昭和38年06月14日 衆議院 外務委員会

[094]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
外務大臣がおいでになりますので、ごく簡単に1、2点お伺いをしたいと思います。

最近韓国が日本の漁船を盛んに拿捕しているわけでございます。そしてまた、それだけでなしに、聞くところによりますと、巡視船がつい最近韓国の警備艇によって威嚇されたということも聞いているわけでございます。

そこでまず第1にお伺いしたいのは、日韓会談が始まってから一体どの程度の日本漁船が拿捕されたか、そして、つかまった人員がどのぐらいいて、そういう方々が一体どういう状態になっているのかということをこの際明らかにしていただきたいと思います。

[095]
説明員(外務事務官(アジア局北東アジア課長)) 前田利一
北東アジア課長の前田でございます。かわって御説明申し上げます。

現在まで韓国に拿捕されました漁船の総数は305隻、うち折衝の結果帰還してまいった船を除きまして、いまだ拿捕されたままの船が183隻、その間抑留されました船員の総数は3697名にのぼっております。

これは実は4月末の現状でございまして、最後に抑留されておりました抑留船員も5月16日の記念日に全員釈放になりまして、先月末帰ってまいったわけで、韓国には抑留漁夫は1名もいない、こういう事態になったわけでございます。

ところが、遺憾ながら、この6月に入りまして、御承知のとおり、6月の1日に1隻、それから10日に2隻、さらに11日に1隻と、続けて4隻の船が拿捕されておりまして、その乗組員は全員で31名にのぼっておる、このように考えております。

[096]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
そうしますと、その31名の拿捕された人はまだ抑留中なのですか。

[097]
説明員(外務事務官(アジア局北東アジア課長)) 前田利一
ただいまのお尋ねのとおり、抑留中でございます。

[098]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
外務大臣、いま北東アジア課長が御説明になりましたように、一応5月の16日で、拿捕された船それから抑留中の人が帰されたにもかかわらず、6月になってから、きょうまだ6月14日ですから、2週間の間に4隻も捕えられて、31人も向こうに抑留されているという状態です。これで日韓会談の折衝はお続けになっていらっしゃるのですか。

[099]
外務大臣 大平正芳
私の考えは、日韓折衝はずっと続けておりまするし、日韓の間の長い間に積もり積もった誤解と申しますか、理解の足らない点、そういう点が解きほぐされてまいりまして、いま御指摘のようなトラブルが起こり得ないような環境、そういうものは、国交があるないにかかわりませず、そういう状態を醸成してまいらねばいかぬということで、鋭意その方向に努力を重ねてまいったのでございまして、ようやく先月に至りまして抑留された漁業者が1人もないということになって、ほっと愁眉を開いておったやさきに、今月に入りましてそのような事態が起こりましたことをたいへん残念に思っておりますが、こういうことで本来の日韓の間の関係を改善していこうという努力においてひるむところがあってはいかぬと思うのでございまして、このこと自体につきましては厳重な抗議を通じまして先方の善処を求めなければなりませんが、それと並行いたしまして、従前どおり日韓間の関係の改善に努力をしてまいるつもりでございます。

[100]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
日本と韓国との間でお互いに交渉しているその最中に、しかも半月の間に4隻も船を捕まえていくというような国を相手に一体日韓間の関係を改善していくというようなことはあり得るでしょうか。国民としてはそういうことは考えられないと思うのです。

話し合いをしている最中にどんどん漁船を拿捕して、そうして抑留者をつくっていく。そういうふうなことをしているのに、日本の外務大臣が、日本と韓国との間を何とかよくしたいと言ったって、国民はとてもそんなことには賛成できないと思うのです。

一体韓国は何のつもりでこういうことをされているのでしょうか。外務大臣、正式に抗議を申し入れなさったのでしょうか。もし申し込まれたならば、どういう形でいつ申し込まれて、そしてその返答は何であったか、向こうの意図するととろはどういうところにあったかということをお示し願いたいと思います。

