昭和34年12月23日 参議院 本会議

[015]
社会クラブ(会派) 松浦清一
昭和27年1月18日に、韓国政府が海洋主権宣言を行ない、いわゆる李承晩ラインを設定いたしまして以来、その李ライン付近の海上において、日本の漁船が時には銃撃や追走を受けまして韓国艦艇に拿捕されるという、漁船の拿捕事件は、今日に至りまするまでなお続いていることは御承知の通りであります。そうした漁船拿捕があるたびごとに、それら漁船の乗組員は、釜山の収容所に入れられ、長い間、困苦窮乏の抑留生活を強制されていることも、これまた御承知のところであります。こうして今日までの8年間に、すでに拿捕された漁船は157隻に及び、抑留された乗組員の総数は3273名という多数に上っているのであります。

そのためにこうむった業者の損害、また船員の苦痛と、その家族の不安と困窮は、まことに見るに忍びないものがあるのであります。毎年暮迫るころともなりますれば、この年の瀬をどうして乗りこえるか、氷雪寒苦の抑留生活を余儀なくされておりまする夫や父を案じまして、借金をしてまで旅費の工面をして上京して陳情をいたしております。この悲惨な現実を救い得る道がないとすれば、これはわが国政治の貧困と申しましょうか、まことに残念な話であります。

現在、釜山の収容所にはまだ201名の船員が抑留されているのであります。最も長い者は4年2カ月、すでに3年に近い者さえ非常に多数に上っているのであります。その人たちの家族は、ことしもまた昨年と同じように苦しみ、同じ悩みを繰り返しております。まことに同情にたえません。

もとよりこの問題の解決につきましては、政府がいいかげんな折衝をしているなどと決して思ってはおりません。しかし、これまで行なわれた政治折衝を見ておりますと、いつも韓国側にリードされ、ほんろうされているようにさえ見えるのであります。これは抑留船員の早期送還という、こちらには若干の弱みがあり、韓国側はそこにつけ込んで無理難題をふっかけている。いわば韓国が抑留船員を人質にいたしまして交渉を有利に解決しようとする非道な措置とも考えられるのであります。このことの責任が全部政府の負うべきものではないといたしましても、このままでは永久に漁船の拿捕や船員の抑留はなくなることはないのであります。

たとえば、韓国の法律に触れまして漁船が拿捕される。その法によって乗組員が裁判にかけられ、罪を受ける。ここまではあるいは仕方がないと言えるかもしれません。しかしながら、刑に値しなかった者、刑の終わった者は、直ちに送還するというのが国際法上の常識であることは申し上げるまでもないのであります。その常識をわきまえない韓国と交渉するのでありますから、外交当局の苦心も想像にかたくはありません。これまでの経過を振り返って見ますと、これは尋常一様の手段では根本的な解決は得られないと思うのであります。

最近の交渉経過を見ましても、日韓会談の無条件再開、釜山に抑留中の日本人漁船員と大村収容所の不法入国韓国人の相互の送還、これを韓国側から申し入れて参ったのは7月の末ごろであったのであります。そのころ問題になっていたことは、北鮮送還には関係なしとの了解であり、相互送還は人道問題であるから、他の問題と切り離して早急に実現したいという話し合いが行なわれた由であります。しかし、送還はいまだに実現されていない。その後、正式な会談も行なわれてはおりません。韓国のこの申し入れば、実は北鮮送還を阻止するための策謀であったとしか思われないのであります。12月14日には日韓共同声明を出すとか、12月24日には相互釈放をするとか、主として韓国側のアドバルーンによって希望を持たせられてきたにすぎないのであります。今にして考えてみますれば、韓国のいう相互釈放とは、実はまっかなうそで、その真のねらいは単に北鮮の送還を食いとめようとする一種の策謀であり、国際信義を無視し、人道を無視したインチキ外交といわなければなりません。

その証拠には、いよいよ北鮮送還が具体化すると、その態度は次第に強硬になり、会談の無条件再開を申し入れた柳泰夏大使の同じその口から、「韓国駐日代表部は、一方的に在日朝鮮人を追放しようとする日本政府の行動に対し、最も強硬な抗議をする」と申し、また李承晩大統領も、「日本は韓国民の一致した怒りと抵抗に直面するであろう」と語っているのであります。

私の貧弱な調査の中では、日本はいまだかつて外国からかくのごとき激烈な言葉を聞いたことはありません。岸総理や藤山外相は、中ソがきらいでアメリカがお好きということで頭が一ぱいになって、その他のことは無感覚になっているのではないかとさえ思われるのであります。(拍手)私は、このような李承晩大統領や柳大使の言動に対する怒りの言葉を、総理及び外相の口から聞きたいのであります。そうして、それを抑留漁船員の留守家族に聞かせてやりたいのであります。これが質問の第1であります。

第2にお伺いいたしたいことは、今日までの韓国の態度を集約して考えてみますると、抑留漁船員を帰さないということは、第1に懸案の日韓交渉を有利にするため、第2には北鮮送還を妨害すること、そのことのために抑留漁船員を人質として帰さないのではないかと思うのであります。今やそう断定する時期に達しているのではないかと思うのであります。岸総理や藤山外相はいかにこの事態を判断しておられますか、率直にそのお考えをお答え願いたいと思います。