昭和39年08月26日 衆議院 外務委員会

[032]
自由民主党 鯨岡兵輔
さて、李承晩ライン問題ですが、前段が少し時間をとりましたので、はしょってやりたいと思いますけれども、李承晩ライン問題をお聞きする前に、きょうの新聞には載っておりませんが、きのうですか、またあったそうですから、その問題について御報告を願いたいと思います。

[033]
説明員(海上保安庁長官) 今井榮文
私から今暁李ラインで発生しました漁船拿捕の概況を御報告申し上げたいと思います。

拿捕されました船は、まき網漁船の第二十八源福丸、総トン数79.9トンでございます。船主は長崎市の東洋漁業株式会社、乗り組み員は船長以下35名でございます。

事件が発生いたしました場所は、済州島の北東の約16マイル、ちょうど済州島と巨文島の中間の地点でございまして、時間は、26日、本日の午前1時7分ごろでございます。

相手船は韓国警備艇の867号艇でございまして、概況は、当該警備艇が巨文島の基地に入港いたしておりまして、それからもう1隻の警備艇がやはり同じように中に入っておりました関係上、昨日来私どものほうの巡視船「くろかみ」、それから「くずりゅう」の2隻で港外においてその警戒に当たっておったのでありますが、夜間を利して、厳重な通信管制を行ない、しかも灯火管制をして、ひそかに巡視船の目のつかないような形で脱出いたしまして、その漁区に拿捕に向かったものと思われます。僚船の第二十五源福丸からの連絡によりまして、直ちに「くろかみ」が現場に急行いたしまして、3時ごろ到着いたしまして、867号艇に追尾して、これに対して巡視船自体として釈放を強く要求をいたしておる最中でございますが、応答なく、現在釜山に向けて連行中であるというのが状況でございます。

私どもは事件が起こりましてさっそく外務省に御連絡を申し上げまして、外交的に厳重な抗議をしていただいて釈放方を要求しておるというのが現状でございます。



[042]
自由民主党 鯨岡兵輔
先日、私が福岡にまいりましたときに、現地の者が一番憤慨しておりましたことは、拿捕された船の中にあった魚を日本に輸出してよこしたのです。知らぬこととはいいながら、日本ではお金を出してそれを中央市場に並べてしまったのであります。どろぼうをしておいて、そのとった家にその盗んだ品物を売りに行ったのですから、これは驚くよりほかはありません。これはまるで落語のような話ですけれども、笑いごとじゃないのです。日本国の恥であります。これだけばかにされれば言いようがありません。

そこで、政府にお尋ねいたしますが、宝幸丸事件に関して政府のとった処置、外交的にどういう強硬な手段をとったか、これを明らかにしていただきたい。宝幸丸事件というのは、宝幸丸がつかまったときに、その中に入っていた魚を、魚の箱のまま輸出してよこしたから、そこで問題になったと思いますけれども、箱を違えてやれば、魚にしるしがありませんから、わかりません。

そこで、私が政府にお尋ねしたいのは、箱を入れかえて、今日までもこんなことがあったのではないか。いままでは、われわれの同胞が命がけでつかまえた魚が奪い取られて、その漁師は監獄にほうり込まれて、その上その魚が輸出せられて、われわれがお金を出してそれを買ったというようなばかばかしいことはなかったと外務大臣は断言できますか。もし断言できないとするならば、そんなことでいいというふうにお思いになりますか。

経済協力と言いますけれども、私は、独立後日なお浅い韓国のもろもろの事情は理解もしますし、十分同情もいたします。隣国としてそれは当然のことであるとさえ思いますけれども、しかし、だからといって、こんな仕打ちをがまんしなければならない理由は少しも認めません。この海賊行為を韓国が続けるならば、その間韓国からは魚は買わない、経済援助もいいでしょうけれども、少なくとも漁業に関するところの経済援助というものはしない、それだけの強力な態度が日本の外交になかったならば、ますますばかにされると思うのですが、この点に関する政府の御見解を明らかにせられたいと思うのでであります。

[043]
外務大臣 椎名悦三郎
お話までもなく、就任早々の際に韓国の大使が私のところに他の用事で見えたのでありますが、その際にも、この問題を進める上においてもとにかく拿捕した船舶を返してもらわなければ話が進められないということを実は私から強調をいたしたのでございます。それに対して大使いわく、すでにそういう手配はとってあるはずだけれども、まだ解放されませんかという話があったのであります。冗談じゃない、まだ解放されておらぬということを話しましたところが、さっそく手配をいたしますということでございましたので、安心しておりましたが、いまだに解決が得られないという現状でございまして、これは、私も国民の一人といたしまして、そのあまりに不届きなことに対しては、全く平静な気持ちではもちろんおられないわけでございます。

この魚の問題については、農林大臣が事情を調査した結果、確かに拿捕した船の魚を日本に売っておるのだから、こういうようなことは見のがしてはならぬというようなことで、この問題については農林大臣の直接の話も聞いております。お心のうちは私は同感でございまして、そういったような国民の声を背景にして、今後とも強く韓国との折衝を続けたい、かように考えておる次第でございます。

