昭和30年12月08日 衆議院 法務委員会

[003]
自由民主党 三田村武夫
興安丸問題に関連したお尋ねは、古屋委員の御質疑の進行と見合せてさらにいたしたいと思いますが、まず、この大村収容所に収容されております韓国人、これは韓国人という言葉が法的に適切であるか、どうかは別にいたしまして、俗に言う朝鮮の人です。これと韓国に拿捕抑留されております日本漁船の乗組員の人々の釈放とを、交換といいますか、そういう一つの政治的含みのもとに釈放したらどうかというような御議論があるようでありますが、入国管理局長官として、この問題を現在どのようにお考えになっておりますか、まずその点からお尋ねいたしたいと思います。

[004]
政府委員(法務事務官(入国管理局長)) 内田藤雄
われわれ事務当局が現在考えております考え方を率直にお答え申し上げます。

三田村委員もとくに御承知のことと存じますが、遺憾ながら日本におります朝鮮人、先ほど委員もおっしゃいました意味で申し上げます朝鮮人でございますが、非常に犯罪者が多いのでございます。現在刑務所におります人員総数約6万のうち、ほぼその1割が朝鮮人によって占められておるという現状でございます。これを全人口の比率から考えますと、日本人の犯罪率に比べまして10数倍という実情でございます。

その結果、出入国管理令によりますと、御承知の通り、その24条に退去強制に付してよい場合のことが列挙してございますが、その中の第4項、本邦に在留する外国人で左に掲げる者の1に該当するものという中の、今問題になっておりますのは主としてこれでございますが、そのリ号に、「無期又は1年をこえる懲役若しくは禁こに処せられた者。但し、執行猶予の言渡を受けた者を除く。」、こういう条文がございまして、この条項に該当いたします朝鮮人の数は非常に多いのでございます。

しかしながら、他面、日韓の間にかねて外交上の問題になりながらいまだ解決していない彼らの処遇の問題というものがございまして、韓国側のいろいろ主張しております言い分にもわれわれとして相当耳を傾けてやらねばならない主張もございますので、この条項をそのままに適用いたしまして退去に付するということが妥当とはわれわれ自身考えておりません。

その結果、実際刑務所で刑期を終りまして出て参りました者の中から、大体、われわれの基準で申しますと、非常に凶悪な悪質な犯罪者、たとえて申しますならば殺人とか強盗とかいう種類の犯罪者、あるいはたとえば麻薬関係、それからヒロポンの、これも単に媒介とか使用したというのでなくして、製造をやっておるというような非常に悪質な者、あるいは普通の犯罪者でございますと大体3犯以上くらいの者で、われわれの観念からいたしまして犯罪の上に生活が成り立っておるのではないかというふうに認めざるを得ないような悪質者を退去強制処分に付しております。そうしてそれを大村に送っておるのでございますが、これは大村に収容すること自体が目的というわけでは毛頭ないのでございまして、通常の場合退去強制処分に付しました者はその退去の確保をいたしますために収容しておるのでございます。従って、通常の国家の場合ですと、ほとんど1月以内に相手の国がそれを引き取りますので、収容生活というものはきわめて短期で済むのでございますが、韓国の場合、これをなかなか引き取りませんために、遺憾ながら収容が相当長期にわたってはおりますが、しかし、それは収容そのものがあくまで目的ではないのでございまして、従いまして、向うが引き取ると申しますならば、きょうにでもみんな渡してやりたいと意味の収容でございます。現在そうした種頭の人が約370名ほどになっております。韓国側は、これに対しまして、戦前からおる朝鮮人については、日本にいわば永住権があると申しますか、これらの者について日本政府が一方的に退去処分に付するのは妥当ではないという主張のもとに、今日までその引き取りを延ばして参っております。

ところが、先般来日本人の漁民で向うに抑留されておる者につきましては、これは、われわれの方から申せば、李ラインを越えたということ自体が何も違法ではないと信じておるわけでございますが、それを向うの法律によりまして刑罰に処しましたあと、向うの刑務所を出てきまして収容施設におる者、刑期を終った者までも引き渡さない。俗な言葉で申しますならば人質に取っておるという格好で、これの釈放と交換のような形で大村収容所の今申し上げましたような人間を国内において釈放しろという要求を出してきております。

