわれは全然李ラインなどは認めておらず、釜山に抑留されておるわれわれの同胞は公海の自由の原則に従って漁業を営んでおった者で、これを刑余者などとは何ら見ておらないのでありますが、韓国から見て、刑を終ったと思われる者だけと交換するという。われわれの方は日本の国法に従って刑余者を収容しておる。

だから、こういうようなことは全然何らの関連性がないのでありまして、法務省としては今後そういうことは外交関係で相互釈放などという問題が起きてきても絶対やらぬとおっしゃいますけれども、そういうことならば、過去において、――これはほんとうのことを言いまして、朝鮮に抑留されておる日本の漁夫とは全然関係のない問題でありまして、独自の立場でこの問題を解決するということについて、法務省としては今まで努力をされたかどうか。それから、将来の政府全体の国策なりあるいは朝鮮に対する日本の国策として、これらの問題はこうすべきだということについて、法務当局はそれらについて何らかの具体策をお持ちになっているかどうか。こういう点は非常にわれわれ関心を持つわけでありますが、過去においてそういう努力をされたかどうか。それから、政府は朝鮮に対しこれらの問題に対する確固不動の国策を将来樹立する熱意があるかどうか。それから、現在行われている釈放はやむを得ないとして、法務当局はそれでがまんして、今後さえしなければいいという御態度かどうか。この点も一つ伺っておきたいと思います。

[058]
政府委員(法務政務次官) 松原一彦
お答え申し上げます。

重光外務大臣からのお話も承わり、私もこの点については数次意見を申し上げております。また、閣議は、今回ばかりじゃない、すでに前からたびたび開かれて、この問題は論議せられているということを、先刻も私は法務大臣から承わったと申し上げたのでありますが、さようなわけで、今回日韓両国の間に国交の調整をはかる糸口をつける、そのためにはこれこれの処理をしたいということで、政府において協議せられて法務省の意見を聞かれましたのが最後でございます。

これにつきましては、先刻申し上げましたように、どうか一日も早く国交を調整して不法抑留されている日本の漁夫を取り返したい、それを取り返すために話の糸口をつける上においての手段として考慮すべき点がありますならば、われわれもできる限りのことは応ずべきだと思いました。というて、それで日本の法律の権威をまげるわけにもいきませんし、日本がもし今日まで抑留しておることが間違いであったならば、これは不法監禁になるのであります。

日本は決して不法監禁はいたしておりません。正当な収容をいたしておるのであって、断じて不法監禁しておるのではない。

ただ、従来の例としても、これを保護団体等が責任を負うて預かる場合においては釈放したり仮放免した事実もあるので、同じようなケースにおいて、保護団体等ができて引き受けるというならば、それは話の糸口をつける上においてもよろしかろう。ただし、これには費用がいります。ただではなかなか釈放ができないのであります。というのは、あの人々は無一文であります。着のみ着のままで、出た日からめしが食えない人たちであります。これを釈放して、この人人の将来を処理するために、また、向うに引き取ってもらうためにも、あるいはその行き先を選ぶためにも――中には、いやもうしばらくここにおると言う人が北鮮側の人にはあるかもしれないという見通しがその当時にはあったのであります。それで、費用もいりますから、その辺についても御考慮願いたいということを申し出てありますし、相当の計算もいたしております。そうして、どうせあそこに抑留しておる以上は1日に75円の食費は出しておるのであります。でありますから、この国交を正常なる軌道に乗せる手段としてのでき得るだけの考慮は払いますが、しかし、その軌道に乗った上においては、今後はすべてスムーズに国際慣行通りに進めることの固い保障を願いたいというのがわれわれの希望でございます。

[059]
自由民主党 高瀬傳
ただいまの御答弁でありますが、国交を軌道に乗せる方便としてとおっしやいますけれども、一体それでは日本の法律というものをいかなる基盤の上でわれわれは権威を持って行うのか。