[101]
外務大臣 大平正芳
日韓の間の問題というのは、戸叶さんも御案内のように、なかなか積年の関係でございまして、いろんなトラブルが過去において起こったということ、この当否は別といたしまして、事実であったわけでございます。それほど日韓の間というのはむずかしい関係にあると思うのでございまして、したがいまして、言うところの日韓交渉も10年以上の歳月をけみしていまなお解決に至らぬということ、それほどむずかしい問題であるということは、あなたも御指摘のとおり、私もよく承知いたしているわけでございます。さればこそ私どもは忍耐強くこの改善に努力していかなければならぬのでございまして、こういう事件が起こったからそういう交渉をやるべきじゃないとか、あるいはそういう事件を起こすような相手であるから相手にすべきじゃないじゃないかという御議論には私は賛成しないのです。私は、そういうトラブルがあればあるほど、勇気を鼓して、関係改善に、きわめて困難でございますけれども、鋭意努力していくのが私の任務であると思っております。

それから、御指摘の、6月に入りましての拿捕事件につきましては、そのつど、先方の代表部を招致いたしまして抗議し、先方の政府に善処方を求めておるわけでございます。最近では、きのうの午後、代表部の責任者においでいただきまして、厳重に善処方を求めておる次第でございます。したがいまして、この事件の全貌、原因、その他一体どうしてこういうことが起こったか、起こったときの状況、天候その他の詳報を受けまして、なお先方に善処を求め続けてまいらなければならぬと思っております。

[102]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
外務大臣のお考えは、こういうふうな拿捕なり抑留なりすればするほど、こっちのほうから誠意を尽くして改善をするということでございますけれども、そういうふうなことをされてもなおかつ交渉の相手としてやろうというような意図が私どもにはとうてい理解できないわけです。国民としても、何も話し合いをしている間にやたらに船をつかまえたり人を連れていったりしないでもいいじゃないか、こういう感情が非常に強くなっております。そういうことを考えまして、いま向こうの意図するところぐらい何かお考えになったりお話し合いになったのかと思ってお聞きしましたら、それはまだわからないし、天候の問題、いろいろあるということでございました。

このような問題が起きたときには、私は、日本の外務大臣として、こういうことをするのだったらもう交渉はやめるぞというくらいの強い態度をぜひ見せていただきたい。そうでなければ、一体どういうことをやってくるかわからないと思うのです。やはり相手を見て外交交渉というものはやっていただきたい、こういうふうに考えるわけです。

そこで、第2の問題としてお伺いしたいのですが、12日に何か巡視船が威嚇されたとかいうことを漏れ聞いているだけで、私どもははっきりした情報がわかりませんので、この辺のことを詳しく説明していただきたいと思うのです。

何か、巡視船「のしろ」が、領海外、李承晩ラインの外にあったにもかかわらず、船長が連れていかれたとかということを聞いたのですが、この間の情勢について詳しく御報告を願いたいと思います。

[103]
説明員(外務事務官(アジア局北東アジア課長)) 前田利一
御説明申し上げます。

私ども12日の夕刻になりまして海上保安庁を通じまして聞くに至りました状況を、要点について御説明申し上げます。

御承知のとおり、拿捕を防止し安全操業を確保するという趣旨から、海上保安庁の巡視船の「のしろ」が、12日の15時、午後3時に、韓国の釜山の沖合いにございます牧之島の灯台から5.3マイルの地点、これは緯度・経度について申し上げますとこまかくなりますが、北緯35度02.9分、東経129度1.2分、――先ほど先生の御質問の中に領海外であるとかあるいは李承晩ラインの外であるというお話がございましたですが、そういうことはいずれにいたしましても、5.3マイル、明らかに公海上の問題でございます。この5.3マイルの地点において業務を遂行中、急に釜山の港のほうから高速度の水上警察艇が接近してまいりました。先方が急速度に「のしろ」に向かってまいりましたので「のしろ」のほうでは、一応その業務遂行中の地点からさらに東のほうに移動しました。

15時25分に至りまして、先ほども申しました牧之島灯台から8.4マイルの地点においてわがほうの巡視船「のしろ」に先方の船が接舷してまいって、「のしろ」の船長に対して、いろいろ話し合うことがあるので韓国側の船に乗り移るように、こういうお話でございました。そこで、船長と先方の水上警察艇との間に、最初日本側の巡視船が業務遂行をしておった地点が領海の中でであるかどうか、こういうようなことについて話し合いが行なわれましたが、結局、先方は、言うなれば、領海侵犯ではないか、こういう考え方からこちらの行動を見ておったわけでございます。これに対しまして、「のしろ」の船長のほうでは、種々の計器を使って測定いたしました地点、先ほどの業務遂行中の地点が明らかに公海上である、こういうことで反駁いたしまして、その話し合いがつかない。そこで、結局もの別れということで、話し合いの続いている間に船も動いたわけでございますが、16時30分現在の位置をはかった結果、やはり韓国の海雲台というところから約5.5マイル、これも公海上にある、こういうことを双方確認いたしまして、署名して、17時5分に至りまして先方の警察艇が巡視船から離れて行った。こういうのが先生お尋ねの12日の事件の概略でございます。