これは、われわれの観念からいたしますならば、本来の話の筋として全く間違っておるのみならず、われわれの角度から申しますならば、もちろん刑期が済んだ者なんだから日本人でも同じではないかというような議論もございますが、実際問題として、今の日本の状況におきましては、日本人でもなかなか就職などはむずかしいのでございますから、いわんや、こうした刑務所生活ばかりをやってきたような朝鮮人が就職いたすということはなかなか困難であります関係もございまして、こうした人々を無条件で釈放するというようなことは、ここに刑事局長もいらっしゃいますが、あるいは国警の方も治安関係の面で非常に強い反対意見を持っておられますし、またわれわれ入管の方の立場から申しましても、従来の韓国政府のやり方にかんがみまして、こういうことで一歩退いて一つの既成事実を作られますと、それを種にして将来非常に悪い朝鮮人でも退去させることができない、実際上これらの者に対する管理行政上非常な支障を来たすおそれがあるというようなことで、われわれ事務当局といたしましてはこれに相当な反対意見を持っておるというのが現在の状況でございます。



[018]
自由民主党 三田村武夫
今大村収容所に収容されておる韓国人の中で、今内田局長のおっしゃったように、在来日本の国内に居住しておって、犯罪を犯した者、刑余者、そういう立場からどうしても送還したい、こういう立場の人と、それから戦後法を犯して密航してきた者、これは密入国者だから、つかまった以上送り返さなければならぬ、こういう立場の者と、2つあると思います。それはどんな分量になっておりますか。

[019]
政府委員(法務事務官(入国管理局長)) 内田藤雄
ただいまの大村の現状で申し上げますと、12月5日現在の数字で、大村におります全員は1685でございます。そのうち密入国が1263でございます。それで、これを引きました数が422となりますが、この中には、いわゆる犯罪以外のもの、と申しますのは、いわゆる不法残留、正規に入りまして、その在留資格がなくなったにもかかわらずとどまっておるというような者、そのほかの理由で逮捕になった者も含んでおりまして、先ほど申しましたような、いわゆる凶悪犯罪あるいは累犯というような理由で逮捕した者は、このうち370という数字でございます。

[020]
自由民主党 三田村武夫
これは刑事局長でもどちらでもけっこうなんですが、この1685という数字の中に、単なる密入国、すなわち出入国管理令違反としての処理だけのものと、それから、先ほど来問題になっておる、この人々の国内居住を認める場合に治安上の問題が起ってくる悪質なもの、こういうものの色分けがわからぬのです。

つまり、密入国というだけのケースで送還の処置をとられておるものと、それから、何べんも何べんも入ってきて、密貿の商売であるとか、あるいは麻薬を持ってくる、そういった最も悪質な者で、こんな者を国内に置いたら大へんなことになるというような、そういった種類のものとの量的な色分けというものはできないものですか。

[021]
政府委員(法務事務官(入国管理局長)) 内田藤雄
密入国者の中にも、確かに、私の記憶しております限り、密入国をして来た上に犯罪をやったというのも数件でございます。しかし、ただいま三田村委員のおっしゃいますように、密貿が目的だというように認められます者には、むしろ逆に、日本に在留しながら密貿が目的で行って帰ってきた、あるいは密入国者を日本に連れてくるというようなブローカーのような立場で行って帰ってきた者などをこの密入国というカテゴリーに入れておるものもございます。

向うから来た者でそういう者もあるかもしれないと思いますが、現在まで私どもが扱いました数回密入国をしておるという例を見ますと、これはむしろ、家族の大部分ではないにいたしましても、家族のある部分がこちらにおりまして、本人は一度帰っていったのだけれども、向うの生活があまりおもしろくないので、こちらの家族を頼ってやってくることが、われわれの方に密入国の現行犯ということでつかまってしまったために帰された、やはりどうしても日本に来たいというのでまた来る、こういうようなことで二度三度になっておる実例がございますが、特にそれがゆえに悪質である、あるいは特に麻薬などの密輸入を目的にやっておるというような事例はまだ見つかっておりません。

[022]
自由民主党 三田村武夫
私がこれをお尋ねするのは、さっき法務大臣の発言に非常に重要な意味を含んでいるからお尋ねするのです。結局、韓国側の押えておる日本の漁民は人質のような格好で押えられておる。日本の国内で大村収容所に押えておる者を全部釈放しろ、そうしたらおれの方も釈放してやろう、こういうような政治的な口実に使われておるようでありますから、あるいは政治的処置としてある程度大村収容所に収容されておるような者を出さなければならぬような時期が来るのではないかというような気がするのであります。

その場合に、私も多少実例について承知しておるのですが、日本に長く居住しておった者、そうして家族のある部分は現に日本に居住して正業を営んでおる者、これは密入国のケースでとらえられ犯罪者としての決定を受けて大村収容所に送られておるのでありますが、そういう者は治安上も生活環境の上においてもそう大して心配は要らぬ。生活の根拠もあるのだし、従来平和な生活を営んできた実績を持っているのでありますから、そう大した心配も要らない。

