昭和28年09月10日 参議院 水産委員会

[003]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
只今議題となりました朝鮮海域の拿捕問題につきまして、これまでの経過を概略御説明申上げたいと思います。

朝鮮海域におきまして、本年に入りましてから去る8月までに拿捕事件として起りましたのは4件であります。ほかに臨検、追跡等に類する事件は33件発生しております。拿捕の4件のうち、未帰還のものは2隻という状態であったのであります。なおこれらの事件が8月までに起っておりまするが、4月から8月までの5ヵ月の間は拿捕事件は幸いにして発生しなかったのであります。僅かに臨検等の事件が4つあったのみであります。

かような状態であったのでありまするが、去る8月27日の国連軍によって設定されました防衛海域の実施が停止されますと共に情勢が変って参りまして、韓国政府においては、この措置に対して国連軍に抗議すると共に、いわゆる李承晩ライン水域の保護のため実力を以て警備する等の声明をしばしば行なっていたので、同方面行動中の海上保安庁の巡視船に対しましては厳重に警戒を指示し、併せて操業中の日本漁船に対しましても注意を喚起しておりましたところが、9月に入りまして韓国側は艦艇10余隻によりまして済州島周辺海域の警備を強化し、日本漁船の李承晩ライン外退去措置を講じて参りました。現在、即ち本日の10日午前8時までに判明しました分で拿捕3隻、臨検、立退警告等を受けたものが35隻に達しておるのであります。

海上保安庁といたしましては、従来から同方面海域に巡視船1隻又は2隻を常時行動せしむると共に、これは昨年の閣議決定に基いて特別哨戒として行なっておったのでございますが、このような状態になりましたので、更に東支那海方面の哨戒の巡視船の復航の途次、即ち朝鮮海域の方面の警戒に当らしめる水産庁の漁業監視船と協力して拿捕その他の事件の発生未然防止ということに努めて参ったのでありますが、今回韓国側の艦艇による一斉取締に対しましては、直ちにこれらの従来からやっておりました警備力のほかに巡視船を同方面に増派しまして、只今のところ現地に5隻哨戒に当っております。これが水産庁の監視船の3隻と相共に拿捕及び紛争防止等に努めているのが目下の状況であります。

巡視船は現場において操業中の日本漁船に対しては韓国艦艇の動向等を周知し、拿捕等の危険防止等を注意するほか、これらの巡視船のうちすでに新聞紙上で御承知だと思いますが、「ながら」、「くさがき」等の巡視船は韓国側の取締艦艇とも再三接触いたしまして、その都度相手の艦長に対し、いわゆる李承晩ラインは不法なものである、従って日本漁船に対する退去措置は不当な措置であること及び正当に操業する日本漁船に対する生命、財産等の尊重につき注意を喚起するなど、でき得る限りの直接交渉を行うなど、操業のやすきに努めているのでありますが、韓国側は本日の24時以後は李承晩ライン内に操業する日本漁船は逮捕するとの強硬な方針を依然として改めず、同海域を遊弋(ゆうよく)しておりますので、今後操業中の日本漁船は、目下李承晩ライン外に退避中であり、同海域におきまする日本漁船による操業は事実上不可能のような状態になりつつあるのであります。海上保安庁としては関係機関とも協議の結果、目下のところ状況の許す限り引続き巡視船を現場に派遣し、でき得る限り拿捕及び紛争防止等に努力する所存であります。

なお巡視船は、先ほど申上げました通り、現在現場に5隻配備いたしておりますが、更に3隻を最寄りの基地、即ち厳原、福岡、浜田のこの3基地に即時待機せしめております。これらが今後水産庁と十分連絡いたしまして、現場における監視船と共に事態の推移に備えているのが現在の状況でございます。



[019]
自由党(自由民主党) 秋山俊一郎
只今議題となっておりますところの李承晩ラインの問題、これは昨年の1月18日に李承晩大統領がこのいわゆる李承晩ラインなるものの設定を声明いたしまして、我々日本の国民並びに漁業者にとりましては一大衝撃を与えたのでございまするが、この問題は元来国際法を無視したところの暴挙でありまして、勿論我が国といたしましても絶対に承服することのできない問題でございまするので、当時の政府といたしましては、直ちにこれに対する反対の抗議を提出いたして今日に及んでおります。

然るにかかわらず韓国政府はこのラインを厳守するという建前から、爾来日本の正しい行動をいたしております漁船に対しまして拿捕、抑留或いは銃撃等の暴挙を加えて参ったのであります。

その数等につきましては、只今それぞれの関係当局より御報告のあった通りでありまするが、越えて同年9月韓国における国連軍の司令官より朝鮮の作戦上の理由からいたしまして防衛水域というものを制定されまして、俗にいわゆるクラーク・ラインと唱えておる線であります。この2つの線ができまして、そうしてわが日本の漁業は大きな制約を受けて参ったのでありまするが、このクラーク・ラインなるものは必ずしも絶対に漁業を禁止するのではなくして、防衛上有害でない方法に対しましてはなお漁業をすることも認められて参ったのであります。

ところが最近8月27日に相成りまして朝鮮の休戦に伴いまして、この防衛水域の機能は今日なお継続する必要なしという理由の下に、この機能停止を国連軍によって発表されたのであります。この発表に対しまして、日本の漁業者は非常な喜びを以て迎えまして丁度只今は先ほども水産庁長官より御報告のありました通り、日本と朝鮮の間における水域におきましては、あじ、さば、この最も大事な盛漁期に当っておりまして、千葉県以西の各県の漁業者、九州は勿論のこと、約700隻に近い漁船がこの水域において日夜操業を継続し、いずれも大きな漁獲を上げて参っておるのであります。

然るにこの防衛水域の機能停止を声明せられた直後において、韓国政府はこの李承晩ラインを更に新らしく声明いたしまして、この水域内において日本の漁船が操業するにおいては厳重なる処置をする。実力に訴えてもこれの取締をやるということをしばしば声明されて来たのであります。勿論我が国といたしましては、この線は問題にしておらん、不法なる線であるということにおいて我々はこれを無視しておるのでありますけれども、韓国政府は本日の24時を期しまして、それまでに撤退せざる漁船は砲撃もあえて辞さない、砲撃、拿捕いわゆる実力行使をするという声明を発しておるのであります。