[104]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
外務大臣、いまお聞きになったようなことなんですけれども、この巡視船が領海外にあって、そしてそれははかってみなくてもそのくらいのことはわかるはずですね。ところが、それにもかかわらず、韓国警察艇が船長に対していろいろな尋問をして、そして話し合いをしてごたごたしたあげく帰したわけでございますけれども、巡視船といえば日本の国の公船ですね。この間も議論になりました国の公船ですね。この公船に対して、言わば、あなたは領海内にあるというような、いやがらせといいますか、何かそういった言いがかりをつけてきた、こういう形になったわけでございます。

一体こういうことが日本の国として許しておいてもいいものでしょうか。このことに対して、外務大臣として外交上どういうふうにお考えになりますか。

これがもし日本でなくてほかの国の場合でこういうふうな立場に公船が置かれていた場合には、やはりそこで、宣戦布告とまでいかなくても、そういうふうな形になったり、あるいはまた自衛権の行使というようなことになったり、法律的に言えばとんでもないことになるのじゃないかと思うのです。こういうふうなことを黙っていていいのですか。

日本の公船がそういうふうに連れていかれて話をされて、そして帰されたというような侮辱を受けてもなお黙っていてもいいものかどうか、外務大臣にお伺いをしたいと思います。

[105]
外務大臣 大平正芳
御指摘のように、事公船でもございますし、私どもといたしましては、事態を詳細に究明してまいりまして、その事件の全貌をはっきりつかまえた上で、日本政府として処置すべきことを処置いたしたいと考えております。

[106]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
事件が起きたのは、いま御説明のありました12日ですね。そして13日が過ぎてきょうは14日ですね。それまでまだ何にも外務省として全貌はつかめないのですか。きょうまでつかめないというのは少しおかしいじゃないでしょうか。12日にそういう事件が起きて、13日1日あって、きょうもまた半日たっているのですけれども、全然全貌がつかめていないのですか。どういう形でいま事件の調査を進めておられるのですか。

[107]
外務大臣 大平正芳
事実の究明は日本側でやることでございます。きのうの午後韓国のほうに事態の究明方を依頼してありますので、先方からも、いろいろ、その当時どういう事情で、どういう状況で、どういう意図でこういうことが行なわれたかという返答があると思うのでございまして、私ども、そういった事実を十分究明した上で処置いたしたいと考えております。

[108]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
いま北東アジア課長が説明されたことが事実であるとすれば、それ自体で私は大きな問題になると思うのですけれども、それ以外にまだ調査すべきことがあるのですか。どういうふうなことについて調査をされているわけですか。領海外において向こうの船がやってきて、そして船長をおろしていろいろと領海外であるかどうかを確かめる、領海外にあったにもかかわらず、領海外であるかどうかを確かめるというようなことをして、1時間近くも尋問をされて日本の船が帰された。こういうこと自体でも、先ほど外務大臣が日本の公船であるから重大であるとおっしゃったとおり、重大な問題だと思うのです。にもかかわらず、なおさらにどうなっているかを調査するというのは、どういうことを調査しようとされておるのですか。

[109]
外務大臣 大平正芳
韓国の警備艇が接舷してきた、それがどういう天候のもとでどういう視界のもとで公海内であるのか公海外であるのか判明しなかったのか、そのあたりの事情をよく究明していただいておるわけでございまして、そういった関係を正確に周到に踏まえた上で適切な処置をとりたいと、思っておるわけです。



[116]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
私はもうこれ以上言いませんけれども、問題は、先ほども説明がありましたように、6月になってから4隻も拿捕されて、31名の人がまだ抑留されている。そのときにまた今度は日本の巡視船という公船がこういうふうな目にあって、なおかつ一方においては予備交渉か何かを続けているということは、どう考えても国民が納得できないと私は思います。こういうことをするから韓国が結局ますます強気になって、漁船を拿捕すれば巡視船もかまわない、公船もどうだというような強気になって出てくると思う。