つまり、外交上の取引のためには日本の法律の権威も一時はよろしくやるというふうにしかわれわれはとれないのでありますが、その点に対する法務当局の御見解を伺いたい。

[060]
政府委員(入国管理局長) 内田藤雄
ちょっと前からのいきさつを簡単に申し上げます。

さかのぼりまして一昨年のことでございますが、鳩山内閣ができましてから、一時日韓の間が少くとも感情的にちょっとやわらいだようなときがございまして、そのとき、先ほど政務次官が先例としておられますごとく、しかしこれは私が先ほどの御答弁で申し上げましたように実は内容が違うのでありますが、ともかくその当時退令に付しておった者の標準から見ますとはるかに軽い人たちが収客されておった事実がございますので、それを仮放免の形で釈放し、他方密入国者の引き取りが開始された。ところが、そのころから向うは漁民を帰さないということが始まりまして、その間にほかのいろいろな事情から、また日韓の関係が5月ごろから悪化して参りました。その当時も、私どもは、やがてこれは向うで、人質のごとく、抑留しておる日本人漁夫と大村の問題をひっかけて参るだろうということを予想いたしましたので、外務省に対しまして、これに乗っては困るということを実は申し入れをいたしたのでございます。

その理由は、もう高瀬委員の御質問で御指摘になっておる通りの、全く同じことを私どもは外務当局に申し入れてあるわけでございます。それで、外務当局はわれわれの申し入れに基きましてどれだけの外交折衝をやってくれましたか、それはちょっと私からははっきり申し上げられないのでございますが、外務当局の説明によりますと、それはいろいろやったんだけれども、韓国側がどうしても言うことを聞かない、だから何とか大村の問題を考えてくれ、こういうようなことで、昨年の夏以来数度にわたり領事館を交えました会議もいたしましたし、また私とアジア局長との会議のようなこともひんばんに行なって参りました。

それで、外務省に対しまして、先ほども申しましたように、ひっかけられるのは困るという申し入れをしたのみならず、現実に韓国側がひっかけて参りました以後におきまして、われわれが外務当局に申し入れをいたしました点は、ただこの問題だけではないのでありまして、一体、今のような韓国のやり方では、自分の主張を通すためには、いつでも日本人漁夫を引っぱっていけば日本側は人質外交にひっかかって言うことを聞く、こういうことを繰り返されたのでは、この問題は一時解決したがごとくに見えても、ちっとも解決にならぬじゃないか、そこで、われわれとしましては、将来こういう刑罰法令違反の悪質不良な外国人をば退去させるようなことは、もうほかの問題にひっかけることなしに必ず引き取るという原則をはっきりしてもらいたいということが1つと、もう1つは、実際問題として、李ラインを越えたというようなことで日本人漁夫が幾らでもまた人質にとられる状態がそのまま続いたのでは困るから、李ラインの問題を解決するか、あるいは、解決できないなら解決できないままで、実際上こういうことが起らないような事態を、何とかして、国内的か何か存じませんが、考える、あるいは、漁夫がつかまっても、今後はそれを人質にして何を言ってきても絶対に受け付けることのないような国策をはっきりしてもらいたい、こういうことをずっと申し入れもいたし、またそういうことで協議をして参ったのでございます。

その点につきましてわれわれの努力が足りなかったかもしれませんが、われわれとしては、こういう事態の繰り返しがないようにということについては、何度も申し入れもし、協議もいたしたつもりでございますが、遺憾ながら、先ほど政務次官からお話がございましたように、ともかく今般こういうことで一応日韓関係の打開のために口火を切るから、法務省の方も協力せいということでございますので、われわれといたしましては、先ほど来政務次官、または次官がおっしゃっておりますように、ぎりぎりの線として、先ほど申しましたようなことでやっておるわけでございます。

法的な根拠とおっしゃいますと、これは入管令にともかく仮放免ができるという規定があるのでございます。それは、第54条に、退去強制令書の発行を受けた者でもある条件のもとに仮放免いたすことができるということになっておりますので、この条文を、これは正当な運用であるかどうかには私ども自身も疑念を持っておりますが、しかし、ともかくこの条文をたてにいたしまして仮放免をいたす、そうして治安上害のないようにということにつきましてはできる限りの手当をいたしたい、そして、先ほどおっしゃいましたように、今後こういうことが繰り返されないように保障をとってもらって、刑罰法令違反者が円滑に送還されるならば、実は、私ども限りの角度から見ましても、法律的に申せばどうか知りませんが、一つの取引としても十分に成り立つ取引ではないか、こういうふうに考えておるわけであります。