ところが、非常に凶悪な者で、出したらそのとたんからまた密出入国、密貿易をやる、あるいは非常に好ましくない犯罪行為の懸念もあるような人々については、これは非常に問題で、どうにも困るのです。

でありますから、そういう点はどの程度の分量になるか。今の1685人の中で1263人ということだと、今朝鮮側に拿捕抑留されているのは650人ですから、同数とんとんで、お前の方で650何名出すならおれの方も650何名出す、こういう話し合いができるなら、今のような、ただ密入国というケースだけで押えられて、引取手もあるのだ、家族の一部分も日本の国内におるのだ、こういうめどがつく者は、そう心配は要らぬ、こういう気も私はするのであります。その点はどうですか。大体のその数字の面からにらみ合せた当局の御見解を伺いたい。

[023]
政府委員(法務事務官(入国管理局長)) 内田藤雄
その点、私の言葉が足りなかったかと存じますが、今、日韓間におきまして問題になっておりますのは、この密入国者は除かれておるのであります。向うは、終戦後に日本に入った者は当然受け取る義務があるということを彼ら自身認めております。ただ、韓国の場合には一般的に義務を認めてもなかなかそれを履行しないという問題がございます。しかし、いまだかって、戦後の密入国者を自分たちは引き取らないということは一ぺんも申しておりません。

問題は、戦前からおります朝鮮人につきましての、いわゆるこれが犯罪等の理由によってどうしても日本に置くのは困る、この人間について問題を生じておるわけでございます。従いまして、ただいま向うが国内において釈放せよと要求しておりますのは、まさにこの370名の犯罪者だけでございます。従いまして、今の話がかりにでき上ると仮定いたしますならば、密入国者の送還というものはすぐにできるし、向うが引き取ると思います。そういう状況でございます。

[024]
自由民主党 三田村武夫
刑事局長にお尋ねいたします。今の内田入管局長の御説明でだんだんわかってきたのでありますが、犯罪者の釈放ですね。これは日本の国内における日本人の場合も同じようなケースがあるのです。再犯のおそれある者は保護観察所というようなところで観護収容する義務があるようでありますが、もし韓国人が釈放される場合、そういう施設とかあるいは手当の考慮はあるのでしょうかということが一つ。

それから、さっき法務大臣に私が念を押した、治安上の観点から法務当局として責任が貰えるかということが一点。

もう一つ、法の権威とか法の秩序という上から言って、政治的なあるいは外交上の要望、希望、要求という面から法的根拠を欠いた処置をした場合、法務当局としての立場はどうなるかということです。ときには出入国管理令というものが有名無実になるということも考えられますし、ときにはまた受刑者に対する法的処置についてすべての受刑者に対する法的処置の根拠が薄弱になるという問題もあるでしょう。そういう立場から、法務当局として、ことに刑事当局として、どういうふうにこの問題をお考えになっておりますか、伺っておきたいと思います。

[025]
政府委員(検事(刑事局長)) 井本臺吉
入管局長の方から説明がありました370名の強制収容中の者についてでございますが、これは入管局長の説明の通りで、前科の数から言いますと3犯以上というような、あるいは麻薬常習者あるいはヒロポン関係または殺人とか強盗とかいう累犯の刑余者でございます。従って、かような者は日本の国内にフリーにしておかないということがわれわれとしては望ましい状況なので、もしでき得るのであれば、何とかさような状態にしてもらいたいということを強く要望しておるわけでございます。

ただ、入管令そのものの施行状況、これはまた後ほど内田局長の方からも説明があると思いますけれども、1年以上の体刑処分を受けた者は強制送還できるということになっておりますが、これの問題につきましても、韓国側がどうしても引き取らない。前の平和条約締結前の状況では、こちらが退去強制にすれば、どんどん向うが引き取っておったそうでございます。その関係で、一時1年をこえる程度の簡単な罪の者も相当収容されたことがあるようでございます。この交渉の段階におきまして、ある程度そのような軽い程度の者は一時仮放免等のやり方で国内には出しておるという状況もあるので、政治的な裁断として、いろいろ身柄の引き受け等ができれば、ある程度の釈放ということも可能ではないかと考えます。

ただ、そのような凶悪な犯罪をするおそれのある者を、外国人でありながら永久に韓国に返せないというのでは、これはわれわれといたしましては措置のしようがないので、その点は一つ十分考えてもらいたいということをお願いしておるわけでございます。従来1年をこえる程度の体刑処分を受けた者の処置につきましては、入管局長の方が詳細を知っておりますので、入管局長の方から一つ御説明願いたいと思います。