[044]
自由民主党 鯨岡兵輔
国民の声を背景にして強く交渉するというお話でございますので、これは了承いたしまして、第4番目に、私はきわめて重要だと思われる点についてお尋ねをいたしたいと思います。

先ほど国連の問題のときにもお話を申し上げたとおり、わが国の外交方針は何をおいてもまず国連中心主義だとわが国は国民に約束をいたしておるのであります。国際紛争を解決する手段として武力を用いないと憲法で中外に約束をしているわが国としては、国連中心主義は当然というよりも、それ以外に方法がないのです。

去る5月13日、巡視船「ちくご」が韓国警備艇にカービン銃を突きつけられて連行された事件も、船足のおそい漁船への報復をおそれたこともありましょうけれども、武力を用いて紛争を解決しないという憲法の精神にのっとったとも言えると思うのです。

そういうふうにして15年の長い間海賊行為は続き、拿捕された船が318隻です。船を返してくれなければ話はできないよと大臣が就任早々言われたそうですか、318隻もつかまっているのです。帰ってきたのもそのうちぼろ船だけ帰ってきた。いい船はとられちゃったのです。

不当に抑留された漁民は3817名、これが全部監獄に入れられた。そうして、うち8名は向こうで死んでいるのです。

今日もそれが続いて、あしたもあさっても、9月に予定されている農相会談ごろにはますます不法な海賊行為は激しくなると予想されておるのであります。だから政府は日韓会談を急ぐのだと言われるでしょうけれども、私がふしぎでならないのは、なぜこのことを国連中心主義だというわが国が国連に持ち込まないのかということです。

国連憲章第6章「紛争の平和的解決」第33条の1項には、「いかなる紛争でもその継続が国際の平和及び安全の維持を危くする虞のあるものについては、その当事者は、まず第1に、交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決、地域的機関又は地域的取極の利用その他当事者が選ぶ平和的手段による解決を求めなければならない。」と明示されておるのであります。また、37条には、「33条に掲げる性質の紛争の当事者は、同条に示す手段によってこの紛争を解決することができなかったときは、これを安全保障理事会に付託しなければならない。」と書いてある。

33条や37条による手続によって紛争を解決するのが、国連加盟国、国連中心主義の国の義務であるとも言えると思うのであります。当事者の会談によって解決できる見込みがあるならそれでもいいでしょうけれども、過去15年の長い間にわたる不法な海賊行為です。それでも当事者の話し合いにのみこの海賊行為の解決をなぜゆだねるのか。国連中心主義のわが国が、国連加盟国が、その継続が国際の平和及び安全の維持を危うくするおそれあるこの海賊行為に対して、国連がそうしなければいけないと規定してあるそのことをなぜしないのですか。北方領土の問題だってそうだと思いますが、私は、そんなことでは国連中心主義じゃない、こういうふうに思うのです。

国連の庇護のもとにその存立を全うし得たとさえ思われる韓国に対して、適切妥当な勧告を国連にしてもらうよう、なぜわが国は処置しないのか。この点についてお考えをひとつ明らかにしていただきたい。なぜ国連にこのことを持ち込まないのか、これを明らかにしていただきたいと思うのです。

[045]
外務大臣 椎名悦三郎
国連に加盟するからしないからというのではございませんが、韓国は現在国連にまだ加盟しておらない。のみならず、国連による解決よりも韓国との相対の二国間の交渉のほうがより有効である、さように考えてやっておる次第でございますが、なおこまかい点につきましては、事務当局からお答えを申し上げたいと思います。

[046]
説明員(外務事務官(アジア局長)) 後宮虎郎
李ラインの設定当初におきまして、拿捕の状況等を資料として国連のメンバーに配ったりしたことも実はあるのでございます。しかし、いま大臣が申されましたとおり、わがほうの取り分になる漁業問題につきましては、やはり向こうの取り分になるほかの問題と一緒に日韓会談のワク内で相対ずくで話し合いをするほうが有効だ、どうせ持ち出しても向こうは出てこない、そういうような結果になると思いまして、現在までのところ二国間の話し合いでやっているわけでございます。それのほうが効果的だろう、歩どまりを考えまして、そういうふうに考えたわけであります。

[047]
自由民主党 鯨岡兵輔
歩どまりを考えて、そのほうが有効的だろうとおっしゃいますけれども、15年も長い間やって、3800人もつかまっちゃっているのです。船は318隻もとられたんですよ。それでもまだ有効だというふうにお考えになるのは考え違いじゃないか。

アメリカにひとつ中に入ってくれろと言うてもいいでしょうし、国連に頼んでもいいでしょう。私は、そういうことをやらないのは国連中心主義じゃない、日本のやっていることは違う、こういうふうに思うので、そのことを申し上げたのです。