[061]
自由民主党 高瀬傳
ただいまの入管令か何かで仮放免ができるということは、いわゆる日本独自の法を運用する、あるいは法を実施する独自の立場においてなし得る一つの事柄でありまして、これは外交的に一種のバーター・システムみたいな形でやらるべき問題では絶対にない、こういうふうに私は思うのであります。

そこで、ともかくも、この相互釈放という問題は国内の治安にも重大な影響がある。それからまた、国民感情にも重大な影響を及ぼします。それから、心ある者は大いにこれで刺激される。世論も沸騰する。それから、李ラインそのものを通して日韓の将来の関係に非常に悪影響を及ぼす重大な問題であると私は思う。法務当局は、引き受ける人間があるし、保証があるから釈放してもいいと言いましても、そうは簡単にいかないのでありまして、これらの問題は、朝鮮に抑留されておる漁夫のことを考えると、言うには忍びないことでありますけれども、私は重大な問題として取り扱わざるを得ないのであります。

そこで本日は外務当局にも出席を要求しておきましたが、いかなる理由か、全然出てこない。私は与党の議員の一人でありますが、この問題は与党とか野党とかいう問題を超越して、日本国民の一人としてはっきりとさせなければならない問題でありますがゆえに私は質問いたしておるのであります。遺憾ながら、外務省の責任者はいかなる理由か出て参りませんから、本日これらの問題についてただすわけにはいきませんけれども、実際問題として、内政と外交との調和の問題について外務大臣などは一体何を考えておるのか、私にはさっぱりわからない。遺憾ながら法務大臣は入院され、外務大臣も何か痔の手術で見えないということになると、まるでのれんに腕押しみたいになって、松原政務次官初め岸本次官にははなはだ申しわけないのでありますが、私は全くふんまんにたえないのです。いずれ日をあらためて、外務当局の責任者に出席を要求しまして、私はこの問題について、ほんとうにとらわれない立場から外務大臣の所見を聞きたいと思いますが、法務省関係の各位のお立場の苦しい点は私も非常によくわかりますから、この程度で私の質問は終りといたします。

[062]
委員長 高橋禎一
池田君。

[063]
自由民主党 池田清志
朝鮮半島に不法監禁されている日本人を早く帰してほしいという気持からいたしまして、この不法監禁されている日本人と日本で合法的に自由を束縛しております朝鮮半島人との取引というような格好において外交交渉が進められておるという趣旨はわかります。その外交交渉のもとを作るために、外務当局・法務当局がいろいろと御苦労願っておることもよくわかります。私どもといたしましても、日本人が早く帰ってくるということを念願しているものであります。しかしながら、私は国内法的立場において物事を考えたいと思うのであります。先ほど来高瀬君も質問しておりましたが、もう少しお伺いしてみたいところがあるわけです。

これはあるいは幼稚なお尋ねであるかもしれませんが、お許しをいただきたいと思います。大村収容所は、監獄と申しますか刑務所と申しますか、その性格は法律上どういうことになるわけでしょうか。

[064]
政府委員(入国管理局長) 内田藤雄
これは監獄でも刑務所でもないものであると存じております。つまり、たとえば密入国で参りました者が、密入国してきても収容施設がないためにどこへでも自由に動けるということでは、これは国際慣行といたしまして旅券ないしは査証を持って入国しなければならないという原則が全然無視されるわけでありますから、そういう者を当然ある一定の場所に収容することができるいうことは、これは国際慣行として十分に認められているところであると考えます。

それから、先ほど来申し上げておりますように、悪質不良の外国人を国外に追放するという権利は、これまた独立国として当然認められているものと考えている次第でございます。国内法、入管令にその基礎があるばかりでなく、国際慣行としても十分認められております。

そういたしますと、そういう退去を強制いたします場合に、やはりこれらをどこかに収容でもできるのでなければ、逃亡の危険もございますし、結局退去の実をあげることができなくなるわけでございますので、そういう意味において、収容いたす権利というものは、国際的な角度からも当然あらゆる独立国に認められておる。

そういう意味において収容をいたしますので、これは刑罪でもなければ矯正のための施設でもない。あくまで退去強制を確保するための、いわば本来ならば船待ち場であるというのが収容所の性格であろうと考えます。