[026]
政府委員(法務事務官(入国管理局長)) 内田藤雄
ただいまの刑事局長のお話を補足してちょっと御説明申し上げます。

終戦後占領軍が日本の実際の実権を握っておりました時代、つまり昭和27年の4月までの間、これは韓国側もこの入管令を――占領軍は文字通り入管令に従って処置して参りまして、体刑1年以上の刑を受けましたような者はどんどん大村収容所に送りまして、そうしてまたそれを向うへ送還いたしたのでございますが、韓国側も何にも文句を言わずにそれを受け取ったのでございます。ところが、講和条約が発効いたしますと、がぜん向う側の態度が変って参りまして、そういう戦前からおる者については居住権があるんだというような理由で引き取りを拒んでいたのでございます。その間に時間的なずれがございました関係で、昭和27年度内にはそういったただ一ぺん懲役1年以上の刑を受けたにすぎないような者がかなり大村収容所に収容された事実がございます。

それで、その問題がずっと懸案になっておりまして、昨年暮れから、先ほど三田村委員からもお話がございましたが、収容があまりにも長期にわたるということ自体が一つの人権の問題でもございますし、また、われわれ自身が、その後にそうした実情にかんがみまして、退去処分に付します者との均衡などを考えまして均衡を失しておるというようなこともございまして、かたがた去年の暮れから漸次これらの者を釈放して参りました。しかしながら、その結果は、現在まで十分には判明いたしておりませんが、はなはだおもしろくない結果が出ておるようでございます。つまり、相当の部分の人が再び犯罪を犯したというようなことによって逮捕、裁判を受けておるというようなことを聞いております。

それから、先ほど申したことでありますが、実際刑務所から送られて参ります者の数は非常に多いのでございますが、この管理令から見ますとこれはもっとも、管理令も義務づけておるわけではないのでありまして、退去処分することができるとなっておりますが、それを非常にしぼりまして、先ほど申しましたように、非常に凶悪な犯罪者か、あるいは犯罪常習者と認められるような者のみを退去処分いたしておりまして、そのほかの者は在留許可にいたしております。遺憾ながらこれも相当そういう者はまたやがてわれわれのところに回ってくるという例が少くございません。

なお、保護処分の問題でございますが、私もこの点よく存じませんが、刑務所から直接出たその直後は、半年か何か保護処分の保護の線に乗るのでございますが、一度われわれの方の大村の収容所に入りまして、そこで半年以上経過したような者はその線に乗らないのでございます。現在におきましては、大村収容所から仮放免の者を保護する法的な機構ないしは施設は実際上存在していないという実情でございまして、先般、先ほど申しましたような200数十名を出しましたときも、特別措置といたしまして、保護に堪能な朝鮮人などに頼んでいろいろやりましたのですが、これは法的な根拠を持ったものではなくして、実際上の措置としてわれわれとしてやったわけでございます。

[027]
自由民主党 三田村武夫
だんだんその実態は明らかになってきたようでありますが、先ほど、刑事局長の御説明でしたか、大体犯罪者のうち1割ですか、いわゆる内地在留の朝鮮人の犯罪者が非常に多いのです。しかも、その処置については、お話を伺っておると、非常にあいまいなことで、国内におってもらっちゃ困る、保護する者も引取人もないという者を、政治的な考慮で、あるいは今度また大村収容所から釈放しなければならないというようなことは、治安上相当な問題があると思うのです。

近ごろ新聞を見ておりましても、集団強盗であるとか、あるいは大きな、新聞の3面をでかでか4段抜き5段抜きでにぎわす事件の中には大がい朝鮮人なんかおるのです。これは治安上非常に重大な問題で、十分検討を加えなければならぬと思うのです。

法務当局としても、もとより民族平等の原則から、朝鮮人なるがゆえにどうしようとか、特別な扱いをしようというのではないのですか、しかし、犯罪の防止、治安の確保という面から言えば、これは私は軽々に放任するわけにはいかぬと思うのです。しかも、今度これが大きな外交上の問題になり、あるいはまた政治問題にまで発展して、あの李ラインにおける無謀なる向うのどうかつ声明といいますか、こういうことによって日本人全体の生存権すら脅威されておる今日、こういう問題をそう軽率に、ただ事務的な問題として処理することは、われわれ当法務委員会の一員としてどう黙って見ておられぬような気がするのであります。

一体、こういう非常に悪質なといいますか、常に犯罪の先頭に立って治安上何らかの害毒を流すというような傾向のある者に対しては、どういうふうに将来お考えになっておりますか、あるいは現在何らか特別なお考えをお持ちであるか、一つ刑事局長から伺っておきたいと思います。

[028]
政府委員(検事(刑事局長)) 井本臺吉
先ほど申しましたように、さような悪質な者は、戦前からの居住者であるといなとを問わず、何とか朝鮮の方に帰してしまいたい、さような方向にできるだけ全力を尽しまして、目的を達したいというように考えております。