したがって、私は、この際この問題をはっきりさせ、厳重に抗議を申し入れ、拿捕された船を返してもらうようにし、抑留された人を一日も早く帰してもらう、そうして、この巡視船の問題については何らかの措置をとる、こういうことが行なわれるまでは絶対に交渉を進めるべきではない、こういうふうに考えますので、この点についてよろしく御考慮を願いたい。私は国民の一人としてこのことを強く要望をしておきたいと思います。



[148]
日本社会党(社会民主党) 楢崎弥之助
さらに、先ほど森島委員から御質問がありましたが、李ライン宣言は52年で、それ以前に終戦後47年に7隻拿捕されておる。それ以来ずっと51年まで、たしか私の記憶によりますと92隻拿捕されておる。抑留船員は1099名、うち3名死亡しております。これは李ライン宣言の以前です。これについては、簡単でよろしゅうございますから、李ライン宣言以前だからいろいろの場合がありましょうが、大体どういう理由で向こうが拿捕したか、御説明をいただきたい。

[149]
説明員(外務事務官(アジア局北東アジア課長)) 前田利一
私どもが承知しておりますところでは、1952年1月18日の李承晩ライン宣言以前に、韓国側によって拿捕されましたのは、主としてマッカーサー・ラインを越えて韓国側に入ってきたというような理由が多かったのではないかと記憶しております。そのほか領海侵犯などの理由をあげられたこともあったかと、そんなふうに考えております。

[150]
日本社会党(社会民主党) 楢崎弥之助
最後に、外務大臣は聞き及びかどうか知りませんが、この日韓請求権の問題の会談が続けられておるときですら拿捕問題が起こっておる、そこで、福岡の底びきの漁船船員組合は、もう政府をたよっておれぬ、したがって、自分たちの乗っておる船で、もし韓国のそういう水上警察船が来るならば、それにぶつかって、突入をして、そして、向こうがやられるかこっちがやられるか、自分たちは向こうの船に乗り移ってでもあとに引かないという決議を実際に組合でしたのです。それほど拿捕の問題は深刻なんです。

まず私がお聞きしたいのは、そういう事実、船員たちがそれほどの強い決意を持っておるということを御存じかどうか。これは、やはりその後の経過でもう少し政府の出方を見てみようということで、その実際の動きはいま停止しておりますが、その決議は生きておる。こういう事実をまず御存じかどうか。

それと、いまわが党の3委員から言われましたように、これはとんでもない話です。私は、海上保安庁からの説明がさらに詳しく来れば、また伺いますが、こんなばかな話はないと思う。機銃や小銃を持ってきて、そういう脅威のもとに船長を1時間も自分の船のところに呼んでやるなんて、そういう事実を許しておいて、日韓会談も何もないです。国民感情から言ったら言語道断な話です。私は、この問題は、過去の例があるけれども、この際、断固たる態度で処置すべきだと思うのです。日韓会談を急ぐ政府の側から言えば、進んでおる最中だからというようなことかもしれませんが、この問題についてそんななまやさしい態度では国民は納得しないと思う。それは、先ほど3委員から言われましたように、この問題についての納得のいく処置がなければ、あるいは今後そういう拿捕なんという問題を絶対に起こさないという保証がなければ、会談は中止すべきです。何のために会談しますか。一方においてそういう事件が起こりながら、何で協力を結べるのですか。

私はこの2点について最後にお尋ねしておきたいと思います。

[151]
外務大臣 大平正芳
先ほどの第1点の決議は、私もよく承知いたしております。また、当時新聞紙上でも報道されたことでございます。そのときに、私どもは、お気持ちはわかりますけれども、こういう事態を早く解決すべく努力いたしておるのでございまして、くれぐれも御自重をお願いいたしたわけでございます。

第2点の中止問題につきましては、先ほど私お答えしたとおりでございまして、楢崎委員の主張されるお気持ち、正義感、そういうものは私は十分わかります。しかし、前段であなたが御主張されたように、組合がそういう決議をしなければならぬというような事態、そういう事態をしょっちゅう繰り返しているわけなのでございます。そういう関係はいつまでも続けちゃならぬ、朝鮮海峡は静かな海にしなければならぬ、生産性の豊かな海にしなければならぬために、忍耐をもって私どもやっておるわけなんでございまして、これは、中止することによってそういう問題が片づくのでございますならば、これはどんなばかが考えても中止いたしますよ。しかし、私は、そういうことは、日本の大局の上から見まして、こういう問題を永久に解決しなければならぬ日本といたしましては、そういうことをいたすべきでないという確信の上に立ってやっているわけであります。